政務三役に専門家を配置しなければ、政治は前に進まない

山田 肇

民主党の新代表に野田佳彦氏が就任した。華やかさは捨て、ドジョウのように地道な政治をとことんやり抜く、という選挙演説はとても印象的だった。

突然、反原発に転じるようなパフォーマンス重視のポピュリズムよりも、復旧・復興を確実に進める地道な政治が確かに求められる。しかし、政治家に求められるのは地道さだけではない。この方向に進めるというビジョンを提示する必要があるのだ。その点、野田氏は財政規律の確立という方向性を明示していることは期待できる。

ビジョン提示能力が欠如しているとしか言いようがない実例が、平岡総務副大臣が主催してきた周波数オークションに関する検討だ。副大臣は3月2日に「周波数オークションに関する懇談会」を組織し、大震災当日の3月11日に「周波数オークションの導入に関する提案の募集」を開始した。目的は、「懇談会での今後の検討に資するため、周波数オークションを導入する際に検討すべき論点」を集めることだった。


その後、5月20日に「周波数オークションの導入に関する提案募集の結果の公表及び再提案募集」があった。最初の募集で「34件の提案の提出」があったにもかかわらず、「懇談会における今後の検討を更に深める観点から、今般提出された提案に対する再提案募集」を行うことにしたというのである。そして今、8月12日から「周波数オークション制度の導入に関する中間論点整理に対する意見の募集」が実施されている。

なぜ、こんなにゆっくりしか進んでいないのか。それは平岡副大臣にリーダシップがないからだ。僕が意見を発表した第5回会合で副大臣は「山田先生には誤解なきようにしていただきたいと思うが、役所側で並んでいる中で、オークションについて最も前向き・積極的なのは、おそらく私ではないかと考えている。」と発言した。一見前向きなのだが、次に言葉が続く。「ただ、色々な問題があるのも事実である。」

副大臣はそんないろいろな問題を「地道」に検討したいようだが、そのせいで亀のようにしか動かない。そして、新代表の選出とともに、この「最も前向き・積極的な」副大臣もお役御免になる。これでは、電波官僚の思うつぼである。

各府省をリードしなければならない政務三役にはビジョン提示力が必要である。しかし、それには主導するだけの知識と知恵がなければならない。原口一博氏が大臣に就任して動き出したオークション導入が停滞したのは、専門家よりも仲間を大切に人事を決めた総理大臣の責任である。

野田新代表には、政務三役には専門家を配置する、という当たり前のことから始めてほしい。そうしなければ、ドジョウが前に進むことはないからだ。増税に向かうのは、財源を徹底的に掘り出したあとにすべきだ。周波数オークションには1兆円を越える国庫収入が期待できる。財政規律の確立を目指す野田新代表なら無視できないはずだ。

山田肇 - 東洋大学経済学部