原発事故の損害賠償、財源負担者の順位づけが重要

2011年05月28日 13:57

原発事故の賠償問題の対応は、今こそ冷静な議論が求められる。損害賠償は長期に及ぶだけに、最初の第一歩でつまづくと将来に禍根を残しかねない。

損害賠償の最大の焦点は、その財源を誰が負担するかである。「東京電力」が責任を負うべきだとか、「国」もしかるべき責任を負うべきだ、といった議論がでているが、負担を負うのは生身の人間しかない。「東京電力」とか「国」という生身の人間はいない。「東京電力」が負担を負うとなれば、東京電力にかかわるステークホルダー、すなわち株主や経営者や社員や債権者や顧客という生身の人間が負担を何らかの形で分かち合うことになる。「国」が負担を負うとなれば、究極的には我々国民の誰かが何らかの形で負担を分かち合うことになる。だから、「東京電力」とか「国」というスケープゴートがあって、そこに負担を負わせておけば一般国民には一切累が及ぶことはない、などということはありえない。


では、損害賠償の財源を誰が負担する可能性がありえるか。まず、誰が負うべきか(あるいは負うべきでないか)は後述するとして、負担が及ぶ可能性がある人々を分類してみよう。

 ・ 東京電力の株主
 ・ 東京電力の債権者
 ・ 東京電力の役職員
 ・ 東京電力管内の国民(除都民)
 ・ 東京都民
 ・ 東京電力管外の国民

と分類できよう。東京都民を他の東京電力管内国民と区別したのは、東京都は東京電力の大株主であり、東京都民は電力利用者であるとともに(間接的に)株主としての利害も持ち合わせているからである。

ただ、今回は、まだ損害賠償総額がいくらになるか確定できないという悩ましい問題を抱えている。賠償総額が少なければ、東京電力が今の会社形態のまま事業を継続しながら賠償金の財源を自前で負担できる、という楽観的な見方もあろう。しかし、賠償総額が多ければ、東京電力を一旦清算して最大限の財源を捻出させた上で、それでも足らなければ国民の税負担を仰がざるを得ない、という見方もある。

本来、賠償スキームを固めるには、誰が責任や負担を負うべきかを確定させる必要があろう。しかし、責任の所在を確定できなければ賠償金の負担を始められないとなれば、被害者の救済が早期に実施できないという重大な問題を引き起こす。したがって、原発事故に絡んで、賠償総額が確定せず、責任の所在も厳密に確定でない状態であっても、被害者救済のために、賠償スキームを早期に構築しなければならない。

さりとて、本来負担を負うべきでない人々に負担を負わせる羽目になることは、理不尽極まりない。そこで、ここでは、誰が負担を負うべきか、あるいは負うべきでないかという観点から、賠償のための財源の負担者に優劣の順位をつけてみよう。この判断の基準は、東京電力の原子力発電所がもたらす様々な恩恵を受けたことがどれだけあるかである。

賠償総額が確定しない現状では、賠償財源を負担する順位づけをしておくことで、金額の多寡如何で負担を負うことになるか、負わなくてよいことになるかを決定づけることになるので、原発事故の早期収束を図る(ひいては賠償総額を抑制する)インセンディブ付けも可能となる。

まず、前述の分類の中で、賠償財源の負担を負うべきでない最たる主体は、東京電力管外の国民である。東京電力から電力供給を受けていない人々だからである。しかし、彼らに負担を負わせる可能性がある手段として、国が課す電力と無関係な税(例えば、所得税や消費税)がある。こうした税目での負担は、東京電力管内の住民も同様である。したがって、賠償財源として最も避けるべきなのは、電力と無関係な国税による国民負担といえる。

それと、原発事故の損害賠償で、チッソの二の轍を踏まないようにすべきである。水俣病の損害賠償をめぐり、チッソが債務超過に陥った後、公的支援を行い続けた挙句、2009年に成立した特別措置法で、被害者に対し、原因企業は一時金のみ支払うが、療養費は国と県が今後も払い続ける形となり、相当な国民の税財源が投じられる結果となった。東京電力をこのようにしてはならない。

また、前述の分類の中で、賠償財源の負担を最も先に負うべきなのは、東京電力役職員である。通常の会社でも経営改善のためにまず先にリストラを行うのと同様、賠償財源の捻出のために給与抑制、内部留保の活用、福利厚生施設等の不要不急の資産売却などは、当然としてさらに徹底的に行われなければならない。これにより、東京電力役職員が直接的・間接的に財源を負担することになる。

次に誰が負担を負うべきかについて、これまでの国の電力政策をめぐる評価とも関わり、様々な意見が出されている。ここで焦点となるのが、債権放棄と減資、すなわち、東京電力の株主と債権者である。公的支援を行うなら金融機関等の債権者の債権放棄を求める意見や、東京電力に会社更生法を適用すべきであるとの意見も既に出されている。

しかし、賠償総額が未確定の段階で、債権放棄や減資を決定することは早計であると考える。賠償財源が他の妥当な手段で十分に賄いきれるならば、債権放棄や減資は不要であるだけでなく金融市場に無用な混乱を引き起こす。

したがって、債権放棄や減資は、最初から想定するのではなく、賠償総額が他の妥当な手段では財源が十分に賄えないほど多い場合に行うという、条件付きのスキームとして構えておくべきである。そうすることで、株主や債権者は、原発事故の早期収束による恩恵を享受できるインセンティブができ、早期収束に向けて経営者に対し真摯に規律付けようとするだろう。それは、原発事故被害者、放射能汚染にさいなまれる日本国民や国際社会とも共通した利益となる。

確かに、地域独占企業として十分に効率的とはいえなかった東京電力のこれまでの経営や、発送電一貫体制を抜本的に改革するには、会社更生法の適用で一挙解決を図るという方策もあろう。しかし、会社更生法による法的整理では東京電力債の扱い方をめぐり悩ましい問題を抱えることになる。東京電力債は、通常の社債(一般事業債)と異なり、電気事業法第37条に基づく一般担保付社債で、通常では他の債権者よりも弁済が優先される。その上、東京電力債の発行・流通は、我が国の社債市場で大きな地位を占めている。そして会社更生法による法的整理では、通常の優先劣後関係が必ずしも適用されず、どれが優先されどの程度弁済されるかは策定される更生計画に依存する。

会社更生法による法的整理では、損害賠償請求権に対しても、東京電力債が持つ優先権が自明に維持されるわけではない。そうなると、賠償総額が未確定の段階で、早期に会社更生法を適用するとなれば、我が国の社債市場に与える悪影響が大きいと考えられる(既に、それを織り込む投資家によって、東京電力のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は大幅に上昇している)。特に、一般担保付社債でありながら、部分的にでもデフォルトすることになれば、我が国の(必ずしも層が厚くない)社債市場に大きな悪影響が及ぶだろう。

したがって、会社更生法を適用する前に、賠償財源の負担として妥当な手段を講じて、できるだけ会社更生法を適用しなくても済むようなスキームを考えるべきである。
 だからといって、東京電力を現状のまま温存してよいというわけでは決してない。あくまでも、賠償財源の負担を不必要に負うべきでない主体に負わせないようにするためであって、東京電力自体は、発送電分離も含めて、そのあり方を抜本的に見直さなければならない。

さて、債権者や株主に負担を負わせる前に、負担を求める妥当な手段は何か。それは、電力に関連して賦課している料金や税である。電力関連の料金や税は、電力供給の恩恵の見合いで賦課されているものだから、応益負担といえる。負担の度合いは適切にしなければならないが、東京電力のリストラでも賠償財源が不足するなら、しかるべき電力料金の値上げや電源開発促進税の引上げが必要となろう(現在の電源開発促進税の税率は全国均一だが、地域別に税率を変えることはありえる)。これにより、東京電力管内の国民(東京都民を含む)が負担を負うことになる。

もちろん、既に電源開発促進税が課税しており、それを財源として原子力発電の促進等様々な財政支出を行っているので、税率を上げる前に、その使途を変えて(国が負うべき)賠償金に充てることが考えられる。原子力予算の使途変更による賠償財源捻出の提案は、日本経済研究センターが4月25日に発表した提言でも言及されている。ただ、国が損害賠償に何ら責任を負わないでよいはずはないので、国が負担を負うべきところの財源は、まずは電力関連の税で賄うべきである。

ここで気をつけるべきことは、賠償財源の処理が長期化しないようにすることである。確かに、将来の電力料金収入を見込んで当面の賠償財源を起債によって賄うことができれば、債権放棄をしなくても会社更生法を適用しなくてもよい、という見方もできよう(民間が貸さなくても政府系金融機関が貸すことがあるかもしれない)。しかし、この処理が長期に及べば、経営環境をめぐるリスクに直面する可能性も高まる。財源負担を、もし30年かけて将来の電力料金収入で処理できるとしていても、20年後にまた大地震が起きればこの処理計画もご破算となろう。そうした事態は避けなければならない。したがって、過度に将来の電力料金収入を当て込んではならない。長期にならないよう期間を区切れば、将来の電力料金収入で負担できる額も制約が出てくる。

なお賠償財源が十分に賄えない場合には、東京電力管外の国民に負担を求める前に、東京電力の債権者や株主が負担を負うのが先であろう。このような状態に至らざるを得ない場合には、プロセスの公平性が確保されやすい会社更生法を適用するのが望ましい。その際、前述のような東京電力債をめぐる特殊事情は多少度外視せざるを得ない。つまり、こうした場合には、減資や東京電力債の部分的デフォルトもやむをえない。東京電力の株主や債権者が一切負担せずに、(電力関連の税でなく)所得税や消費税等の国民が広く負担する税を投入して原発事故の賠償財源を賄うという手段は、論理的に正当化できない。

以上をまとめれば、原発事故の損害賠償財源(カッコ内は負担者)は、

 ① 東京電力のリストラ(東京電力の役職員)
 ② 東京電力の料金値上げ/(国負担分については)電源開発促進税等の電力関連の税(東京電力管内の国民)
 ③ 会社更生法による法的整理(東京電力の株主(含む東京都民)・東京電力の債権者)
 ④ ①~③の負担の再検討
 ⑤ 電力関連でない税:所得税、消費税等(東京電力管内外の国民)

という順位で、賠償総額に応じて負担を負うことにすべきである。もちろん、負担者ができるだけ上位でとどまるように、原発事故の早期収束に努力することが求められる。それとともに、賠償財源を過度に国庫負担(電力関係でない税)に求めないようにしっかり法的なコミットメントをしておくことが重要である。

(慶應義塾大学教授)

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土居 丈朗
慶應義塾大学経済学部教授

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