光接続料の問題 – 光回線料は本当に安くなるのか?

2011年02月28日 10:00

閣議決定されている「光の道」が果してどういう形で実現するのかは、まだ五里霧中というところだが、この問題にも大きく関係してくる「NTTの光回線の接続料」については、総務大臣の諮問機関である「審議会」が、3月末までの最終決定を目指して現在検討中である。


新聞報道によれば、この問題の一つの鍵となる議論は、「NTTによる分岐貸し」の要否であり、これについては、「ソフトバンク」「イー・アクセス」や「地方のADLS事業者」がこの必要性を主張しているのに対し、「NTT東・西」「ケイ・オプティコムを始めとする電力系の通信事業者」「ケーブルTV事業者」、更に今回は「KDDI」がこれに反対しているという。

KDDIは、昨年までは「分岐貸しは必要」という立場を取っていたが、今回立場が変わったのは、ケーブルTV最大手のJCOMの株式を大量に取得したからであろう。(KDDIは、それ以前に既に東京電力の光回線部門も買収しているから、もともと電力系通信会社の立場をも社内に抱えている。)

NTTは、局内に置かれたOSUという装置で一本の光の芯線を8分岐し、通常の顧客に対してはここで8分岐された回線の一本ずつを提供しているわけだが、ソフトバンクやイー・アクセス等、NTTの回線を借りてサービスを供給するサービス事業者に対しては、分岐された回線を供給することを拒否して、芯線一本単位でしか供給出来ないとしている。

これが3年以上前から議論されている所謂「8分岐問題」だが、実は、私は、今から2年近く前の2009年4月7日に、「目に余るNTTグループの独占回帰の試み」と題して、この事についてアゴラに投稿している。従って、詳細についてはこの古い記事をご参照頂けると有難いが、もしこの方針が是正されないと、ADSL時代にはNTT本体とほぼ同じ条件でビジネスが出来た為、百花放斉の価格・サービス競争を行い、結果として合計で65%に近いシェアを占めるに至った所謂「回線サービス事業者群」が、ほぼ完全に死に絶えることになる。

(現実に、今回NTTが総務省に提出した「需要予測」によると、このようなサービス事業者のシェアは2011年で0.7%、2012年で0.8%、2009年で0.9%と、殆ど死滅したに等しいものになっている。)

去る2月22日の審議会のヒアリングには、ソフトバンクの孫正義社長も出席、34ページのスライド資料を持参して自らの考えを開陳した。その詳細は追って総務省のサイトにも掲示されると思うし、ソフトバンクの主張をあらためてアゴラで語るのは私の本来望むところではないが、取り敢えず以下にその主旨だけを簡単に列挙させて頂く。

1)先の「光の道」タスクフォースでも、「公正競争実現の為には、最低限NTTの『機能分離』は必要」という事は認められたのであるから、NTTの「回線を保有して運営する部門」と「その回線を利用して顧客にサービスを供給する部門」は、明確に分離され、それぞれに独立した別の会社であるかのように運営されるべきである。

2)従って、前者が後者に対し「1分岐端末回線の販売」を可能にしている限りは、他のサービス事者に対しても同様の販売を可能にすべきである。具体的には、前者は、後者以外の他のサービス事業者に対しても、後者に対するのと全く同じ「1ユーザー当たりの回線コスト」で回線を供給すべきである。

3)もし仮に、後者が前者に対して「1芯線当りの価格(分岐線8本のまとめ買いの価格)の設定だけで十分である」と言ったとしても、前者は、「それでは、『先行者メリット』も『規模のメリット』も持たない『後者以外の一般サービス事業者』は、実質的に販売が不可能になる」として、あくまで1分岐端末回線単位の接続料の設定を行い、サービス事業者間の公正競争が実現するようにすべきである。

4)上記を可能にするためには、NTTが自社内に設置したOSUを他のサービス事業者が共用することを認める必要がある。現在NTTは、それは「技術的に不可能であり、運用上も様々な問題を生じる故、不可」としているが、サービス事業者側は「既に実験によって技術的に可能であることは検証されており、NTTの言う運用上の問題も個々に克服できる」としているのであるから、監督官庁の指導下で、両者間で更に十分話し合うべきである。

5)現在申請されているような接続料の算定方式では、「光の道」の実現は遠い将来になっても全く不可能であるから、算定方式を下記のように改めるべきである。(NTTは「3年間で最高31%まで下げることになるから、これで光の利用は進むはず」としているが、この程度ではとても利用が進むとは思えない。)

①将来原価方式の算定機関は3年ではなく5年にすべき。
②需要予測は「光の道」が目標とした需要規模にすべき。
③光ファイバーの耐用年数は30年以上とすべき。
④減価償却は定額法を採用すべき。

6)現時点でNTTが提出している資料だけでは、算定根拠を示す情報の開示が十分でないので、芯線数の算定根拠など、更なる情報の開示が必要である。

さて、審議会の先生方には、「ソフトバンクが上記のようなことを求めている」という受け取り方ではなく、「上記のような『考え方』は筋が通っているかどうか」「このような『考え方』を否定する妥当な理由があるかどうか」をこそ考えて頂きたいのだが、これまでの経験だと、「理」より「力」で物事が決まってしまいそうなのを危惧する。

「力」とは、要するに「事業者(供給者)側の欲求」だ。こうなると、「NTT + KDDI + 電力系事業者 + ケーブルTV事業者」対「ADSL時代に活躍した一握りのサービス事業者」では、結果は既に見えている。

しかし、ここで忘れ去られているのは、「ユーザー(一般国民)の利益」と「ICT立国を実現し、地方格差の是正を計りたい国の意志」だ。そもそも「光の道」の議論も、本来はそこから始まったものだった筈だ。

「光の道」の議論は、ソフトバンクの提案があまりにドラスチックだったのが災いしたのかもしれないが、全く燃焼しきれずに宙ぶらり状況になっている。しかし、少なくともその「理念」は、これから議論されるあらゆる政策論の基礎として残っていなければならない。それは「一日も早く、全国民が等しく、高度で安価なICTサービスを享受出来るようにする」という事だ。

例えば、明治時代に導入された郵便制度は、「日本中どこに行っても同じ切手が同じ値段で買え、その切手で日本中のどこにでも手紙が出せる」という理想を実現した。光回線についても、同じ理想が求められるのは当然ではないだろうか? 具体的には、一人当たりのコストが安くなる大都市部でも、高くなる地方部でも、サービス事業者が『見込み買い・まとめ買い』の出来る大手であっても、それが出来ない中小であっても、ユーザー価格の基本となるNTTの接続料は、一律に同じ値段で設定されるのが当然ではないのだろうか? 

それとも、「明治」は今や遠い昔のこと、今となっては、「理想の実現」等という言葉は「青二才の寝言」以外の何者でもないと言われるのだろうか?

電力系通信会社の立場については、昨年11月15日の私のアゴラの記事を、ケーブルTV会社の立場については11月16日の記事を、それぞれご参照願えれば誠に有難い。共に極力客観的な立場から書いたつもりだ。私が現在勤務しているソフトバンクもまぎれもなく通信事業者であり、私もその意味では供給者側の人間だ。しかし、今は、国の為、ユーザーの為に語る人があまりに少ないので、黙っていられない。

通信インフラについても、「先ず設備競争がなされるべき」、「設備競争に道が開かれていればそれで十分」という考えが、現在は総務省と学者の先生方の間では主流になりつつあるように見受けられる。私の考えでは、これはユーザーの為には極めて不幸なことだ。何故なら、この考えが支配する限り、下記の三つの理由で、地域格差は大きくなり、ユーザー価格は高止まりせざるを得なくなるからだ。

1)設備は大都市部に集中し、地方は切り捨てられる。

2)設備コストの総額は大きくなり、ユーザー価格にはこれが反映される。

3)コストの高い「設備保有事業者」は、ユーザー価格が安くなるような如何なる政策にも反対し、結果として、「寡占事業者によるカルテル体制」が助長される。

上記の中でも、3)は特に重要である。ケイ・オプティコムもKDDIも、「分岐回線価格が設定されれば、これを利用して様々なサービス事業者が安いユーザー価格を設定してくるので、自社の存続が脅かされる」ということを公然と言っている。つまり、「ユーザー価格が安くなるような政策には反対」と言っているに等しいのだ。

これでは、寡占事業者は安らかに眠れるかもしれないが、何時までたってもユーザー価格は安くはならないだろう。回線分岐が合理的なら、自分達も回線を分岐して、どんどん外部のサービス事業者にも売っていけばよいと思うのだが、そのことに言及がないのも不思議である。

繰り返して言わせて頂くが、私がこの事を言うのは、ソフトバンクの利益の為ではない。私は、今年の6月の役員改選を機にソフトバンクモバイル(株)の副社長を辞めさせてもらうことを既に内外に公言しているし、ソフトバンクの立場からものを言うのなら、別にアゴラの場を借りる必要もない。私は、「常に既得権者に配慮するが故に、too late, too littleの進歩しかもたらさない」政策が繰り返され、日本にとっての貴重な時間が失われていくことを、唯ひたすら恐れている。

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