役所の日本語説明能力 - 原 淳二郎

アゴラ編集部

まず日本語クイズ。

多少の所得がある配偶者と大学生の子どもを持つ年金生活者がいます。生計を維持している対象者はだれとだれでしょうか。年金に多少の上乗せがある 加給年金をもらえる対象者はだれでしょうか。


普通に日本語を理解すれば、生計を維持している対象者は配偶者と子どもである。加給年金の対象者は所得のある配偶者より学費がかかる、収入のない 子どもになる。しかし、正解は生計維持対象者は配偶者だけで、学生の子どもは生計維持の対象でもなければ、加給年金の対象でもない。

役人の使う日本語と庶民の使う日本語にはどうもずれがある。役人のいう生計維持とは一緒に暮らし生計をともにしているかどうかは関係がない。

9月初め年金機構から生計維持現況届けを出せという手紙がきた。上記の疑問を持ったので電話で問い合わせた。20歳以上の子どもは生計維持の対象 にはならない。配偶者は年収800万円以下なら生計維持の対象になり、加給年金額の対象になる。こんな答だった。所得税の配偶者控除と年金の加給 年金の適用条件は違うのだ。

これらを確認してから現況届けを出した。するとまた年金機構から現況届けが送り返されてきた。先に提出した生計維持確認届けについて「再度記入内 容の確認が必要になりました」というのだ。提出前、電話で確認して郵送していたのになぜだ、と思ったが、どうも届けの加給年金額対象者の蘭に漢字 による記入がなかったため返送してきたらしい。

その蘭には配偶者の生年月日、カタカナの氏名が記入されている。機構はちゃんとわが家の現況を把握しているのだから配偶者の代理で署名をせずに返 送した。それでも配偶者の名前を漢字で記入し返送せよ、ということらしい。

いったい機構は何を確認したいのか。配偶者の名前の漢字表記を確認したいのか。配偶者が死亡したり年収が800万を超えていないかを確認したいの か。機構からの手紙には、配偶者が死亡ないし離婚などで生計維持関係がなくなった場合は別途手続きが必要とある。

ならば本人の署名がいるはず。受 給者が代理で署名していたら生計維持関係にあるかどうか確認できない。とっくに死亡している夫の遺族年金を、子どもや孫たちが不正に受給していた 事件があった。勝手に署名して提出できるのだから、不正は見抜けないわけだ。

本人の署名は必要ないのか。今回も年金機構に問い合わせてみた。「生計維持関係がなくなればいずれ市区町村の住民基本台帳から分かるので、もし関 係がなくなっていればその時点で過払い分は年金から減額されるので代理署名でも心配には及ばない」。しかし、長年市町村から連絡がなかったから不 正受給につながったのではないか。

例の事件以降、100歳以上の高齢者が生存しているのかいないのか、現況確認が問題になっているが、100歳以下の年金生活者ははるかに多い。そ の現況確認はもっと手間ひまがかかるはずである。ちゃんとした日本語で分かりやすく説明していれば、これらの手間ひま、ひいては予算も大幅に節約 できるはずである。