民主党の代表選はすでに失敗している

大西 宏

民主党の党代表選に関してマスコミ報道はあいかわらず小沢詣で、また民主党内の勢力地図にスポットをあてた政局報道を繰り返しています。それが国民にとってなにの意味があるのだろうかと疑問に感じます。しかしその原因をつくったのは、民主党執行部が代表選を国会議員だけで行なうとしたことだと思います。
いまや選挙を決め、政権を選択する鍵を握っている最大勢力は、浮動票であり、無党派層です。つまり政治を動かすのは組織ではなく、組織されていない国民だということです。執行部が国民に開かれた代表選という舞台をつくらなかった時点で、代表選は失敗したのです。


組織票から浮動票へ、組織から個人へという流れは動かせません。組合などの組織率が長期的に低下してきたことだけが原因でなく、前回の参院選を前に小沢元代表が語った『組合員の3分の1も票が取れない、日常活動が不足している』(小沢元代表)というのが現実、また農村票もかつてのように一丸ではありません。

だから小沢元代表の次の認識は正しいと感じます。

大衆の中に入れ、組織のトップに会って済むものではない、と言っているのはそういうこと。多数を占める浮動票、無党派層の皆さんに共感を得られる努力を私もしなければならない

浮動票、無党派層の共感を得られる努力を 小沢幹事長が会見で – 民主党 :

市場の主導権が供給側から需要家へと移る顧客経済の時代となったように、またマスコミが情報を独占していた時代から、個人が情報を発信するソーシャル・メディアの時代へと大きな変化が起こったように、政治を左右する主導権も変化してきました。

民主党執行部が時間がない、政治空白をつくらないという考えからでしょうが、政治のリーダーの資質がこれほど求められている時期に、代表選を国会議員だけで選ぶということ自体が失敗なのです。
なぜなら、「政治空白」と「納得できる政権やリーダーを選ぶ」ことの天秤では、さまざまな世論調査では総選挙を望むとしている人が多く、国民は後者を望んでいるのですから、時間がない、政治空白をつくらないというのは理由になりません。

そういえば、この間にネットで面白いやりとりがありました。内田樹教授が、匿名で寄せられる罵詈雑言に嫌気をさし、「ネット上での匿名発言の劣化がさらに進んでいるように見える」としたブログを書いたことで、小飼弾さんがブログで厳しい反論をしたというものです。

情報の質を決めるのは「発信者」ではなく。「受信者」だと。

ネット上の発言の劣化について (内田樹の研究室) :
404 Blog Not Found:情報の質に関するただ一つの原則 :

この議論は情報の質をめぐったのものでしたが、政治のリーダーとしてふさわしいかどうかは、いかに議院内閣制という枠組みがあっても、最終的には国会議員でもなく、国民だというあたりまえの状況が政治にもあらわれてきているのです。

もうひとつは池田信夫さんが書かれた「『個人ブランド』の時代」のエントリーです。

今のようにマスコミとネットの境界が消滅すると、媒体や肩書きには意味がなく、情報の質は「広瀬隆氏と山下俊一氏のどちらが信用できるか」といった個人の専門性の問題に帰着する。これは佐々木氏のいう「キュレーション」に近いかも知れない。検索エンジンによる機械的な情報選択ではなく「あの人の選んだ情報だから見てみよう」というフィルタリングが価値をもつのである。

池田信夫 blog : 個人ブランドの時代 – ライブドアブログ :

政治も同じことがいえないだろうかと感じます。とくに政治課題に対処するリーダー能力が発揮できるかどうかは、その政治家の発言や行動に国民が共感するのかどうかで決まるようになってきています。国民の支持の有無が、いかに政権の安定性を決めるかは小泉内閣が示したところです。

そういう意味では、政治にもリーダーをブランドとしてどう育てるか、また個人ブランドが育ってくる仕組みやしかけをどうつくるかというブランディングの発想が必要になってきたことを示しています。はたして、今回の代表選は、つぎのリーダーが個人ブランド力を高める絶好のチャンスとなり、国民からの信頼や共感を得る舞台になっているかどうかは疑問です。

そして個人ブランドという点では、自民党も失敗しています。自民党にも顔がありません。

今の時点で総選挙を行えば、民主党政権に嫌気をさした国民は批判票を他の党に投じることは間違いなく、それを吸収するのは野党第一党の自民党でしょう。民主党の壊滅的な敗北と自民党の政権復帰の可能性が極めて高いのですが、世界経済の変化への対処、また東北復興、福島第一原発事故処理、財政再建、エネルギー政策や社会福祉政策の見直し、また産業構造転換などの大きな課題に取り組み、解決していくためには、強い国民の信頼や共感が必要になってきます。

自民党はすでに賞味期限が過ぎており、そんな国民の信頼や共感をあつめるブランドもないために、時間の経過とともに政治の不安定化が再び起こりそうです。

いまからでも代表選を開かれたものにする舞台づくりをすればいいのですが、その時間も、執行部にそのセンスもなさそうです。そうであれば、なにか候補者がサプライズを起こし、国民の期待を集めるといった奥の一手が必要そうです。