日本にとっての前門の虎、後門の狼とは?

山口 巌

昨日の大阪ダブル選挙は、予想通り橋下氏の圧勝に終わった。問題山積にも拘わらず、現状維持という呆れた態度に終始する、公務員、平松前市長、平松前市長を支援する既存政党に対し有権者が退場の審判を下したという所ではないだろうか。

賢明な選択である、満腔の敬意を持ってこの勇気ある行動に拍手を送りたい。

橋下氏の圧勝が、今後引き起こすであろう日本の将来にとって好ましい連鎖反応に就いては一昨日の記事で説明済みである。

今日は日本が直面する二つの理解と解決が困難な喫緊問題に就いて説明すると共に、解決策を提案してみる。


先ず、前門の虎はドイツ国債札割れに起因する日本の国債金利の上昇懸念である。事実今月、0.94%まで低下していたものが今週末1.03%迄上げている。

問題は、この金利上昇が飽く迄一過性のもので、暫くして落ち着きを取戻し元に戻るのか、或いは、このままじりじり上昇を続けるのかという事である。

この回答を得る為に、①.ドイツ国債の金利上昇のメカニズム。②.ドイツ国債市場と日本国債市場連動のメカニズム。③.日本国債市場の金利上昇のメカニズムを順番に精査してみる。

先ず、①.ドイツ国債の金利上昇のメカニズムであるが、現象として入札直前のドイツ10年国債の利回りが1.9%程度であったが11月25日には2.25%まで上昇している。この背景は市場がドイツ政府の財政悪化を織り込み始めたと言う事と思う。

ギリシャ債務問題の重篤化→ドイツの銀行による対ギリシャ債権放棄→ドイツの銀行のB/S毀損→ドイツの銀行の資本不足→ドイツ政府によるEFSF債券購入による対銀行資本注入→ドイツの財政状況の悪化という事だと思う。

更に、債務問題はギリシャがらイタリア、スペイン他に飛び火しており悪化の方向である。市中銀行に代りECBによる債務問題国国債の引き受けも必要となり、この原資も結局はドイツが引き受けざるを得ないとするならドイツの財政状況の悪化は更に深刻化し結果国債の金利は上昇する。

ドイツ国債金利の上昇は、結果債務問題国国債の金利を引き上げ国債価格の下落をもたらしこれを大量保有するドイツの銀行のB/S毀損となる。早い話、負のスパイラルに入ってしまっているのである。

次に②.ドイツ国債市場と日本国債市場連動がどうなっているかである。日本国債は殆どが日本企業や年金に依って引き受けられており余り関係ない様に思う。気になるのは今朝のアゴラ記事が説明する投機資金縮小の可能性である。

最後に③.日本国債市場の金利上昇のメカニズムであるが、早い話日本の国債リスク等考えた事のない国内金融機関が狼狽しているだけの話ではないか?例えばリーデイングカンパニーの三菱UFJが買いに回るとか、或いは監督官庁の金融庁が「従来同様の国債購入は苦しゅうない」みたいなメッセージを非公式に出せば直ぐに元に戻る様に思う。

従って、国債の問題はより本質的な話で、国債を発行しなければ最早予算が組めなくなっている、日本の歳出、歳入構造という事に成る。この根本問題が解決しない限り、今回の様な些細な話で右往左往する事になる。

解決の特効薬はなく、社会保障費の削減により歳出を減らす事と増税により歳入を増やすしかない。国民の理解を得るには、先ず隗より始めよで、大阪都の如く二重行政を廃し小さな政府を進めるのは判り易く適切な政策と思う。現実問題、社会保障費削減と増税と言う棘の道に国民を追い立てるにはこれしか可能性はないと思う。私が橋下氏を支持する根底はこれである。

次に後門の狼は、短期、そして中長期のエネルギー問題への懸念である。

短期の課題とあるべき対応に就いては石井氏のアゴラ記事の推奨に留め中長期問題に専念する。

私が懸念するのは日本が原油とガスの殆どを依存する中東地政学的リスクの高まりである。露骨に言えば、この地区で戦争が勃発し、原油とガスの輸入が途絶え日本経済が突然死する事を心配しているのである。

心配する背景は下記3点である。

アメリカがアジア太平洋地区を最優先とし中東におけるプレゼンスを今後低下さす予定である事。これは結果中東の不安定をもたらす事になる。

○ジャスミン革命の進展が視界不良である事。アラブの盟主、エジプトの動向が重要であるが今朝のBBC News読む限り全く好ましい結果は期待出来ない。タハリール広場に集まった民主化勢力はまた新たな大規模抗議集会を呼び掛けている。一方、打倒ムバラクで彼らと提携したムスリム同胞団は選挙に参加する方針で、軍を代表する大統領中心の政治制度ではなく議会内閣制を支持するとしている。3者が合意に至る確率は少なく、軍による民主化勢力の弾圧を経て内乱に至るのではと危惧する。

○最後はシリアである。シリアに関しては、昨日アラブ連盟が経済制裁を決定したがBBC Newsに依れば、相変わらず大量の殺人が続いている。これを受け、アラブ連盟が次の対シリア制裁を決定した。
  アサド政権要人のアラブ諸国下の旅行(入国)禁止
  シリア資産の凍結
  シリア中央銀行との取引停止、シリア商業銀行との取引停止
  投資の停止
  シリア政府との商業取引停止
  アラブ航空機のシリアへの乗り入れ中止
問題はイラクが反対に回り、レバノンが棄権した事。イランの影響下にあるイラク、シリア、レバノンが中東における枢軸国を形成し他のアラブ連盟諸国と対立するというのは最悪のシナリオである。イランはイスラエルへの軍事行動への野心を隠そうともせず、又サウジ、バーレーンで差別されているシーア派を支援し分断を図っている。

それでは、日本はどうやってこのリスクを回避すれば良いのであろうか?

第一は化石燃料調達に於ける中東依存を減らし調達先を分散する事である。総合商社はその方針で以前より動いておりここに来て成果が出てきている

KKRと伊藤忠商事を含む投資家グループが石油・天然ガス会社の米サムソン・インベストメントを72億ドル(約5550億円)で買収することで合意したことが、こうした買収案件中で今年2番目に大きい案件としてトップニュースになっている。それだけでなく、これが日本企業による巨額の海外向け投資であることも言及に値する。
伊藤忠商事の出資額は10億4000万ドルで、サムソン株式の約25%を取得することになる。これは伊藤忠にとって海外での過去最大の買収案件。過去1年間、日本の大手商社は全般的に積極的な買収を行っている。

実際、日本企業は、エネルギーへの関心が非常に高い韓国企業と同様に、既に数年間にわたって北米のシェールガスプロジェクトに投資してきた。三菱商事は2010年に、2億3700万ドルを費やし、カナダのシェールガスプロジェクトの50%の権益を獲得した。また、三井物産は今年6月、SMエナジーが米テキサス州で開発・生産中のシェールオイル・ガス開発生産プロジェクトの権益12.5%を6億8000万ドルで取得した。三井物産はさらに、シェールガスのもう1つの活発な市場であるポーランドでも投資している。

上記はリスク管理の観点より多とするものの、京都議定書で取り決めた二酸化炭素排出限度の問題と、中東危機により化石燃料の価格暴騰リスクは残る。

結論としては、地政学的リスク、それに伴う国際市場での化石燃料価格暴騰リスクを精査すると伴に、二酸化炭素排出問題解決も含めた最適化の落とし所を算出すべきという事になる。

停止中の原発の早期運転再開や凍結中の原発新設計画等も決してタブーとする事なく、飽く迄経済性とリスクの観点から公平かつ冷徹に評価されるべきと考える。

この辺り、政府としての国民に対する説明責任が果たされているとは思えない。

山口巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役