情報通信技術の発展を無視する古めかしい施策

山田 肇

地下鉄の駅で『大都市交通センサス』のアンケート用紙を渡された。これは国土交通省が実施しているもので、「首都圏、中京圏、近畿圏における大量公共輸送機関の利用実態を調査し、今後の公共交通網のあり方の検討等の基礎資料とする」ことを目的としたものだそうだ。

アンケート項目は、性別・年齢、丁目までの住所、鉄道定期券所有の有無、今日の移動の目的(通勤・通学・業務・私事・帰宅)、自宅から駅までの交通手段、出発駅からの経路と利用した列車種別、降車駅から目的地までの交通手段などである。


昭和35年以来5年ごとに実施し、今年は第11回目にあたるというが、今時、こんな調査を続けているとは驚きだ。SuicaやPASMOの利用データを収集することで、365日24時間、鉄道事業者は交通量を把握しているというのに、5年に一度わずか三日間の大都市交通センサスがなぜ必要なのだろうか。

2001年に導入されたSuicaはすでに3000万人を越える人々に保有されるまで普及した。PASMOの発行数も1000万を越えている。SuicaやPASMOを利用するたびに、鉄道事業者に出発駅と降車駅、経路などの情報が入る。これらのカードに定期券やクレジット機能が付いていれば、氏名・住所・性別・年齢と結びつけることもできる。出発時刻と降車時刻から利用した列車の種別も推定できる。

鉄道事業者はSuicaやPASMOから得られるデータを活用して鉄道事業の効率化を進めている。データは「えきなか」ビジネスにも活用されている。そんな時代に、駅頭でアンケート用紙を配布して郵送を求める、大都市交通センサスをなぜ行うのだろうか。

先日の事業仕分けは評判が悪いが、じっくり調べれば、まだまだ無駄な事業がありそうだ。

山田肇 - 東洋大学経済学部