デフレにどのように対処すべきか- 辻 元

2010年11月01日 10:55

(1)デフレの原因

デフレは結果であって原因ではない。 デフレの原因は言うまでなく、外的なもので内的なものではない。 即ち、海外の安い労働力との競争、インターネット通販、インターネットバンキングに見られるような流通の効率化、手続きのセルフ化がデフレの主な原因である。 これは社会の効率化であって本来、歓迎すべきものである。


ところが、一方でこういった効率化によって、生産の海外移転、効率化による雇用の喪失が起きるので、これが問題である。 理論的に考えれば、全ての人が、高度な専門性や能力を必要とされる高付加価値の労働をすれば、それは防げるが、それは現実的ではない。

日本に先行して生産の海外移転が起こったアメリカ社会を見ると、社会の大きな部分を貧困層が占める。 こうした貧困層が今日本に出現しつつあるというのが、私の見方である。 バブル崩壊後、巨額の政府支出によって、貧困層の出現を抑えてきたのが、小泉政権で始まった構造改革路線で一気に問題が表面化した。 

エコノミストの中には、デフレを解消することが急務で、デフレが解消すれば事態は好転するかのような主張が見られるが上のように考えると、社会の効率化は自発的に起きているもので、それを押さえ込むことはするべきではないし、実際にはできない。

(2)デフレ解消の方法

それでも、デフレを解消するという目的で、日銀による量的緩和が行われている。 デフレを政府の財政政策で解消することは理論的には可能である。 実際的には、財政政策で多額の現金を国民に配るといった政策であり、実際に子供手当てに見られるようにできないことではない。 

しかし、こういった方法でデフレを解消するには多くの問題がある。 第一にどのくらいの対策をすればデフレ脱却できるのかが、はっきりしない。 子供手当ての結果を見てもかなり巨額の対策をとるか、とり続けないとデフレは脱却できない。

ここで問題になるのは、政府が抱える巨額の国債発行残高があることで、デフレを抜け出す際に、インフレをマイルドな範囲にとどめるのが困難であるからである。
実際、政府がインフレを制御するには、資金吸収をすればよいが、巨額の既発国債が値下がりする状況ではコントロールが非常に困難であるからである。 即ち、巨額の財政赤字がデフレを抜け出すことを難しくしている。  

その他にも、インフレターゲットでインフレ期待を醸成するという方法もないわけではないが、実際には既に日銀は物価安定の基準を設けており、事実上既にインフレターゲットを設けている。 しかし、こういった方法で実際にマイルドなインフレを起こすというのは単なる願望でしかなく、実際的とは言いがたい。 インフレターゲットの達成を日銀に義務付けるということも考えられないわけではないが、日銀がリスク資産を大量に購入するといった市場を歪める政策を取らざるを得ず、大規模に行えば日銀が債務超過に陥る危険がある。

以上のようにデフレをいわば人工的な方法で解消するのは実際的ではないし、先に述べたようにやるべきでもない。

(3)求められる対策

以上のように、今日のデフレはバブル崩壊後の巨額の財政支出の失敗の結果として起きており、その際に作られた巨額の国債発行残高が足かせになってデフレを解消することは困難であると思われるが、それでは巨大な貧困層の出現を手をこまねいて見ているというのでは社会が不安定になってしまう。

そこで、私が提案したいのは、増税によるセイフティーネットの拡充である。 日本にアメリカ並の貧困層を出現させるのは、日本の社会構造には馴染まないと思うからである。ヨーロッパ諸国並の消費税を設けて、失業者への手厚い対策、特に職業訓練を行うべきではないだろうか。 即ち、日本が目指すべきは、アメリカ型の社会構造ではなく、フランスなどのヨーロッパ型の社会構造ではないかということだ。

増税すればデフレがひどくなるかも知れないが年1-2%なら問題はない。増税をしないと既に財政破綻が近い状況なのであるから、いずれにしろ増税は避けられない。 残された時間は少ない、政府は国民の反発を恐れずに国民を説得し、増税を断行すべきである。
(辻 元 上智大学理工学部教授)

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