「1%の違い」と政府の信頼性 -  櫻川昌哉

2011年03月10日 18:21

政府は、2011年1月21日に、「経済財政の中長期試算」を発表し、政府債務残高(対GDP比)のシミュレーション結果を公表した。目下危急の状況にある政府の財政運営の考え方を知るうえで大変貴重な資料であり、かつ財政危機の可能性を推し量るうえで興味深い。 以下、「経済財政の中長期試算」への評価をしてみたい。


政府は、2015年度までにプライマリーバランス(対GDP比)の赤字幅を2010年度比で半減し、2020年度までに黒字化を実現するという政策目標を前提に、2021年度以降公債等残高(対GDP比)を安定的に低下させるという試算結果を発表した。結論から言えば、試算結果は楽観的に過ぎ、信頼できない。

政府の試算結果は、今後、金利と成長率がほぼ同じ率で成長するという前提を置いているが、この前提の持つ意味合いは小さくない。最近の財政改革論議ですでに承知の方も多いと思われるが、将来の成長率予想を高く見積もれば、財政破たんの可能性は小さくなり、将来の金利予想を高く見積もれば高くなる。

よって、成長率を高くかつ金利を低く見積もることで、財政危機の可能性をいくらでも小さくすることができる。しかしならが、経済理論や過去の経済データの観点から、長期的に金利を成長率と同程度に据え置くという設定は通常ありえない。経済理論の立場からは、2-3%程度金利のほうが高いとみなすのが通例であり(筆者はあまり信用していないが)、また日本の過去のデータを顧みても、少なくとも1%程度、金利のほうが成長率より高い。

そこで、戦後一貫して金利が割安であるという日本の経済構造に鑑み、金利が成長率に比べてせいぜい1%程度高いという設定で再計算をおこなった。主な結果はふたつである。まず、公債等残高(対GDP比)を安定的に低下させるためには、2019年度にプライマリーバランスを黒字に転換し、さらにその後2021年度以降は対GDP比で1.6%の黒字を必要とする。次に、こうした積極的な財政再建計画の収支目標を実現しても、債務残高(対GDP比)が安定化する水準は212.5%であり、200%を超える。(詳細)

「1%の違い」は結果に大きな違いをもたらす。ほぼ0%を暗黙に前提とした黒字化と1.6%の黒字とでは、財政的にも政治的にも意味合いの違いは小さくない。

「1%の違い」をどう解釈すべきか。もし、現場で計算をした担当者が、財政のシミュレーションに必要な経済理論を知らずに、「よくわからないから、成長率=金利でいいや」と計算していたとしたら、日本の官僚機構にとってゆゆしき問題である。官僚機構としての専門能力の低さを大いに反省し、即刻対策を施す必要があろう。内閣府に計算を担当する能力のある人間がいないのなら、外部から適当な人を雇うべきである。

そうではなくて、実は専門知識をきちんと持ち合わせていながら、担当者は渋々、黒字化しなくても債務残高が安定するような試算結果を政治的圧力で強制的にもとめられたのかもしれない。だとしたら、政治の在り方自身が問われるべきであり、事態はさらに深刻である。正確な数字を公表しないということは、本気で財政再建に取り組んでいない証拠だと言わざるを得ない。民主党政権が持続するなら、財政破たんは避けられないだろう。
(慶應義塾大学経済学部教授)

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