もう坂の上に雲はない

2010年12月06日 14:58

来年のNHKのスペシャルドラマは「坂の上の雲」だという。坂本龍馬が終わったと思ったら、今度は日露戦争。NHKがこういう明治時代の話ばかりドラマにするのは、人々の中にあのころの日本へのあこがれがあるからだろう。「光の道」をめぐる議論でも、専門家は誰もソフトバンク案を相手にしなかったのに、多くの「追っかけ」が孫正義氏を龍馬に見立てて「国を変える」運動に集まった。


こういう群衆心理はわからなくもない。もう20年にわたって展望のない日本経済を一発で改善する「魔法の杖」があるのなら、それを使わないのはおかしい。しかし日本の社会資本整備率は先進国の平均を超え、光ファイバーの普及率も世界一だ。過剰なインフラにさらに投資しても、成長率が上がることはありえない。10年後に何が最適なインフラかは、誰にもわからない。

今までは経済発展という坂を上った先に欧米の先進国という雲があったので、やるべきことは簡単だった。欧米の技術を導入し、制度をまねて彼らに近づけばよかったのだ。官僚主導の国家体制は、それには適していたのかもしれない。日本の高度成長は、こうしたキャッチアップの過程としてほとんど説明できる。

しかし近代化という坂を上り切った日本には、もう雲は見えていない。めざすべき目標がはっきりしないとき必要なのは、「国がしっかりする」ことではなく、自由な経済活動を認め、市場経済による試行錯誤で目標をさがすことだ。それがプラットフォーム競争や周波数オークションが重要な理由である。

これから下り坂にさしかかる日本にとって必要なのは、無理をしないで今までの蓄えを大事にし、負担を均等化することだ。全国あまねく新幹線や光ファイバーを引くコストは将来世代の重い負担になるので、過剰投資はやめて都市に重点的に投資する必要がある。社会保障も大幅に整理して、自己責任を原則とするしかない。これはドラマにはとてもならない散文的な仕事だが、これからは坂の上の雲をめざしてみんなで走り続けるより創造的な時代になるだろう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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