財政再建に向けて国民に示すべき選択肢

2011年12月01日 20:42

昨年12月私はイギリスに出張中、イギリス政府が大学授業料を年3000ポンドから9000ポンドに値上げするというニュースに接した。これに怒った学生は大規模なデモを起こし、それが連日報道された。さらに今年1月にはイギリスは消費税を2.5%引き上げ20%にした。

しかし、こういった政策の実行にあたり、イギリス政府は国民に信を問うた訳ではない。

日本では財政再建に向けての議論は出尽くした感があるが、財政再建に向けて政治の動きが鈍い。これは国民に提示すべき選択肢を誤っているためではないかと思われる。


財政破綻は避けるべき

現在の、税収より新規国債発行額が大きい財政状況は破綻していることは明らかで継続不可能である。 これに異論のある人はいないはずだ。 新規国債発行は、将来の税収を担保にしているので、将来、税収の十分な増加がなければ政府債務は発散し、財政破綻が起きる。つまり国民の金融資産(一部海外投資家の資産も)が高率のインフレーションにより価値が大幅に毀損するか、実際に一部が返済されないことになる。言い換えれば、国民の知らない中に政府債務の穴埋めに使われてしまった金融資産の毀損が現実化するのが財政破綻である。 政府債務の規模は、政府の返済能力=国民の担税能力 を超えて大きくすることはできない。

財政破綻のコストであるが、一番大きな問題は金融システムの崩壊であり。これが最大の問題であることは、最近の欧州危機、リーマンショックを見ればよく分かる。財政破綻させることはコストが大き過ぎる。

継続不可能だとするならば、どうすればよいか。 これは次の3つとその組み合わせしかない。

(1) 増税 (2) 社会保障カットなどの支出の抑制 (3) 経済成長による税収増

勿論、経済成長による税収増で財政再建できればよいが、実質経済成長率をかなり高くしないと不可能である。実際、年率3.7%以上にしなくてはならないという試算が、小黒一正、小林慶一郎共著の「日本破綻を防ぐ2つのプラン」(日経プレミアシリーズ)にある。これは過去20年間の平均実質成長率が0.9%に過ぎない日本経済には不可能な数字である(下記の注参照)。 

従って、実質成長率約1.0%という条件の下で、財政再建をしなくてはならないということになる。この仮定で必要な消費税率は30%を超える。これは高すぎるので、社会保障の切り下げと同時に消費税率を20から25%程度に上げるというのが考え得る財政再建策であろう。社会保障の切り下げ、増税どちらで多く負担するのかという配分の問題は、国民の選択である。 どちらにしろ負担の総和は殆ど変わらない。

異常に嵩上げされた現在の経済状態

こういうことを言えば、必ず出てくるのが、増税は景気を冷やすという意見である。これは完全に正しい。しかし、現在、プライマリーバランスが均衡しているわけではないのだから、現在の経済状態を基準にして考えるのは全く誤りである。

即ち、現在の状態はプライマリーバランスが均衡している状態を基準にして考えれば、不自然な大幅な減税が行われている状態であり、この状態を基準にすることは明らかな誤りである。増税によるショックを緩和することは重要であるが、増税により経済の水準が低下することは恐れるべきではない。 もしどうやっても増税しても税収が上がらない、増税と歳出削減でプライマリーバランスが黒字化しないというのであれば、財政破綻を避ける方法は存在しないということであり、議論自体に意味がないことになる。

国民に提示すべき選択肢

この問題の本質は、高度成長期に設計された社会保障制度や税制が少子化や経済成長の鈍化により最早、どう取り繕っても維持可能ではない、ということに尽きる。こういった世代間や所得水準により利害が対立する問題は、実際に財政破綻の危機が実感として感じられるまで、なかなか議論が纏まらない可能性がある。 

よく増税前に国民に信を問え、と言われるが、これは正しくない。増税に反対する国民が多いからといって、増税を先送りすることは危機を増幅させるだけだからである。 こういう点は民主主義の先輩、イギリスに学ぶべきだろう。

国民に問うべきなのは、増税や社会保障削減の是非ではなく、社会保障の削減と増税のバランスである。 従って、政府がやるべきことは、増税幅と社会保障の削減の組み合わせについて、いくつかの選択肢を提示し、その中から国民に選ばせるというのが正しい。

勿論、こういった選択肢を提示することに抵抗が予想される。 しかし、これには「対案を示せ」というだけで十分のはずである(おかしな対案が出されたら、衆人環視の下で生体解剖すればよい)。

:この期に及んで、金融緩和してインフレにすれば円安にもなり万事解決するといったオカルトを主張する人たちがいるが、正しくない、税収弾性値については既に書いた。多少円安になったとしても、米欧の経済状態から大幅な円安にはならない。またたとえ1ドル100円程度の円安になったとしても、円安が実現した2005-2008年の景気拡大期においても実質成長率は2%強であり、大きな成長は望めない。

  

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