潜在的なニーズに応える供給が需要を作る

2011年03月04日 10:02

人口動態の問題がいよいよ関心を集めている。その関連で、人口変化の経済的影響を検討する際に需要面に重点をおいて考えるか、供給面に重点をおいて考えるかというのが、イシューの1つだとみなされているようである(例えば、日本経済新聞2月16日付け朝刊の「大機小機」欄の「人口と経済、需要か供給か」という「隅田川」氏の記事)。

しかし、この問題に限らず、需要面と供給面を截然と二分して対立的なものとして考えるのが、常に適切であるとは思われない。というのは、画期的な新製品の登場(供給)が需要を生み出すといったことや、生産性ショックが将来所得に関する期待の引き下げを通じて需要の減退につながるということが考えられるからである。需要と供給の間には相互フィードバックが作用することを正当に考慮に入れる必要がある。


例えば、人口が高齢化すると一人当たりの需要が減退するのが当然なのか、という疑問を考えてみよう。これには、供給サイドの対応がいかなるものであるかによって、YESともNOとも答えられるように思う。すなわち、顧客が中高年主体になっているのに、「若者向けのメニュー」のままであれば、確かに需要は乏しくなるに違いない。しかし、中高年の嗜好にあったメニューを提供すれば、そうはならない可能性が十分に想定できる。

人口が高齢化すると一人当たりの耐久消費財に対する需要は確実に減退するだろう。しかし、医療や健康関連のサービスに対する需要は確実に増大する。こうした潜在的な需要構造の変化に対して供給(産業)構造が柔軟に対応していけば、必ず需要不足になるとはいえない。逆にいうと、現下における日本のいわゆる需要不足は、供給構造が旧態依然のままであるがゆえ、といえるところがある。実際、周知のように医療・健康・介護といった分野で潜在需要(ニーズ)は拡大しているが、そのことに供給体制が対応できていないことから、そうした分野では、需要不足ならね「供給不足」が深刻な問題となっている。

このあたりについては、野口悠紀雄氏がダイヤモンド・オンラインの「人口減少の経済学」という連載記事で詳細に議論されているので、そちらを参照していただくことにして、ここではごく簡単に結論だけを述べておくことにしよう。

要するに、日本の対GDPでみた医療支出が(米国並みにはとうてい行かなくても)独仏並みに上昇すれば、それだけでGDP2~3%分の需要の増加が生じる。それゆえ、現在の日本が抱えているといわれるGDPギャップは、医療のほか、健康・介護といった産業の拡大によって十分に解消可能な規模のものに過ぎない。この意味で、人口減少が起こっているので内需に期待できないというのは、供給構造が旧態依然のままであることを前提にした(誤った)考え方に過ぎない。

しかし、医療・健康・介護分野が現状のように圧倒的な国家統制の下にあり、それらに対する支出の大半が公的にカバーされている状況では、これらの分野の拡大は財政支出の増大を要することになる。それゆえ、野口氏のいうように「内需の拡大といいながら医療サービス需要の拡大(医療費の増大)は抑制されねばならない」という矛盾した話になっている。一部の経済学者を含めて、医療などの分野は「福祉」で通常の経済活動とは違うという固定観念があり、そのことが、こうした矛盾を許容する思考停止につながっているところがある。

といっても、私も、国民の命や尊厳に関わる分野に剥き出しの市場メカニズムを適用することが望ましいことだと決して考えているわけではない。けれども、例えば病院が入院患者に対して提供しているサービスの一部は、ホテル業が提供しているものと本質的に異なるものではない。医療サービスだからといって、その1から10までのすべてが特別なものではない。サービス内容をアンバンドル(分解)して考えれば、通常の市場経済活動として展開されても全く問題のない部分は少なくないと考えられる。

したがって、ナショナル・ミニマムを公的に確保した上で、追加的な部分についてビジネスとして展開する余地(混合医療や混合介護など)を広範囲に認めていく方向での制度改革を実現できれば、公的な関与(財政支出)を拡大することなく、医療・健康・介護分野の規模を拡大する余地は十分にあるといえる。こうした方向の制度改革を進めることこそが、本当の意味で内需拡大につながる途である。この途は、実はもう10年近く前から「需要創出型の構造改革」という言い方で提案されてきたことである。

ただし、上記したことは、いまは全員がビジネスホテル並(実際はそれ未満の?)の病室に泊まることになっているのに対して、追加の料金を自分で払うというものには豪華ホテルのような病室に泊まれることを認めるということである。それゆえ、ある意味では金持ちだけが良い扱いを受けられるという話でもあるので、「貧者の共産主義」的な価値観が支配的であれば、とうてい許容されないということになる。

いずれにせよ、「供給(産業)構造を見直して潜在的な需要構造との適合化を図る、それによって需要不足を克服する」というのが、日本経済を今後も成長させようというのであれば達成しなければならない重要課題の1つだと私は考えている。もっとも、この課題さえ達成したら、経済成長にかかわるすべて問題が解決するというわけではない。並行して実現を図るべき課題が少なくとももう1つ存在している。このもう1つの課題については、機会を改めて述べることにしたい。

池尾和人@kazikeo

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