日本が問われる知的生産性の低下

2011年11月23日 20:08

バブル崩壊後の日本経済の低迷の原因を考える上で、日本の基幹産業である、ものづくりにおけるイノベーションの変化を考えることは重要である。そこで見えてくるのは、日本の知的生産性低下の問題である。こういった問題を見る限り、日本経済の長期低迷は構造的なものであり、マクロ経済政策のミスといった問題とは無縁の深刻な問題なように思われる。


現状認識

「日本のものづくり、競争力基盤の変遷」(湊徹雄著、日本経済新聞社)によれば、90年まで日本企業の特徴である企業系列、そしてそこでの摺り合わせにより、海外企業より優れた生産システムを構築していたため、日本のモノづくりは圧倒的に優位な品質、生産性を持っていた。しかし、その後、情報技術の進歩により、3D-ICT(3-dimensional Information Communucation Technology)により摺り合わせはサイバー空間で行うことができるようになり、モジュール化の進行により、日本企業の摺り合わせは優位性を失い、EMS,OEMが盛んに行われるようになり、生産工程のイノベーションは停滞した。またCAM(computer aided manufacturing)、CAD(computer aided design)の進展により、技術移転が容易になり,韓国、中国といった新興国において最新の製造設備の導入が進み、日本製品に遜色のない製品が生産されるようになった来た。家電分野では既に殆どの製品がコモディティ化し、価格以外の差別化が難しくなっているため、コスト高の日本製品のシェアは減少し続けている。 さらに中間財、資本財においても、日本製品のシェアは低下し続けており、技術の優位性が失われて来ていることを示唆している。

ブレークスルーと外国人雇用増大の必要性、大学生、大学院生の学力低下

前段のような環境変化は求められるイノベーションの質をどう変えただろうか? イノベーションを連続(routine)なもの、不連続(breakthrough)なものに分けて考えよう。連続的技術革新には容易な反面、すぐに陳腐化する傾向があり、時間と共に技術開発は非効率になる。 前段で述べたような近年著しいコモディティ化から逃れ製品の差別化を実現し、品質での優位性を確立するには不連続的技術革新(ブレークスルー)の重要性が増している。 元々、日本は不連続なイノベーションが不得手と言われており、これが日本の競争力低下に繋がっていると見られる。ブレークスルー型技術革新に必要なものは、優秀な人材であるが、これが枯渇している。理工系の博士取得者数(医学部を除く)を見ると日本はアメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなどと比べて対人口比半分以下である。 

しかし、一番大きな問題は理工系大学生の学力の著しい低下である。中国、アメリカ、英独仏などに長期出張した感想として、日本の大学生は学外学習時間が少なく、この点だけを持ってしても、企業にとって魅力的とは言えない。長年、数学の大学基礎教育に携わっているが、全国の大学で国立私立を問わず、春秋の学会の度ごとに著しい学力の低下に悩む数学者の声を聞く。基礎となる数学の学力低下の原因について日本数学会などで調査が行われているが(西村和雄、京都大学教授他)、抽象的、論理的な思考力の低下が著しい。多くの大学でε-δ論法などの基礎的な論理の訓練を諦めている。長年の印象としては、トップクラスの層については目だった学力低下は見られないが、それに次ぐ層から下は正直言って劣化が著しい。しかも、実際に学生に接すると学習時間や意欲の問題ではなく、能力そのものに問題があると判断せざるを得ないケースも多くなっている。基礎学力の低下が深刻である。 少子化の影響も大きい。元々、人間の能力は世界どこでも大差がないので、ある程度の教育さえあれば、どこの国でも同じ比率で優秀な人材がいると考えられる。

こういった学力低下の問題は、実はフランス、ドイツ、イギリスといった国でも同様のようだが、大学院における外国人留学生の比率が、10%以上と高い。韓国の大学の一部では、原則全ての授業を英語で行い、教授会も英語で行うことで外国人教員の比率が高まっているところがある。つまり人材の国際化で学力低下、人材不足を補っている。以前からもっと先を進むのがアメリカであり、アメリカの有名大学は、理系大学院生はさらに国際化しており、教授陣もアメリカ人が少ない。日本だけが日本人だけでやっていれば野球の例を見るまでもなく国際競争に勝ち抜くことはできない。思考の多様性の担保のためにも日本企業、大学において、外国人研究者、開発者の雇用を飛躍的に増大させる必要があろう。

一方、人材の効率的利用で問題となるのは、流動性の低さである。終身雇用や年功序列などの残る日本の人事制度では、研究者、技術者の流動性が低く、さらに配置転換で営業などに回され技術や研究能力が活用されなくなる。これを変えないと知的生産性は上がらない。 少ない人材を有効活用するためにも企業合併を進め人材の有効活用を図ると共に、雇用の流動化が急務である。まずは海外の企業買収などで外国の人材を取り込むことが大事だろう。

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