心理的児童虐待はどうやって防げるのか?

田代 真人

今回から、メール悩み相談サービス“マイ・カウンセラー”代表という観点からもコラムを書こうと思う。このサービスは、2006年、社会的企業マイ・カウンセラーが、自殺するほど大きくなる悩みを、まだ芽生え立ての小さなころに摘み取ってしまおう、という目的から始めたもの。つまりは年間3万人を超える日本の自殺者を一人でも少なくしていこうということである。

昨年の日本の自殺者数は、発見日ベースで31,655人。毎日90人近くが自ら命を絶っていることになる。この状態は、異常なのか正常なのか? いや正常ということはないだろう。せいぜい“通常”といえるレベルであるかを改めて、整理してみたい。世界における自殺者数の統計はあまりない。しいて挙げれば、WHO(世界保健機構)発表データを元にした以下のランキングが挙げられる。

2011-08-02

個々のデータはそう新しくはないが、とはいえ、日本はとても先進国とはいえない国々に混じって、堂々の6位である。やはり“通常”ではないのだ。ちなみにフランス(09)-19位、スウェーデン(06)-29位、アメリカ(05)-43位、イギリス(07)-67位、イタリア(06)-68位などとなっている。もちろん各国それぞれの宗教観もあり、自殺を許されないものとする国や容認してしまう国によって異なっているのだろう。

ご存じのとおり宗教的に大きな影響が少ない日本は、幼少期に倫理的なものとして自殺がいけないものだと刷り込まれる機会が少ないことも自殺率の高さに繋がるとも考えられる。しかし、マイ・カウンセラーに寄せられる相談を見ていると、大きな問題は、宗教というよりも家庭であることがわかってきた。

これほどに家族内で自分の存在を虐げられて育っている人が多いということは、このサービスをやってみて初めてわかったことである。例えば、小さなころから父親に「おまえは人より劣っている」とことあるごとに言われ続けてきた人。例えば母親から「おまえは社会では迷惑な存在だ」と言われ、その言葉が忘れられないでいる人……。たしかに最近では身体的な面で児童虐待などが社会問題化し、表面に現れてきているが、心理的な虐待は表に出ない

子どもが深く傷つくような言葉を、親がどんなに強く深く吐いたとしても、それを防ぐ手立てはないのである。子どもは、一緒に暮らす親に、毎日毎日ひどい言葉を投げつけられても我慢し、堪え忍ぶことしかできない。そういう環境のなかで育ち、まともな大人になることのほうが難しい。すべてを否定的に、悲観的に考える人物になっていってもおかしくない。

そういう環境の子どもたちは当然親に相談できないのだ。私は、親に相談できない子は、実は他者にも相談できないのではないだろうかと思っている。マイ・カウンセラーの現状をみると他者相談能力が著しく劣ってると思わざるをえない。他者に相談できないから、結局自分一人で思い悩み、悩みの芽が成長し、心身に異常を来すのである。

こういう現状を防ぐため、彼らに手を差し伸べる方法を社会全体で考えるべきだ。内閣府は、毎月の自殺者数の発表をおこなっているが、本人の注意で防げる交通事故とは異なり、発表することにより自殺が防げるとは思えない。むしろ安心して自殺することになりはしないか。それよりも、現実的な対策・対応に対して積極的に支援し、行動を起こすことが重要である。
(田代真人《株式会社マイ・カウンセラー代表》)