非常時の情報通信サービス

2011年03月14日 11:23

今週は、「光回線の8分岐サービス」の問題についてのネット上での批判にお答えする約束になっていたが、今は国の非常時であり、この様な議論をしている時ではないと考える。従って、この約束の履行は後回しとし、今回は「非常時の情報通信のあり方」について、あらためて基本的な視点から考えてみたい。今必要なのは議論より行動であり、もし直ぐにやれることがあれば、それを直ちにやるべきだし、将来のことも、これを機に真剣に考え始めた方がよいと思うからだ。

一口に「非常時」と言っても様々なグレードがあり、今回の大災害のように、多くの人達の生命と財産が失われる、或いは危機に瀕するといった「重大な国家レベルでの非常時」もあれば、「ささやかな個人レベルでの非常時」もある。例えば、「約束した時間に行けない」とか「道に迷った」とかいう場合である。しかし、これらの全てに共通して言える事は、「状況を把握する」「連絡を取る」といったことの「かけがえのない重要性」だ。


今回も、設備の破損、電源の喪失、通信の輻輳等の様々な事由により、電話やメールが不通になり、多くの方々にご迷惑をかけている。「ご迷惑」どころか、これが人の生死を決める事にさえなりかねない場合もある。「通信回線」が、「電気」「ガス」「水道」「道路」と並ぶ重要な「社会インフラ」であることが、身にしみて感じられる事態が生じているわけだ。

電力と同じ様に、通信の場合も「完全に回線が切断され、全く繋がらない場合」と「繋がってはいるが、容量不足の為に制限をかけざるを得ない」場合に分かれる。

前者の場合は、各社が必死で復旧に努めたとしても、切れた線を繋ぎ直すのには相当の時間がかかる。しかし、ヒエラルキー状に構成されているこれまでの電話網に比べれば、インターネットのIP網は基本的にフラットな構成なので、断線の影響を局所的なものに封じ込め易い。(そもそも、IP網は、冷戦時代に「中枢部が破壊されても或る程度の通信を確保する」事を目的に作られたものだから、これは当然だ。)現実に、今回の場合も、「電話は通じないがメールは送れる」というケースが多かった。

「携帯電話のような無線にすれば、断線で電話が通じなくなるというリスクはなくなるのでは」と考える人も多いかもしれないが、そうは行かない。携帯電話端末は近くの基地局(外から見ればアンテナ)と交信しているのであり、この基地局の殆どは光回線等で中枢部と繋がっているので、この回線が切断されれば同じ事だからだ。それ以前に、基地局やアンテナ自体が破壊される事も勿論ある。

無線だけで賄えるのは衛星通信であり、今回のような場合も、衛星経由の送受信が出来る可搬型の基地局が多数動員できれば或る程度の役には立つのだが、何分にもこの様な可搬基地局の数は極めて少ないし、非常時に備えて衛星側に空いたトランスポンダーを常日頃から数多く用意しておくという事も、採算上極めて困難だ。

「生きている光回線に繋いだ可搬基地局のアンテナを地上高く伸ばし、そこから直進性の強い高周波を幾つかの方向に送信し、ライン・オブ・サイトでのバケツリレーをして、多くの可搬型中継局をサポートする」等のやり方も当然考えられるべきだが、残念ながら現時点では存在しない。

後者(容量不足)に関連しては、一つ直ぐにやれる事がある。それは、出来るだけ電話を使わずにメールを使う事だ。

勿論、電話には「ニュアンスが伝わる」とか「生の声を聞いて安心する」とかの利点はあるが、最近はお年寄りを含め多くの人達がメールを常用しているし、同じ事でもメールで伝えればビット数ははるかに少なくてすむ上に、輻輳の可能性は更に格段に小さくなる。(従って局側でも使用制限をかけずにすむ。)前述の「電話は繋がらなくてもメールは送れた」というケースには、実はこの理由によるものも多い筈だ。

メールの場合は、本文だけの送信なら、何万人が一斉に使ってもネットワークはびくともしない。音声の数百倍も効率が良いからだ。しかし、通常は、これに写真やグラフィックが添付されていたり、過去の交信のコピーが金魚の糞のようにくっついていったりするので、容量を圧迫する。非常時の場合はこれを自粛したり、一定条件下で局側がこれを制限したりするべきだ。

「通信会社間の協調」も重要だ。

各携帯通信事業者は日常熾烈な競争をしており、これが、各社のサービスの質を上げ、価格を下げる結果をもたらしているわけだが、非常時は一旦休戦して、相互に補完しあうべきだ。各社が運営する「非常時伝言板」は、可及的速やかに相互乗り入れすべきだし、前述の非常時用の施設の運用等についても、各社が手分けしてそれぞれに一定地域を担当し、他社の端末もサポート出来る様な方策を考えられないものだろうか?

(更に言うなら、この様な協調は、前述の「ささやかな個人レベルでの非常時」にも適用出来ればよいし、そもそも過疎地域の基地局などは始めから各社が相乗りで建設するようにすればよいと思うのだが、ここでこれを言い出すと議論になり、本来の主旨から外れてしまうので、ここまでにしておく。)

通信会社の協調について語ったからには、放送会社や新聞社の協調についても一つ提言したい。

テレビについては、今回は各社とも似たような構成の特別報道特番を集中的に流しており、それは当然と言えば当然なのであろう。しかし、現実問題としては、どのチャンネルを選べばよいかが、一般視聴者としては判断のしようがないし、同じ報道が五つも六つも重なる一方で、報道出来ていない事が多数残されているのは如何にも非効率と思う。

連絡は取れないが避難場所で頑張っている人達の状況を各局がどんどん放映すれば、これを見て身内や知人の安全を確認し、安堵する人達がたくさん生み出せる。各局が話し合って地域ごとにチャンピオンを決めて取材することにすれば、岩手県に身内のいる視聴者はそのチャンネルに集中し、宮城県の事が気にかかる人は別の局に集中するといったことも出来よう。勿論、こんなことで「特落ち」があってはならないから、特に重要なニュースや映像が取材出来れば、当然それを他社にも提供するような仕組みにしておけばよい。

ある人が言っていたが、神戸の震災の時には、各社が大阪に拠点をいてそこから神戸に出向いて取材したので、各社とも大阪に近い東部の取材のみに集中し、西部の取材は全く出来ていなかったという。今回の場合も、ヘリコプターからの撮影等を、各社が初めから地域ごとに手分けして行う事にしていれば、もっと有益な映像が提供出来たかもしれなかったのにと思えてならない。

最後にネットの貢献について一言。

私は、今回の事は、日本のネット社会の成熟度を示す良い機会だと思っている。既に、「ネットへの書き込みやTwitter等のおかげで、必要な情報がいち早く入手出来た」という声は巷に満ちているが、ネットは、それ以上に、今後の対策のアイデアの宝庫にもなり得る。報道機関や評論家の方々が気のつかない、種々様々な有益な「指摘や提言」が、ネット上の色々なサイトやTwitterで どんどん出てくる可能性に、今後とも期待したい。

しかし、一方では、「悪質な流言飛語」や、例え善意から出たものであっても「無定見な呼びかけ」が、大きな混乱とマイナスを生み出す危険性を指摘する声もある。今こそ、ネット住人は相互に監視しあって、この様なネット社会の「負の側面」を回避し、その「正の側面」を、「大きな貢献」という形で世に示したいものだ。

松本徹三(ソフトバンクモバイル(株)取締役副社長)

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