国民を惑わす内定率発表を改めよ - 鈴木和夫

アゴラ編集部

政府発表の就職内定率よりはるかに低い県別内定率の発表が続いています。文部科学省および厚生労働省が2001年12月1日までに平成23年3月大学等卒業予定者の就職内定状況等報告書をまとめた結果、就職内定率は68.8%。前年同期を4.3ポイント下回っています。この68.8%というのは、つまり約7割の大学生が内定をもらえたという数字であると読みとれます。


しかし、これは、新聞、テレビなどのマスコミや大学関係者に公表され、数字が浸透すると誤解を与えることになるのではないでしょうか。

というのは、一方で内定率は、県別(労働局)でも詳細にデータを採り、発表しています。
千葉県の大学生の就職内定率2割ほど低い49%でした。そこで発表している各県別の集計を見てみると5割を割った千葉。その他の県の発表を見ると、広島58%、静岡55%、岡山51%と6割にはるかに届きません。兵庫県が62%でようやく6割を超えています。

関東では、前回(2010年10月時点)、3割を割った埼玉県の推移が注目されましたが、1月28日の発表では(12月1日現在)46.1%でした。埼玉県は、相変わらず5割を切る低空飛行のままです。埼玉県は国立1校、県立1校しかなく全部39校は、私立大学なので内定率が低いのでしょうが、あまりにも低すぎるといえるでしょう。

実際のところ、国の数値を上回る県がないからです。国の数字より、1、2割低い内定率が発表されています。実態としては、各県別の発表から現時点で内定率5割前後ではないでしょうか。ここからの上乗せ数値は、各大学とも必死だと思われるが、かなり意図的な数字になることが懸念されます。

政府発表の集計を分析する 

まず政府発表(文科省、厚生労働省の共同発表)は、国民のニーズに合わないものです。というのも、大学、高専、短大、専門学校を一緒にして公表している点です。大学は62校、短大などその他50校の合計 112です。さらに1万人に満たない調査では、全体像が見えません。就活生は、50万人以上もいるのです。

また国発表の大学だけを見ると、国立21 公立3 私立38 の62校の約5000人調査。国公立:私立=1:1.6で計算(国公立4割)で全国の大学の割合、つまり国公立:私立=1:3.7で私立が圧倒的に多い実態とは遠いのです。実際の国公立大学は全体の2割しかありません。つまり、国公立比率が高いため、実態より内定率は高くなる傾向になると思われます。

次に文科省は、きちんと内定率を公表しない大学は、罰則規定を設け処罰すべきです。
現在、財務内容公表を求めていますが、就職状況公表も求めるべきです。なぜなら、2011年予算案では国立大の運営費交付金や私立大への補助金、研究費補助金などの大学関連の主要予算が1兆7923億円に上り、前年度と比べ531億円も増えているのです。国民は就職内定率というユーザーに欠かせないサービスの実態を知りたいのは、当然です。1.8兆円という膨大な予算を食いつぶしながら、一部の大学は、就職内定率さえ発表しないのは、消費者の知る権利を踏みにじるものでしょう。

オバマ大統領は、1月25日の一般教書演説の中で韓国の教育を称賛し、先生は「nation builder」(国を作る人)と呼ばれていることを紹介しながら、米国民への教育の大切さを訴えました。大学進学率9位であり、高校中退は4分の1を占める米国への危機感を募らせ、未来を勝ち取る(win the future)ことを誓いました。一方、日本政府の能天気ぶりは、内定率発表にも及び、国民を惑わしながら、実態とは程遠い数字を浸透させ、目に余るものがあるのではないでしょうか。

(鈴木和夫 ジャーナリスト)

<バックデータ>
●文部科学省及び厚生労働省では、23年3月大学等卒業予定者の就職内定状況を共同で調査 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/01/1301442.htm
●平成22年度 埼玉県内大学等卒業予定者の就職内定状況調査(平成22年12月1日現在、埼玉県労働局調べ)について http://www.saitama-roudou.go.jp/press/data/pr110128-02.pdf

<参照・文科省HP>
国立大学 21校 、公立大学 3校、私立大学 38校、短期大学 20校 、高等専門学校 10校 専修学校 20校 合計 112校 (大学62 その他50) 調査対象人員6,250人 大学、短期大学、高等専門学校 計 5,690人 専修学校 560人
設置者・地域の別等を考慮し、文部科学省・厚生労働省において抽出。 各大学等において、所定の調査対象学生を抽出した後、電話・面接等の方法により、性別、就職希望の有無、内定状況等につき調査を実施する

<参照・朝日新聞 2011/1/17>
2011年予算案では国立大の運営費交付金や私立大への補助金、研究費補助金などの大学関連の主要予算が1兆7923億円に上り、前年度と比べ531億円増えた。

コメント

  1. octagonaltower より:

    怪しげな内定率公表を改めろというから、そんなものやめてしまえという主張かと思いきや、罰則付きで大学に厳格に公表させろとは。とほほほ。どこまで社会主義的な発想なんでしょうね。
    就職したいか、就職できたか、なんてのは個人の自由でしょ。大学が罰則付きで正しい情報を開示しなきゃならなくなれば、学生にも罰則付きで正しい申告を求めなきゃならなくなる。何でも罰則で縛れば世の中が良くなるんなら、独裁国家はさぞや住みやすいことでしょう。
    内定率なんてものは、労働行政の参考とすべく、だいたいの傾向が把握できれば十分なんですよ。「ユーザー」の観点というなら、そりゃ就職実績をアピールしたい大学は、自前で調べて公表するでしょ。
    筆者の考え方だと、大学への補助金も就職内定率の高さに応じて配分するんでしょうね。そうなると、大学としては、就職を希望しないよう学生に強要せざるを得なくなり、就活には大学当局から交付された就職希望証明書の提示が求められるようになるんでしょうか。素晴らしい未来ですね。