国家資本主義と闘ってはいけない - 『自由市場の終焉』

2011年05月27日 19:56

自由市場の終焉―国家資本主義とどう闘うか自由市場の終焉―国家資本主義とどう闘うか
著者:イアン・ブレマー
販売元:日本経済新聞出版社
(2011-05-25)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆


20世紀最大のイデオロギー闘争だった資本主義と社会主義の闘いは、前者の圧勝に終わった。今から社会主義を建設しようという国はないだろう。しかしそれに代わって新しい脅威になりつつあるのが、経済体制としては資本主義でありながら、国家が基幹産業をコントロールする国家資本主義である。

その例として本書で検討しているのは産油国、旧ソ連、インドなどだが、中でも最大の脅威は、いうまでもなく中国である。それは市場経済を拡大しているが、銀行やエネルギーなどの基幹産業は国有であり、国務院(政府)がマクロ的な「経済計画」を立て、その下部組織が国営企業を使って計画を実行する共産党独裁の計画経済である。しかし意思決定が速く一致して実行できる「開発独裁」のほうが効率が上がる場合がある。

目標が明確で技術移転の容易な途上国には、国家資本主義が適している。その代表が日本である。本書は戦後の通産省による指導は高度成長に大した役割を果たさなかったという立場を取っているが、法的な規制は少ないが非公式の行政指導によって政府の関与は大きかったという説もある。今でも政治家や官僚の頭には、国家資本主義的な発想が根強く残っている。

国家資本主義の特徴は、政府主導で輸出を拡大する重商主義である。これに対して、かつてのアメリカのように保護主義で報復する考え方もあるが、本書は国家資本主義と同じ土俵で闘うのは賢明ではないという。中国やインドの得意とする低価格の工業製品で先進国が競争することはできないのだから、安い工業製品は輸入し、先進国に比較優位のある知識産業などで競争すべきだ。

しかし、これは日本にとってはむずかしい。日本の産業構造は製造業中心の「新興国型」のままで、政治家も官僚もこうしたアジェンダ設定の変化に気づいていないからだ。TPP(環太平洋パートナーシップ)をめぐっては農業問題ばかり論議され、知識産業やサービス業をどうグローバル化するかという問題は認識さえされていない。

著者も指摘するように、国家資本主義の優位は一時的なもので、キャッチアップの段階が終わると、法の支配にもとづく自由市場が必要になろう。与えられた目標を達成するだけでなくイノベーションが重要になると、国家がそれを生み出すことは困難だからである。しかしITの分野でも、中国は日本の先を行き始めている。むしろキャッチアップ型の産業構造を脱却するのは、日本の課題だろう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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