放射性廃棄物の処理に「沖の鳥島」の活用を!

北村 隆司

関東各地で次々と見つかる放射性廃棄物とその処理は、今や社会的な大問題になりつつある。特に、一日たりとも止める事の出来ない上下水道処理場から出る汚泥は、セメント原料としての再利用を断られセメント工場の操業まで止まってしまった。その為、処理場内は汚泥が山積み状態で、国民生活に与える影響は日に日に重大化している。被爆土壌の仮置き場の設置も遅々として進まない。


それでは、日本に全く場所が無いかと言えば、そんな事はない。EEZ地域を含めると世界でも第六位の領土を誇る海洋国日本には、放射性廃棄物の処理に適した場所は意外に沢山あるものだ。

例えば、日本の最南端に位置する沖の鳥島はその典型である。満潮時に沈まないのは東小島、北小島の2つの露岩だけで、日本政府が沖ノ鳥島を中心とする排他的経済水域 (EEZ) 設定を国際連合に届け出たものの、台湾、中華人民共和国、大韓民国などから、これは島ではなく岩礁に過ぎないと異議が出ている。

日本政府は対抗策として、これらの島に消波ブロック設置とコンクリート護岸工事を施し、第二次世界大戦前に建設を試みて中断していた旧灯台跡に、約300億円と推定される工事費用をかけて人工島の観測所基盤を建設し、無人の気象観測を行っているが, この対策を実施しても満潮時には沈んで仕舞う問題は片ついていない。

沖ノ鳥島を管轄する石原知事は「小笠原諸島及び沖ノ鳥島周辺の水域は、わが国にとって貴重な海洋資源を有し、国益を維持するうえで、枢要な位置を占めている。この水域を守ることが、国家として最も重要な責務に属することは論をまたない。東京都としても、都民に対し重大な責任を負っている。本件水域を含む我が国の排他的経済水域では、中国船による違法な海洋調査が頻繁に繰り返されている。中国なんぞには余計なことを言わせない。」と威勢は良いが、この様な状態で沖ノ鳥島が風化などで満潮時に海の下に隠れてしまうと、日本の国土面積を上回る排他的経済水域が失われてしまうが、これに対する具体策は打たれていない。

自然環境も、我が国には厳しい。その一つが、地球温暖化に伴う海面上昇により、島その物が将来水面下に没する事が予想されている事実だ。自然の力により島の高さを上げるという構想もあると聞くが、世界情勢はその様な悠長な計画を待っては呉れない。

現状を維持する限り、沖の鳥島に実効支配に必要な一般市民の定住も出来ず、南鳥島の様に、気象庁、海上自衛隊、関東地方整備局等の職員が交代で常駐する事も出来ない。軍事力に頼る事の出来ない我が国が、自国領であると合理的に主張する為には、岩礁を島の状態に変えるしかない。

東日本大震災で気の遠くなる程の瓦礫の処理に悩まされ、放射性廃棄物は勿論、セメントの原料として使って来た汚泥の行き先にも困る日本にとっては、沖の鳥島は廃棄物処理と領土問題を同時に解決出来る。

瓦礫や不燃廃棄物はコンクリートの骨材や補強材料として活用し、汚染汚泥を原料としたセメントで放射性廃棄物を固めて、沖の鳥島を埋め立てる事は、正に一石二鳥そのものである。

沖の鳥島の本格的な埋め立てには、日本のセメントタンカー、給水艦、水バージ等を大量に動員する必要はあるかも知れないが、瓦礫、放射性廃棄物、被爆汚泥を沖の鳥島に水上輸送しそれを埋め立てに活用する事は、廃棄物処理、領土問題保全、東北の港湾の復旧、ローカル経済の正常化、そして何よりも被災者の帰郷の促進に役立つ一石十鳥くらいの効果が出るプロジェクトではなかろうか?

勿論、中国や韓国の反対は出るだろうが、日本は他国の領土を侵害している訳ではなく,飽くまでも日本国内の必要に迫られた公共事業の一つであり、冷静に埋め立て工事を進めれば良いことである。

同じ孤島でも、南鳥島には往来・補給のために1380 mの滑走路があり、船の波止場もある。沖の鳥島にも同様の設備を設け、今後の海洋保全の為の研究基地が出来れば更に素晴らしい。

放射性廃棄物に限らず、廃棄物の処理はどの先進国でも頭痛の種となっており、先進国の有害廃棄物を国境を越えて発展途上国に移動する事が増大した。その為、その処分の規制に関するバーゼル条約が制定され、特定有害廃棄物等の輸出、輸入、運搬及び処分の規制措置が取られた。と言う事は、私の提案には、内外の環境保護派も反対するに違いない。

反対を業とする環境保護派の口は止められないが、太平洋核実験場としてアメリカ合衆国が67回もの核実験を行ったビキニ環礁さえも、放射能レベルも短期間の滞在では問題ないレベルまで下がり、現在では美しい沿海はダイビングスポットになりリゾートホテルまで出来ていると聞く。この際、沖の鳥島を東日本震災復旧のキーポイントとして活用する事を提案したい。