オリンパス事件を斬る:「モノづくりPEファンド」という試み

2011年11月22日 08:00

オリンパスの巨額損失隠しがニュースを賑わしている。このようなテーマは筆者の専門外であるが、通常のメディアとは違った切り口で、オリンパス事件を考えてみたい。

というのは、この「粉飾事件」は日本の株式市場にとって極めて不幸な出来事であるが、見方を変えると、グローバル経済で日本の製造業が勝ち残っていくヒントを抱えているように思うからである。そのキーワードは、①「金融機能の強化」、②「コンサルティング機能の強化」、③「海外マーケティング機能の強化」の3つである。


まず、今回のオリンパス事件の概要をまとめておく。一部報道によると、1990年代初頭に「財テク」(株式・不動産投資等)に失敗して巨額損失を抱えたオリンパスは、その損失を「飛ばしスキーム」(例:香港に設置した子会社)を通じて隠してきた。そして、この損失は時価会計導入の2001年時点では1000億円以上に膨らみ、海外のM&Aを舞台装置に粉飾処理していたというものである。

このような粉飾は、株主・投資家の信頼を裏切り、海外から日本市場に対する透明性に疑問を投げかけられる一因となるから、株式公開企業に許される行為ではない。

その際、粉飾の発端である「財テク」の背景には、バブルで余ったマネーを有効に活用しようという日本企業の姿があったことは間違いない。バブル期にはそのマネーが企業価値の向上とは関係のない不動産や有価証券投資に向かってしまったことが最大の失敗であり、問題はその使い道にあったのではないだろうか。

むしろ、中国やインドといった新興国が急速な勢いで日本経済にキャッチアップを図りつつある中、日本の製造業は従来のモノづくり中心のビジネス形態を戦略的に変革させ、より高次の新しいステージに飛躍させる好機であったと考える。

その点で重要な鍵を握るのは、「金融機能の強化」である。つまり、日本の製造業が自らのコア・ビジネスとして蓄積してきた領域・分野に近い海外企業を、いま日本が保有する膨大なマネーを梃にM&Aで買収したり、投資したりする機能の強化である。あたかも、製造業の企業自体が一種の「モノづくりPEファンド」になるかのごとく、である

その際、買収・投資先(海外企業)の価値(Value)を高める上で威力を発揮するのは、日本の製造業がこれまでに培ってきた経験・知識である。競争の激しいグローバル経済において、日本の製造業の「強み」は、工程管理や設計・開発などでの「すり合せ」「つくり込み」にあると指摘する者も多いが、その強みは海外でも一目置かれている。

そこで、比較優位のある「強み」の一部を活用し、「コンサルティング機能の強化」を図ることで、買収・投資先(海外企業)の価値を高めていくのである(必要があれば高値で売却する)。具体的には、専門知識や経験は不足しているが、人件費やその他の経費が安く、市場の成長が期待できる新興国の同業者に特化して投資し、コンサル(例:製造・生産の機能について経営幹部・工場長・職長を派遣、協力業者・原材料供給業者を選定)を行いつつ、企業価値を高めるのである。

ところで、上記の資金を活用してどの海外企業を買収、あるいは投資するかを判断する上で、「海外マーケティング機能の強化」は最も重要である。ドラッカーの定義によると、「マーケティング」とは「既にある欲求を理解し満足させるもの」をいう。他方で、「イノベーション」とは「今までなかった顧客の欲求を創り出して、それを満足させるもの」をいう。

その際、前者のマーケティングにおいては、投資先(海外)における顧客の欲求を理解することが重要になる。このマーケティングが外れている場合、どの海外企業を買収、あるいは投資するか、また、日本製造業の「強み」を利用してどのようなコンサルティングを施すのが適切であるか否かも判断できないからである。

この点で、オリンパスの粉飾事件は極めて残念である。海外のM&Aが上記のような目的で行われていれば、もっと企業価値を高めることができたはずだからである。

また、ドラッカーの「イノベーション」という観点でも、金融を活用した価値創造は魅力的なはずである。というのは、欧米へのキャッチアップが終了した日本は、製造業も高リスク・高リターンを覚悟で戦略を立案していく必要があるからである。その際、アップルのiPhoneのような製品を創出するには「ファンド」の形態をとることが望ましい。

なお、投資対象となる企業は、自らの「強み」との関係で提供できる「製造部門の品質管理能力の向上が、市場占有率や利益に繋がる成長期の市場に身を置く企業」となるが、そうした企業の探索や交渉は、これまで銀行相手に資金繰りと設備投資資金の調達をやってきた製造業の財務担当者には難しく、当初は、世界各地に事務所と現地スタッフを擁し、クロスボーダーのM&Aを得意とする米系投資銀行か総合商社に頼ることになる可能性もある。

だが、中国やインドをはじめ、アジアの新興国では、これから急成長が望まれる製造業も多いはずである。以上の機能強化を行う以前に、オリンパスではガバナンスの強化が不可欠であることはいうまでもないが、今回の事件を契機に、日本の製造業がより高次の新たなステージ(例:「モノづくりPEファンド」に類似した機能の強化)に進むことを期待したい。

(一橋大学経済研究所准教授 小黒一正)

※ 本コラムの内容は筆者の個人的見解であるが、アバン・アソシエイツ顧問の平泉信之氏との議論が参考になっており、同氏との議論に感謝する。

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