暴動の原因を「国民道徳の衰退」に求めたキャメロン首相は正しいか?

2011年08月18日 10:00

チュニジアに端を発したジャスミン革命の波は、エジプトなど他のアラブ諸国へ瞬く間に広がり、リビアの内戦やシリアでの弾圧を誘発するなど、多数の死傷者を出しながらいまだに出口が見えない混乱が続いている。

その様な時に、西欧でも一番成熟した民主国家だと思われていた英国で、老若男女、人種、宗教の違いを超えた多くの群集を巻き込んだ新たなタイプの暴動が起きた。


キャメロン首相が「国民の道徳的節度の欠如と、社会的責任を軽く見る世相」が暴動の原因だと言うだけあり、携帯端末を駆使して情報を交換しながら商店を襲う有様は、英国的な紳士、淑女には似つかわしくない姿で、首相の言い分も解る気がする。

ただ、金融を中心にした特定階層の利益保護に偏る政策が、経済的な格差を助長し失業を増大させた結果、行き先を失った若者中心の不満が、広範囲な国民を巻き込んだ暴動につながった事も否定出来ない。そして、税制や過度な報償主義などの「不公正」が暴動を呼んだ状況から言えば、これを放置してきた権力側の道徳的な腐敗を反省しないキャメロン首相の片手落ちは、責められるべきである。

今回の暴動の広がりが、英国の警察の手ぬるさにあるとの批判もあったが、拳銃を携行しないことで知られる英警察には「地域社会の協力に基づく警察活動」という伝統的にソフトな姿勢があり、「行き過ぎた対応」に常に厳しい批判がつきまとう背景もあった。この事実は、銃砲の使用を極端に制限する、日本警察の危機管理策にも参考にすべきである。

民主主義の根幹である自由の剥奪は勿論、拷問などによる人権侵害も厭わない独裁制は、不公正の極にあり、ムバラク政権は典型であった。その政権が国民の激しい抗議行動でもろくも崩壊し、鉄格子に囲まれた被告席でムバラク一家が裁かれる姿を、エジプト騒乱が始まる前に予想した者は何人いただろうか?
この政治改革を引き起こした若者の力と、モバイル端末などを駆使した情報交換の力が、新しい政治勢力になった事は間違いない。中国高速鉄道を巡る中国政府の方針転換も、その一例である。

時を同じくして、同じ中近東に位置するとは言え、殆ど全ての面でアラブ諸国の対極にあるイスラエルでも、,数十万規模の大デモが起きた。エルサレムだけで30万人を集めたこのデモは、テルアビブ、ハイファなどの各都市にも普及し、人口600万のイスラエル国民の10%を越える国民が参加したと言う。

デモのテーマはアラブ社会、英国と同様、「不公正経済政策の打倒」であった。中東国家では唯一の先進国並の生活水準と科学技術を誇るイスラエルではあるが、マパイ党の勢力減退と共に社会主義的政策から自由経済政策に移行して久しいイスラエルは、ゴルバチョフ革命のドサクサで巨万の不正蓄財をした多くのユダヤ系ロシア・オリガークがイスラエルに亡命するなど、限られた世界的富豪が経済界を牛耳る寡占型経済を生んだ。

政党乱立の利点をフルに活用する小数右派勢力にキャステイングボートを握られ、ユダヤ系アメリカ人やオリガークの財政的支援を受けて成り立っているイスラエル政権は、一般国民の住宅不足や物価高への不満を無視しても、右派勢力の支持を得るために西岸占領地区への入植住宅建設を優先し、オリガークの圧力に屈して寡占を認めた結果、住宅不足とインフレ経済に悩まされている。今回の大規模デモも、一部の階層の利益の為に大多数を犠牲にした政治への抗議である。

平和ボケの日本とは正反対に、四方を敵に囲まれ危機管理には敏感なイスラエルは、血に塗られた対アラブ政策を進めたり、激しい論争に明け暮れる国家ではあるが、国内での略奪行為が無い事では、日本と並んで世界でも珍しい国家の一つである。

それは何故か?回答の見つからない難しい問題であるが、両国とも略奪に走っても失うものが無いほど、困窮した国民がいない事が一因かもしれない。

小さい政府と規制の緩和、FTAの推進による経済のグローバル化は、日本にとって急を要する問題だと考える私だが、ビッグバン以降の金融や言論の自由化は、倫理観を無視した不正利的行為援護策に過ぎず、早急に改める必要があると思っている。

いくら自由化論者の私でも、成長政策に名を借りて、人の道に外れた不道徳な行為を合法化する自由化政策には賛成出来ない。民衆がこの様な制度に抵抗して暴動を起す事は、寧ろ当然で、日本人もイスラエルに学び、官僚支配制度に抗議する勇気を持って欲しいと思うくらいだ。

人間は絶対的な貧困より、相対的な格差に強い怒りと嫉妬を覚えると言われている。従って、平和で幸福な社会の実現には、透明で公正(公平ではない)な社会の実現こそが、指導者の責任である。

暴動を巡って、国民の倫理観の堕落だけを嘆くキャメロン首相の言い分が、如何にも片手落ちだと感じながら過ごした数日であった。

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