メディアは中国の軍事的脅威を正しく伝えてきたか

2011年01月05日 14:19

 昨年末、12月30日の朝日朝刊一面トップ記事「中国軍が離島上陸計画」に驚かれた方は少なくなかったろうと思います。記事は従来の中国観の変更を迫るものだからです。恐らく記事の狙いもそうなのでしょう。詳しくはasahi.comの記事をご覧いただきたいのですが(そこには中国が管轄権を主張する広大な海域の図も掲載されています)、その要点を以下に示します。

『中国軍が、ASEAN諸国と領有権をめぐって対立する南シナ海で、他国が実効支配する離島に上陸し、奪取する作戦計画を内部で立てていることを広州軍区関係者が明らかにした。策定には、圧倒的な軍事力を誇示することで外交交渉を優位に運ぶ狙いがあるとみられる。


 計画は空爆による防衛力の排除と最新鋭の大型揚陸艦を使った上陸が柱で、すでにこれに沿った大規模軍事演習を始めている。空軍と海軍航空部隊が合同で相手国本国の軍港を奇襲し、港湾施設と艦隊を爆撃する。1時間以内に戦闘能力を奪い、揚陸艦「崑崙山」(満載排水量1万8千トン)などを使って島への上陸を開始。同時に北海、東海両艦隊の主力部隊が米軍の空母艦隊が進入するのを阻止するという。

 中国は南シナ海を「核心的利益」と位置づけて権益確保の動きを活発化しており、ASEAN諸国や米国が懸念を深めるのは必至だ。中国は沖縄県の尖閣諸島をめぐっても領有権を主張しており、尖閣問題での強硬姿勢につながる可能性もある。

 中国政府関係者によると、領有権を争う南シナ海の南沙と西沙両諸島のうち、中国が実効支配しているのは8島。ベトナムが28島、フィリピンが7島を支配するなど、中国が優勢とは言えない状況だ』

 これを一面トップで報道したのが中国寄りと定評のある朝日新聞であることにまず驚かされます。またこれに関連する記事が『中国の離島上陸作戦で三菱重工に注目の目、来年の活躍期待』という東洋経済オンラインの株情報の記事だけで、後追い記事が全くないというのも意外です。

  この記事は中国の外交が軍事的威嚇による、あからさまな砲艦外交であることを示しており、日本にとって決して他人事ではありません。日本の安全保障に大きく関係する重大事だと思われますが、他のメディアの冷淡さがなんとも不思議です。日本のメディアは歌舞伎役者の喧嘩沙汰や芸能人の不倫などには大変な関心を示すようですが。

 中国の国防費は年率はこの20年で18倍になったといわれていますが、信頼できるとはいえない隣国の軍事的膨張は我国の安全保障にとって極めて重要なことであるにもかかわらず、現在までその重要性にふさわしい報道がされてきたでしょうか。

 2010年度の中国の「軍事費」は公表の「国防費」5321億元(約6兆9千億円)の約1.5倍に上る7880億元とされ、これは日本の防衛費の約2倍です。気がつけばお隣の国はいつの間にか世界第2位の軍事大国になっていたという印象があります。

 一方、日本の防衛費は中国とは逆に、この9年連続で減少しています。この背景にはメディアが近隣国の軍事的脅威を過小に報道してきたことがあるのではないかと疑われます。

 尖閣問題の折、東京で反中デモが数回ありましたが、大手メディアは黙殺しました。恐らくそれは日本の反中国ナショナリズムを刺激することを恐れたためだと考えられますが、産経までも含め、あまりにも足並みが揃っていたので、何らかの圧力が働いたのではないかと勘ぐりたくなります。

 非武装中立論、あるいは平和憲法を守れば平和が保たれるという考えが戦後大きな力を持ち続けました。そこには戦争とは日本からしかけるもので、他国から攻められることはないという非現実的な認識があったように思われます。左寄りのメディアはこのような非現実論を広め、防衛力増強の問題は議論さえも半ばタブー視されるような風潮ができあがりました。防衛力の必要を訴える者は軍国主義者と見られるような有様であったわけです。

 多くの日本のメディアは、他国の軍事的脅威に対して日本が軍事的に対抗する事態になることを極度に恐れてきたように思います。そのため、ナショナリズムを刺激する報道を避け、中国の軍事的脅威を過小に報道してきたのではないか、という疑念が生じます。他国の脅威を過剰に煽るのは危険なことですが、過小に思わせるのも間違っています。

 19世紀の帝国主義を思わせる、軍事力を急膨張させている隣国があり、しかもその国が軍事的威嚇を武器にする外交を目指しているとなれば、安閑としていられる情勢ではないと考えるのが普通です。防衛費を9年連続で減少させて大丈夫なのかと気になります。防衛力の整備は短期間で出来るものではありません。

 かつて多くのマスメディアは北朝鮮を実態を見誤り、「地上の楽園」と喧伝し、それを信じて渡航した数万人の人々の運命を狂わせました(むろん責任は一切とりませんが)。これはメディアが横並びで判断を誤り、重大な結果を招いた例です(この背景には共産主義に対する根拠なき憧憬があったものと思われます)。

 メディアの偏った認識が日本の安全保障の方向を誤らせれば取り返しのつかないことになる可能性があります。今後中国がどのような国になるかを確実に予測することができない以上、予測可能なあらゆる事態に備えることは当然です。この朝日らしからぬ記事は長期の安全保障を考える上で一石を投ずるものと思われます。

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