特定免許人を「えこひいき」する電波部

山田 肇

池田信夫氏の記事「孫正義氏は天下りに資金を提供するのか」が昨日掲載された。具体的にはどの程度の資金提供になるのか、説明しよう。

総務省電波部は11月21日を期限に「3.9世代移動通信システムの普及等に向けた制度整備案」に対する意見を募集している。900MHzでLTEサービスを行う免許人の審査方法が、制度整備案の要である。

新免許人は、今この帯域を利用しているMCAなどが他の帯域に移行するための費用として1200から2100億円を支払うことになった。この移行費用負担額のほか、人口カバー率や割り当てられている周波数帯の差異、割り当てられている周波数幅に対する契約者数の割合などが電波部によって審査され、 一社が免許人として選定される。

移行費用についてソフトバンク、イーアクセスなど各社は問題なく負担できるとしている。このため、移行費用負担額が審査されることはないので、結果的には、従来同様に比較審査方式で事業者が選定される。比較審査方式が公平性に欠くことは繰り返し指摘されてきた。そのために、今回はオークションの考え方が取り入れられたはずだが、2100億円という上限が設けられ、その上、新免許人がMCA事業者等に直接支払うことになったので、オークションの考え方は骨抜きにされた


しかし、携帯事業者各社が2100億円を問題なく負担できるのだから、この30MHzには2100億円以上の経済価値があることが露わになった。オークションを実施したら、各社は2100億円以上で入札するに違いないのだ。

一方、移行する側のMCAは、10MHzをタダで入手する上、設備投資も新免許人が負担してくれる。つまり、一切何も負担することなく事業を継続できるのだ。もし、この移転費用負担というスキームがなく、オークションで免許を取得するとしたら、MCAはいくら必要だったのだろうか。

周波数帯の幅が1/3の10MHzだから経済価値(オークションによる最低落札額)は700億円以上と見積もれる。設備投資額は、電波部が公表している移行費用の算定根拠から802億円以上と計算できる(備考参照)。

MCAはこの1502億円以上を負担することなく事業を継続する。つまり、これは1502億円以上の補助金を隠れて受け取ったことに等しいのだ。なぜ、電波部はMCAをこのように「えこひいき」するのだろうか。MCAを営む財団法人移動無線センターでは、役員のうち3名が総務省のOBである。OBの生活を支えるために1500億円が闇のうちに支払われるのでなければよいが。

電波部は移動無線センターに対して「だんな顔」で振る舞うことができ、次の天下り先を事前に確保できる。スキームに協力したソフトバンクはスポンサーとして、今後、電波部から優遇されるだろう。そんな貸し借りに貴重な電波免許が利用されるのは公正ではない。

山田肇 -東洋大学経済学部

備考:算定根拠によれば、MCA端末局数は最大28万、それぞれに19万円以上の設備が設置され、基地局(制御局)の費用は270億円ということになっている。これを合計すると802億円になる。