日本はほんとうに周回遅れで、韓国の後を追うことがいいのか

2011年10月24日 13:03

TPP問題で、日本が周回遅れで急がなければならない、TPPというバスに乗り遅れると取り返しがつかないという議論があります。しかし、乗り遅れるかどうかよりも、TPPが乗るべきバスなのかどうかは、実際の交渉に立たなければわからず、またどのようなスタンスで望めば国益にかなうのかの中味もないままに議論は進んでいますが、行き先の違うバスに乗ってしまっては話になりません。
「周回遅れ」でよく引き合いに出されるのは韓国です。それには違和感があります。しきりに「サムスンの経営を学べ」と言っている人に感じるのと同じです。学ぶべきところはあるでしょうが、ほんとうに「韓国」や「サムスン」が日本の経済や産業の手本になるかどうかは疑問に感じます。それは韓国だから、韓国の企業だからという偏見ではなく、あまりにも立場や状況が異なるからです。


日本は、欧米に追いつけ追い越せという目標にむかって、工業化の時代を大きく発展させる役割を担い世界をリードしました。しかし、その成功が大きかっただけに、その次の経済の情報化、またサービス化時代にむけたさまざまな産業や制度の改革が遅れてしまい、結局は工業化の時代の古い産業や制度、また考え方からの脱皮ができず頭を打ち、停滞期に入ります。

さまざまな分野について、マーケティングというミクロからの現場視点で見ると、人口減、高齢化よりも、日本の経済や制度、また産業が変化できなかったことのほうが停滞の原因だと感じます。そして、工業化の時代で成功した製造業の多くの分野、とくに最終製品は、韓国、また中国などの新興国の追い上げに苦戦を強いられています。

さて、日本と韓国ですがまったく状況が異なります。決定的に異なるのは、国内市場の大きさや貿易依存度です。韓国は内需の規模が小さく、日本は内需の規模が比較にならないぐらい大きいことです。

たとえば、貿易依存度がピークとなるリーマン・ショック前の2008年で、輸出のGDP比率、輸出依存度は17.5%、輸入依存度が17.4%で、あわせて34.9%です。つまり、残りの65.1%は内需です。

韓国はどうでしょう。直近の2010年では、輸出依存度が46.0%、輸入依存度が41.9%で、あわせてなんと87.9%を貿易に依存しています。韓国は内需が小さいために、貿易に依存せざるをえないのです。

つまり、韓国は貿易拡大が経済成長の絶対条件ですが、日本の場合は貿易を伸ばす、内需を伸ばすことの選択肢をもっていることが決定的に異なります。

もうすこし突っ込んで考えると、GDPは国内総生産で、盲点は、海外からの雇用者報酬、金融資産や土地及び著作権・特許権などからの財産所得、利子や法人企業の配当、再投資収益といった海外活動による収入が入っていません。経済がグローバル化してくると、本来は輸出よりも、こちらを増やすという選択肢も残っています。では、2009年の「海外からの所得の純受け取り」で比較すると、日本は1,380億ドルで、GDPの上乗せとしてGDPの2.7%を海外からの所得として受け取っていることになります。韓国はなんと44億ドルでしかありません。韓国のGDPと比べてもわずか0.5%です。

韓国はモノを輸出することが韓国経済の絶対条件ですが、日本の場合は経済が貿易だけによって支えられているわけではありません。

さらにマーケティングの視点で見ると、日本は、韓国や中国との直接衝突をしてしまい、価格競争に巻き込まれてしまったことも日本が停滞した大きな理由として挙げられます。
競争力が残ったのは、素材や部品、製造設備など、韓国や中国がそうそう簡単には追いつけない分野、デジタルカメラや内視鏡などのように、デジタル技術だけでなく、レンズ技術を組み合せたような分野に次第に狭まってきました。半導体や携帯、液晶などがことごとく敗北してきたことはご存知のとおりです。
日本は、韓国や中国とは直接競合しない土俵、つまり独占的な技術、ビジネスの仕組み、その組み合わせで競いあうのではなく、韓国や中国がキャッチアップできる「技術」で競い合ってきてしまったのです。

一方で、韓国や中国、また日本とビジネスの土俵を変え、直接のガチンコ勝負を避けてきた欧米は、資源価格が高騰しても、輸出価格を維持また、それに見合っただけ輸出価格を上げるということができたのですが、日本はそれが効かず、交易条件の不利なまま、海外で稼いだ利益をそれに飲み込まれてしまうということにもなってきています。

つまり、関税の撤廃による貿易の障害を取り除くことだけでなく、内需をどう守り、さらに活性化させ伸ばすのか、モノではない資本、知的財産や高度なサービスでどう所得を伸ばすか、また韓国や中国のキャッチアップに対して、日本が競争力を発揮できる分野をどう強化し、直接競合を避けるなど、日本には先進国ゆえの多くの選択肢をもっているということです。

たしかに円高、ウォン安によって、韓国は日本から直接競合している分野でシェアを奪って来ました。しかし、その結果はどうでしょうか。いまだに日韓貿易は韓国側が貿易赤字のままです。いかに部品や素材などの内製化を進めても、円高の影響は避けられません。
さらにウォン安は韓国の物価高を招き、さらに海外資本の韓国からの引揚げがはじまり、つまり貸し剥がし、またこれ以上のウォン安が進むことを阻止するためのドル売り、ウォン買の為替介入によって深刻なドルの不足を招いており、一触即発の危機を迎えつつあるという見方が多いのです。

しかも、サムスンは得意の分野で日本を追い抜きました。しかし、それは日本を追いつき追い越せのキャッチアップ戦略であり、また「製造業」という限界を背負ったままです。液晶パネルも、価格下落で利益がとれなくなってきているようですが、中国で来年から本格的に液晶パネル工場が稼働しはじめると、さらに価格競争が激化することが予想されます。
スマートフォンも、本質的には「製造業」として、規模の経済そのものをサムスンは追求していますが、何年か先にスマートフォンの普及が鈍化したときには、その反動がやってきます。

日本の産業は、サムスンから学ぶことがあっても、日本に追いつき追い越したサムスンを学ぶことよりも、むしろ韓国や中国にはできないことを自ら生みだすしかないのです。日本のほうが先に「製造業」の壁に苦しみ、ようやく家電メーカーも新たな道を探り始めた段階です。

TPPについても、貿易のひとつの障壁がとれるということだけでなく、内需拡大や、海外からの所得を増やすこと、日本の競争力回復のバネになるのかどうかを考えなければ、日本の国益にとって、なにを焦点に交渉するのかも曖昧になり、たんに米国の囲い込み戦略に押され、結局は日本がアメリカのペースに乗せられてしまうだけという結果で終わってしまいかねません。

また貿易が増えても、これまでの経緯を見ると、内需拡大にとってもっとも重要な日本の雇用が増えるとは限りません。むしろ製造業の雇用は一貫して減少し続けてきたのです。

韓国と比較して「周回遅れを取り戻せ」という横並びの発想ではなく、なにが国益なのか、TPPがどのような国益にかない、日本の国益にとってどのようなリスクがあるのかから、TPPに関する議論が深まることを望みたいものです。TPPは手段にすぎないのですから。

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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