官僚主導による改革は可能か

2011年08月05日 10:24

実は、小幡さんの記事と似たような記事を、ゆうべブログに書きました。内容は4年前の記事とほとんど同じなのですが、結論が違う。4年前は「東洋的官僚機構を解体すべきだ」と書いたのですが、最近は優秀な官僚を使いこなすしくみを考えるのが現実的のような気がしてきました。


日本の政治の実態は、官僚によるアリストクラシーだから、彼らは「衆愚」の代表である政治家を見下している。政治家を選ぶしくみなんかどうでもいいから、選挙制度は最悪の状態で放置されてきました。それが今ごろきいてきて国会が動かないが、国会がどう動いても大したことは期待できない。それより実際に政策を立案している霞ヶ関の構造改革をしたほうが現実的かも知れない。

これは先日も古賀茂明さんと話したことですが、経産省でも昔は省内で政策論争があり、上司に反論する強者も多かったそうです。それが最近はよくも悪くも一枚岩になり、電力自由化も論争にならない。これは(私の推測ですが)天下りが減ったことと関係あると思います。

いい天下り先がたくさんあったときは、派閥抗争に敗れても、大企業の役員になって高い収入を得られる外部オプションがあるので、思い切って闘える。ゲーム理論でいうと、ナッシュ交渉が決裂した場合の基準点が天下りなので、強気で交渉ができるわけです。しかし天下りもなくなると、基準点がゼロなので、敗れると無職になるリスクがある。もちろんコンサルや研究者などに転身できる自信のある人は闘うでしょうが、そういう人は結局やめてしまうので、省内には能力の低い人が残る。

つまり天下りが減ってキャリアパスが狭まったために、かえって霞ヶ関のモノリス化が進んでしまったのではないでしょうか。今度の東電救済案も、他省庁の官僚は最初から「東電を破綻処理しないで賠償できるはずがない」と言っていました。おもしろいことに、官庁の政策についての他省庁のコメントは的確で、国民の常識にも近い。たとえば経産省は、ずっと前から周波数オークションを提言しています。

しかし経産省では、古賀さんの破綻処理案は孤立無援でした。それを支持すると、職を失うリスクがあるからです。民主党が関与するのは「賠償スキーム」が完成してからなので、霞ヶ関としてはもう譲歩しない。つまり実質的な政策決定は、官邸に「素案」が上がる前に行なわれるので、初期の段階で現場の官僚が省内で自由に意見をいい、他省庁も率直にコメントできるしくみをつくらないと、実質的な改革はできないのです。

その一つの方法は、アメリカのように政策シンクタンクに転職する外部オプションをつくることです。これは政治任用の多いアメリカの人事制度と一体なので、日本でも政治任用を増やす必要があります。天下りのなくなる現状では、官僚の転職市場を広げないと、彼らの人生設計も苦しくなるし、意思決定も硬直化する一方です。もちろん同時に年功序列を廃止して、天下りの需要も減らす必要があります。これがまさに古賀さんのやっていた公務員制度改革でした。

ところが官僚は古賀さんを排除して、天下りを含めた「超終身雇用」を守ろうとした。これは渡辺喜美氏などが公務員制度改革をあまりにも「対決モード」でやったために、官僚の被害者意識が強いのだと思います。冷静に考えれば、人事制度を柔軟にすることは官僚の利益にもなるのだから、彼らが知識人なら、議論によって解決可能かも知れない。少なくとも民主党の政治家のレベルを上げるよりは容易な仕事のような気がします。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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