日本の政治制度の改革 - 参議院の廃院と首長の直接選挙制度 -中谷孝夫

アゴラ編集部

7月11日の参議院改選で発生した民主党の敗北により、かってあった「自民―民主の逆ネジレ現象」が再発した。「参議院のネジレ現象」は、法案通過の困難性の問題もあるが、一番大きな問題は法案通過数の激減によって、国庫が負担する「立法の経済的なコスト」が急激に増大する点である。財政が破綻に直面している現状からしても、改革の実施が緊急を要する事態になっている。今回で2度目だが、将来も発生する可能性を考慮に入れると、「ネジレ現象解決の最善の方策」は、参議院を廃院にするのが一番効果的な対策だろう。仮に参議院議員一人の直接経費が年間1億5千万円と仮定すれば、247人の参議院をなくすることによって、年に370億円を節約できる。これに間接費はいくらいうはっきりとした数字はないが、間接費が直接費の5割と仮定すれば、総額で556億円の経費の節約となる。


参議院は「憲法の番人」とか美化されて呼ばれるが、実態は衆議院議決の後認をしているだけで、何のメリットがないどころか、逆に「政治決定を遅らせている」という大きな欠点がある。

衆議院の定数も現在の480人から250人に半減させる。原則的には各県4人で全国合計200人であるが、50人を人口の過多により追加配分をする。東京は追加6人、大阪、神奈川、北海道は追加2人という具合に、残り50人を追加配分して、最終的に定員を250人に調整する。この衆議院定数の230人の減少で、参議院廃院程度の費用が節約できるだろう。つまり両院で1100億円程度の予算の節約が可能である。その上、定員の削減からくる衆議院議員の質の飛躍的な向上のベネフットは金額に換算出来ないくらい大きいくて重要だ。

日本政治実態の欠点の一つとして、憲法を含めて、既存の法律改定が現実よりもかなり遅れていることであろう。「公務員改革」、即ち「公務員数と報酬の削減」の必要が議論されている今日、「参議院廃院」はその前にやるべき事だろうと思う。政治家だけを例外に取り扱う必要はないだろう。「リストラの痛み」はトップを含めた全階層で負担するのが公平だ。アメリカに住んでいて政治番組をテレビで見ていると、いかに日本の政治家の資質が低いかということを何時も痛感する。これは日本の選挙制度において世襲と知名度が集票の一番大事な要素になっているからだと思う。企画力や政策能力が投票で高く評価されているとは思えない。

日本の財政危機は、国民がよく理解していると思う。国の累積債務が1000兆円近くになり、予算も40兆円足らずの財政収入に比べて、83兆円を支出していたらどうなるかは、高校生でも分かることだろう。その40兆円のうち、人件費が32兆円とも言われている。その収支を合わせるために、44兆円の国債を発行している国は、世界の先進国でも日本だけだ。先日カナダで開催されたG20会議でも、「日本は例外的な扱い」を受けた。はっきり言って、「日本は箸にも棒にもかからない」と言うことだろう。「衆参議員削減」が実行に移されれば、「公務員改革」がそれに続くだろう。政府は、来年の予算要求枠を一割減にしようとしている。ということは、来年の予算の支出額は75兆円程度になると言うことだろう。仮に収入が微増で40兆円程度とすれば、なお35兆円程度の収入不足になる。これでは、いくら日本が「海外投資額が世界一」だと言いわけしても、財政悪化のスピードの方が速くて、いずれ国債の国内消化も限界に来るだろう。ある時国民が、突然簡易保険に危機を感じて、預金の引き出しに走れば、結果がどうなるかは明瞭である。

アメリカに長く住んでみて、日本の行政コストの高さに驚く。アメリカの最高裁判事の定員は9人に比べて、日本は15人だ。これも7人で十分やっていけるだろう。最高裁は合議制なので奇数であれば良い。「リストラの必要性」は地方公共団体にも言えることであって、日本の県会や市会議員の規模は最低半減しても十分にやっていけるだろう。

「リストラの痛みを全員で負担するという公平の原則」から、皇族も「年金を貰って京都か奈良へ隠居してもらって、大統領制にする」方が、近代国家の体制により近くなるだろう。皇族にとって「束縛されて人権のない生活から、普通の国民として、自由に生活される」方が人間的にも良いのではないだろうか。

今の首相制度は、「国民が直接首長を選んでいない」という根本的な欠陥がある。今日の流動的な世界情勢に、「国民が直接選んだ大統領」が迅速に対処するという体制をとる方が、激変の時代に適合しているように思う。いま天皇陛下が行っている「認可を主とする国事行為」は最高裁長官が行えばよい。これで「三権分立のより実際的な姿」に少しでも近づくことが出来る。大統領は赤坂御所に住む。皇居は「日本が21世紀に生き残れる最先端の研究所」に改造するという土地の効率的な利用を考える時期に来ていると思う。東京の皇居を中心とした交通網は、環境問題にとっても最悪だ。

もう日本は小手先だけの改革では、いずれ破綻する時期に来ていると思う。ただ、「変革に伴う苦痛は、全ての層で負担」しないと自殺件数の急激な増加や暴力的な社会変革が突然発生しないとも限らない。今回の選挙の中心議題であった消費税率引上げの問題は、経費の削減が前提になるにもかかわらず、それをしないで、増税だけを議論したので民主党が敗北したのであろう。予算だけではなく、社会体制の中に「仕分け」をする対象はまだたくさんある。国民の多数が平等に負担する形の財政改革の増税は容認すると思っている。

    2010年7月20日     米国ミネソタ州にて

「中谷孝夫」View from Lake Minnetonka(ミネトンカ湖畔からの観察記)
在米44年、元ウォール街の証券アナリストの日本観

コメント

  1. qingmutong より:

    >参議院「憲法の番人」と美化して呼ばれているが

    「憲法の番人」は裁判所であって参議院ではありません。

    >40兆円の中、32兆円が人件費

    手元に資料を持ち合わせないので断言できませんが人件費が32兆円とは過大ではないでしょうか。

    ここで提言されている「参議院の廃止」「議院内閣制をやめ大統領制に」はいずれも憲法改正が必要であり、100%実現可能性はありません。
    ブレインストーミングとしては意味があるかもしれませんが政策提言としては無意味です。

  2. mary_0423 より:

    >40兆円の中、32兆円が人件費
    >>手元に資料を持ち合わせないので断言できませんが人件費が32兆円とは過大ではないでしょうか。

    税金の裏金化による、実質的な横領人件費を明らかにしないと実態把握は無理なのでは。

    >ここで提言されている「参議院の廃止」「議院内閣制をやめ大統領制に」はいずれも憲法改正が必要であり、100%実現可能性はありません。
    ブレインストーミングとしては意味があるかもしれませんが政策提言としては無意味です。

    「質量保存の法則」や「重力の法則」を人間が変えることは100%実現不可能かもしれないが、所詮、人間が作った憲法を「100%実現可能性はありません」等と、軽々しく口にするのは理性ある大人では無いことの証左です。実現可能性が低いと言うのが理性ある大人です。

  3. asoa より:

    皇室にも言及されていますが、話をタイトルに絞った方がいいと思います。

    皇室の予算は200億以上かかっていたと思います。
    大金には違いありませんが、皇族(天皇だけではありません)の純粋な生活費はこのうち六億程度。またこのお金で豪遊しているとも言い切れません。

    >国民が直接主張を選んでいない
    直接選んだら天皇陛下との権威の優劣が問題になります。

    >三権分立のような実際的な姿
    現行制度的には「三権」そのものに権威を与えている根源はそもそも天皇陛下ではないでしょうか。

    >東京の皇居を中心とした交通網は、環境問題にとっても最悪だ。
    数キロ平米の土地を迂回した交通網は無駄といえば無駄ですが、皇居(江戸城?)の方が先に存在したわけで、権威を見せつけるためにあの場所に皇居を作ったわけではないでしょう。
    何かのきっかけに改善できればいいでしょうが、民間の邪魔になったから退けというのは経済的都市計画的というよりポピュリズム的な発想ではないでしょうか?
    交通網を論じるなら都心の高速網について考えた方がいいと思いますし、とってつけたような話になっています。

    私の指摘にはいくらでも突っ込みどころはあると思います。
    皇室を排除するような議論はするなと言っているのではありません。
    色々な議論があるのはしっておりますし、中谷氏の立場もわかりましたが、10行程度で終わらされても困る。

    皇室を論じるなら別のエントリーで論点を整理しなおした方がいいでしょう。
    論文の終盤でこんな刺激的な話をされたらそれまでの主張もふっとんで忘れ去られてしまいますよ(苦笑

  4. katrina1015 より:

    ふと疑問に思ったのですが、どうやって?
    その政治改革を実現すればよろしいのでしょうか?財政破綻より難しいと思います。
    ひょっとして、大連立で?

    その財政破綻ですが、実際どのような状況どの時点で破綻といえるのかはっきりしません。インフレに転じていくだけのような気もします。ま、ハイパーなのかマイルドかはわかりませんが。
    次に陛下は対外的に「日本国国王」です。
    大統領と基本的には同じで、「存在」ではなかったかと思います。ええですから、大統領という存在に対して、隠居したらというのも有り得ない感じもします。
    大統領に権限があるかないかは、その国の法律によるのではないでしょうか?
    全く行政権を持たない大統領も存在するかもしれません。選挙で陛下を選ぶような
    感じですかね。革命でもなければ、日本で
    大統領選はありえない?立法権があれば
    ですが、その前に憲法を。。。気が遠くなります。たぶん、歴史を否定することになりますから、日本は無くなりますね。
    陛下も米国大統領も存在ですから、任期期間中は死亡以外、あり続けなければ
    なりません。つまり、陛下を選挙で選んで
    行政権をプラスするということです。
    財政破綻より論理が破綻します。
    隠居は失礼ですlol……………..lol