豪州とニュージーランドのブロードバンド政策 - 松本徹三

2010年06月28日 10:00

日本では米国のオバマ大統領のブロードバンド政策が注目されていますが、米国の場合、貧富の差が日本や欧州各国と比べて大きく、また情報通信産業については利害関係者が多岐にわたって輻輳しているので、現時点での報告書を見る限りでは。首をひねるところも多々あるように思いました。何人かの米国人の友人達も同じ意見でしたので、もう少し事の推移を見る必要があるでしょう。


これに対し、豪州、ニュージーランド、シンガポール、韓国などの情況は、日本にとってより参考になるような気がします。特に注目すべきは豪州とニュージーランドです。この両国は、日本にとっては似たような国のように見えますが、ブロードバンド政策については、対照的な推移を辿りました。

先ず、ニュージーランドですが、2008年11月に9年ぶりの政権奪還を果たした「国民党」は、選挙期間中から、国費15億NZドルを投入して国家ブロードバンド網(FTTH)を整備することを公約、これが選挙結果にも好影響を与えたと言われています。

ニュージーランドでは、この選挙前に既に日本のNTTに当たるTelecom NZの「機能分離(Operational Separation)」が実施されていますが、面白いことに、この実施過程において、Telecom NZ自身からは「構造分離案」が提案されたというのです。しかし、業界や規制機関は「見返りの要求が大きすぎる」という理由でこれを却下、結果として、政府主導の極めて厳しい「機能分離」が実施されました。

「構造分離案」が却下されたので、「アクセス網部門」「卸売り部門」「小売部門」の全ては同じTelecom NZの組織内になお並存していますが、先ず「アクセス網部門」は「Chorus」という新しいブランドとなり、その利用については、Telecom NZと競争事業者の間に厳格な「同等性」が確保されました。「卸売り部門」と「小売部門」との間でも、同じように厳格な「同等性」が確保されています。

重要なことは、この「同等性」を担保する為に、
1)独立した監査組織(IOG)の設立
2)詳細なマイルストーン(工程表)の設定
3)違反に対する厳しい罰則規定の制定
が同時行われたということです。
(時折、違反行為に対する監督官庁による「注意」が行われるだけで、大抵のことがナアナアで済まされてしまう日本の現状とは、とても大きな違いがここにあります。)

更に重要なことは、この過程の中で、Telecom NZ自身による「自主努力」が着実に行われたということです。「公正競争を徹底する為には意識改革が必要。その為にはトップが替わることが必要」という考えから、それまでのCEOには辞任を求め、その後任に、英国のBT Wholesaleから新しいCEOを招聘しました。新CEOは、期待に応える為に徹底的な組織文化改革を行い、社内に「目安箱」のようなものを設置して内部チェックまで行っているとの事です。

この一連の措置の結果は極めて良好で、競争事業者は一様に現状を評価、心配された投資意欲の低下も当面全く見られていないという事です。

これに対し、豪州の情況は輻輳しています。

豪州でも、2006年から日本のNTTに該当するTelestraの「機能分離(Operational Separation)」が実施されていますが、「分離」は極めて不十分、且つ「自社の小売部門と競争事業者の『同等性』を担保する仕組みが全く出来ていない」等の理由で、競争事業者の不満は一向に解消されていません。

このような不徹底な「機能分離」が行われた背景としては、「実施コストを最小限に抑える為」というのが表向きの理由になっていますが、実際には、当時Tlestraの株主であった豪州政府が「株主価値の下落を恐れた」という事もあったようで、何やら1990年代のNTTの「骨抜き分割」と似たような姿が垣間見られます。

一方、2007年11月に11年ぶりの政権奪取を果たした労働党は、国家ブロードバンド網(NBN)への47億豪ドルの投資を選挙公約にしていたので、政権獲得後、直ちにこの為の入札手続きに入りましたが、「自分達以外にNBN建設は不可能」とタカを括ったTelestraは「構造分離をしないという確約がなければ入札しない」と主張し、入札に必要な書類を提出しませんでした。

(当時米国Qualcomm社のアジア太平洋地域統括責任者だった私は、この時のことを生々しく覚えており、当時TelestraのCEOだったSol Turujillo氏の口からも直接強気の発言を聞いています。)

しかし、大方の予想に反し、豪州政府はTelestraをあっさりと「失格」とし、「NBN会社を分離された独立法人とする(自らは出資はするが支配権は求めない)」ことを提案した業界2位のOptus(Singapore Telecomの100%子会社)が、俄然有力候補として躍り出ました。(この状況下で、Sol Turujillo氏はTelestraのCEOを辞任、米国に帰りました。)

この様な経過を辿った為に、豪州のNBN計画は1年以上の遅れを余儀なくされていますが、去る6月20日に、Telestraは「NBN計画推進の為に設立された公社(NBN Co.)との間で覚書を取り交わした」旨発表、膠着情況が解消されそうな気配が見え始めています。

我々は、こういった他国の情況をよく勉強し、他山の石としなければなりません。どこの国でも、通信事業分野では、かつての独占企業体が、主として既存の固定網インフラを支配しているが故に、未だに大きな力を握っており、これと競合する新規事業者や政府との間で確執が絶えません。しかし、どんな国でも、「現状のままがよい」という議論が支配的であるというような事はあり得ず、日々公の場で激しい議論が闘わされており、その結果、強大な力を持った支配的な通信事業者のCEOの首も、簡単に飛んでいるのです。

日本とは比較にならぬほど人口密度が希薄で、それ故に無線への依存度(期待度)がはるかに大きくても不思議でない豪州やニュージーランドでさえ、FTTH(光の道)はこれらの議論の中核です。「FTTHの議論は時代遅れ」とか「NTTが反対することが実現するわけはない」というような奇妙奇天烈な議論が白昼堂々と行われている国は、恐らく日本だけでしょう。

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