夏に向けた電力確保と避けられない電力自由化

石川 貴善

原発事故は一進一退ですが、既に海外の工場でも日本からの部品が止まっている状況です。今後は復興が極めて重要ですが、猫の目のように変わる計画停電は、ラインが組めない/起動や準備に時間がかかるため動向が読みにくく、なにより経営者・現場共にモチベーションが低下する課題を抱えています。また今後、工場がフル稼動した際の電力不足や電力消費の大きい夏に向けた対策は、企業規模の大小を問わず大きな課題となっています。


サマータイムや省エネなどミクロ面が取り上げられ、本質が見えにくくなっていますので、マクロ面の電力供給といった全体的なポイントを注視する必要があります。

1)電力需給の背景
アゴラ-4

出所)http://www.tepco.co.jp/cc/press/11032506-j.html

2)電力の特徴
・基本的に溜めることが出来ない。
・基礎的需要と急激に増える需要で、エネルギー源を使い分ける必要がある。
・遠距離だと送電ロスが大きく、大消費地に近い必要。
・電力需要は、家庭/企業/工場で約1/3ずつのため、特定分野だけの対策が難しい。

3)主な方策
1)一般企業による卸電力供給強化(IPP)→企業が自家使用のため、または電力会社への卸販売を行っている電力供給を強化していきます。既に住友金属鹿島火力発電所では発電再開していますが、こうした卸電力は2007年で239万KWを東京電力が購入しています。
2)ガスタービン発電の稼動(1基あたり約30万KW)→本来は船舶などのエンジンですが、ガスタービン発電による供給強化があります。発電量は少ないですが設置期間が短いことから、発電所に併設するだけでなく、一般企業でも工場設置を計画しており、時間帯によって生じた余剰電力の卸もしくは販売も見込まれます。
3)隣接する地域電力会社からの買取→既に変電所の強化を図っていますが、隣接する地域電力会社から供給する方法です。
4)清掃工場など売電強化(数千KW単位)→既に行っていますが、清掃工場などで回っている蒸気タービン発電供給を増やします。
5)需給調整契約の拡大→大口需要者では電力需要の逼迫時に利用削減義務を負う代わり、割引料金適用となりますが、これを拡大する方法です。
6)電力使用の総量規制→オイルショックの時代に、一定規模の事業者は電力需要ピーク時に電力使用量を制限した経緯がありますが、総量規制として使用を制限する方法です。

また電力需要は来年の夏にも厳しくなることが予想されますので、中長期的には
7)再生可能エネルギーの買取強化(太陽光発電の余剰電力買取)→エネルギー量は小さいですが、自然エネルギーの啓蒙普及に貢献します。
8)火力発電の多様化→火力発電は資源調達リスクがありますので、石油だけでなく、石炭/天然ガスへの対応が欠かせません。
9)電力消費型産業の地方・海外シフト→産業政策の色合いが強くなりますが、例えばアルミ精錬や製紙など電力を多く消費する産業は、地方や海外にシフトせざるを得ない状況になるでしょう。

確定的なのは戦後の電力不足の中で、電力供給は地域独占が望ましいとされてきましたが、90年代から始まった電力自由化の流れによって、民間事業者の東京電力への卸売や隣接する電力会社からの供給が恒常的になることは避けられません。本来は、電柱や電線が2つあるのは社会的なロスが大きいため地域独占が是とされてきましたが、今後は企業の発電所や他の地域電力会社に隣接する地域などでは、結果としての自由化は避けられないでしょう。

石川 貴善(アゴラ執筆メンバー)
ブログ http://itsolution01.blog34.fc2.com/ Twitter @ishikawa_taka

コメント

  1. greetree より:

    電力確保と自由化は全然関係ないと思うんですけど。
    たとえば、東北ではガソリンが慢性的に供給不足ですが、東北でガソリン自由化すればガソリン不足が解決しますか? もしそうなら、とっくに供給不足は解決しているはずですが。
     市場原理でガソリン価格を大幅にアップすれば問題は解決するとお思いですか? 

  2. worldcomw より:

    このエントリでは企業側だけ見ていますが、一般家庭側を考えてみます。

    重要なのは、今夏、計画停電が避けられるのか、という点です。
    今の動きを見ると、計画停電は避けられないので、一般家庭には
    「節電のお願い」以上のことはしない、というように見えます。

    でも、本当にそうでしょうか。
    4月~6月の間に一般家庭の料金を値上げ(或いは一時課税)し、需要抑制の
    効果によっては計画停電を行わない、という選択肢は無いのでしょうか。
    (もう手遅れっぽいですが)

    経団連あたりが「夏の輪番停電が行われると関東で10万人解雇&給料1割減、
    一般家庭の協力で回避されれば雇用維持、給料そのまま」とか言って
    危機感を持たせた方がいいように思いますが。
    具体策としても、ピーク時間帯に単身者を1ヶ所に集めるインセンティブを作るとか、
    いろいろ出来るはずです。(13:00~15:00ネットカフェ無料とか)

    一般家庭が一方的に輪番停電を押し付けられ、愚痴を垂れ流す現状の方が
    大衆にとっては楽なんですかね。
    或いは単にお役所仕事の東京電力に、こういう発想が欠けているのか・・・

  3. ryoito88 より:

     greetreeさん、電力とガソリンとの比較は適切ではないと思います。
     電力は必需品ではありますが、石油と違い、作ろうと思えば自転車をこいででも作れるものです。携帯電話の充電は手回し充電器でも可能です。安定していないだけです。
     電力に代替できるものも多くあります。現状の電力利用の在り方を前提に考えれば供給が不足しますが、発電事業の自由化により電力の在り方そのものを変えれば、需要を満たす供給は可能と考えられます。
     そもそも、電力不足は首都圏だけの問題です。首都圏の電力を東電だけに供給させてきた、いままでのやり方(政策)が間違っていただけです。

  4. takayoshi_ishikawa より:

    筆者です。基本的な状況認識に関して、下記のように付記致します。

    1)電力自由化に関して
    1930年代の戦時経済から、発電所/電線/電柱など二重投資が勿体無いことと、それまでの電力戦で疲弊していたため、発電と配電が1つの会社になりました。

    逆にそれまでは自由競争でしたが、例えば企業がガスタービンの自家発電所を設置するに際して、余った電力を近隣に住宅地があればを売れますし、配電コストが高い場合には東京電力に卸売をすれば供給先が増え、コストの低下圧力となります。
    企業にとっては初期投資がかかりますが、卸でも小売でも月額で料金が入りますので、参入余地はあると認識しています。

    2)発電と配電の分離に関して
    いずれにせよ原子力発電の国営化は避けられない事態ですので、電力不足に対して隣接する電力会社からの調達などを含め、発電と配電が事実上分離せざるを得ない状況となります。

    3)電力不足の解決策に関して
    ガスタービン発電所は大型のもので30万KW(東京電力が設置)/日立が自社開発を行うものが3万KWを中心に年40基(フルに国内で使えば120万KW)です。

    需要調整割引や節電のほか、供給量を増やしていければ日常生活へのダメージは極小化できると認識しています。

    参考URL
    http://news.livedoor.com/article/detail/5454488/