構造改革と世論形成へのバイアス

2011年11月19日 07:05

今回、アゴラメンバーに加えて頂きました辻と申します。 私は純粋数学を研究しています。 そんな私がアゴラに投稿する理由ですが、日本の知識人、論壇が非常なレベル低下をしているのではないか、その結果、世論形成に負のバイアスが掛かっているという危機感からです。経済を専門としない私ですが、数学という視点から、経済を俯瞰するのもご参考になるかと思い筆をとる次第です。


問題の本質を議論しよう

数学とは何かといえば、自然の裏側にある数理を見出すことであり、現象からその本質を整理して考え、理解することです。こういった自然科学的な立場に立って、現在の日本経済の低迷を考察するならば、需要不足といった表面的な現象を考察するだけでは不十分です。ここで考察を打ち切ってしまい、インフレにすればよい、大規模な財政出動をすればよい、といったことを主張するのは、あまりにも考えが浅い。グローバル化、情報化、モジュール化、コモディティ化、人口動態といった社会変化を起こしている本質的な力に対する考察なしに、金融緩和、財政出動といった対症療法で持続的な景気回復、経済成長が起こるという、無から有が生じる式の議論は、私には受け入れ難い。需要が足りないから政府が需要を作ればよいというのは、問題の本質から目を逸らした議論です。問題の本質はそういったテクニカルなものではないでしょう。

世論形成へのバイアスと構造改革への抵抗

ところが、こうした本質的な議論から目を逸らすバイアスが掛かっているのです。

少し前、慶応大学経済学部の土居丈朗教授と、早稲田大学政治経済学部の若田部昌澄教授との対談を拝聴しました。その中で、若田部教授が、税収弾性値が最近は高い(2001-2009年の平均で税制改正の効果を除いて3.13程度)から、インフレにすれば増税しなくても財政再建ができるという趣旨の発言をされていました。

これを見ていた私は凍りつきました。大学教授(しかも有名大学の教授)が、税収弾性値自体がインフレ率の関数であることを理解していないのが、驚きだったからです。喩えるなら、試験で学生の点数が悪いので下駄を履かせることで学力が上がったと考えるのと同じ理屈であり、あまりにお粗末です。 一部の文科系教授の数学リテラシーの低さ、思慮の浅さを思い知らされた次第です。

また、高橋洋一、嘉悦大学教授は、「18兆円の復興財源は、すぐにでも出せる」として、日銀保有の国債の中、今年度満期を迎える30兆円分についてその全額を引き受けることを主張しています。12兆円分については既に引受が決まっていますので、30兆円との差、18兆円分が財源になるという主張です。しかし、この操作の前後で何が変わったのか、といえば日銀保有の国債30兆円分が、新発の借換債に変わっただけで、どこにも財源はありません。原案どおり18兆円分の引受をしない場合でも、日銀は毎月国債を購入しているので、日銀保有の国債が18兆円減るようなことはないのです。 私には高橋教授は意図的なデマゴギーを撒き散らしているようにしか思えません。

上に挙げたようなデマゴギーを信じる人たちがいなければ、大した問題ではないのですが、一部の信者たちばかりか、こともあろうに国会議員の中に、こういったデマゴギーを真に受ける(或いは利用する)人たちが、相当数居ることに驚きます。こうした流れでクレージーな主張をするデフレ脱却議連、デフレ脱却国民会議なるものも出来ています。 国民が深く考えることを止めてしまった、現実逃避している、そのように感じる次第です。 このような事態に対するマスメディアの罪は深いでしょう(参考:http://www.choujintairiku.com/fujii3.html)。

こういった問題の本質から目を逸らすリフレ派、財政出動派の正体は、急務である構造改革への抵抗勢力であり、日本の衰退を招く元凶ではないかと思います。

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