「あまねく公平」から都市間競争へ

2011年02月10日 00:32

名古屋市長選挙と愛知県知事選挙は、地域政党「減税日本」から出馬した河村市長と大村知事の圧勝に終わった。河村氏が中央政界に足場がないこともあって、これはローカルな特殊事例とみられがちだが、私は違うと思う。東京都では青島知事から、大阪では横山知事や橋下知事から無党派の知事が続いており、今回の出来事は都市部で無党派層が圧倒的な第一党になったことを示している。


河村氏の掲げる政策はポピュリズムの傾向も強いが、「東京に頼っていては何も変わらない」という住民の閉塞感に訴えたことが功を奏したようだ。愛知県の人口は740万人で、県民所得は34兆円。デンマークやフィンランドとほぼ同じ規模だ。世界の一人あたりGDPランキングをみると、ベスト10のうち大国はアメリカだけで、ルクセンブルク、ノルウェイ、スイスなど、知識集約型の産業に特化した小国の成長が著しい。こういう国は農村部への所得再分配がないため、国際競争で有利な立場に立てるのだ。

地方分権は自民党政権でも議論されてきたし、民主党は「地域主権」を掲げている。しかし道州制をめぐる議論は20年以上、前に進まないし、「三位一体改革」も竜頭蛇尾に終わった。このような霞が関からの「分権」には無理がある。中央官僚がみずから権限を減らす改革を行なうインセンティブがないからだ。むしろ大阪や名古屋のように地方政府が「独立」する運動のほうがエネルギーがある。

日本はもともと分権的な国である。近代的な国民国家の形成が遅れ、19世紀後半まで藩の連合体だった。この点で同じく遅れて近代化の始まったドイツやイタリアに似ているが、日本は明治政府が集権化を進め、特に第2次大戦の戦時体制で政治・経済的な権力を東京に集めた。これは戦後の高度成長期に資源を戦略産業に集中する役に立ったという見方もあるが、現在ではすべてを霞が関で決めて都市の生産物を地方に「あまねく公平」に分配するシステムが成長のボトルネックになっている。

だから地方の反乱が全国に広がり、霞が関の影響力を脱却する動きが出てくることは望ましい。この点で注目されるのは、4月に予定されている東京都知事選挙である。石原都知事は、東京の特権的な立場に安住して、新銀行東京やオリンピック誘致などに都民の税金を浪費しただけで、本質的な改革は何もしなかった。今後は、こうした都市を「特区」として、負の所得税や教育バウチャーなど、霞が関とは違う制度を導入する試みが行われてもよい。国民国家の時代が終わり、これからはシンガポールや上海などとの都市間競争が始まるからだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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