地球温暖化対策で日本の採るべき立場とは?

山口 巌

朝日新聞の記事は懸案COP17の結果を下記の様に伝えている。

南アフリカで開かれている気候変動枠組み条約締約国会議(COP17)は11日未明、2012年末で期限切れとなる京都議定書の温室効果ガス削減義務の延長と、すべての国が参加する法的義務のある新体制に向けた行程表を含む「ダーバン合意」を採択した。温室効果ガスを義務的に削減する国際体制を継続、進展させる足がかりになる。

紆余曲折はあったが日本が希望する着地点ではないか?


今回の「ダーバン合意」の採択を受け、日本が実行すべきは地球温暖化対策で日本の採るべき立場を明確にし、政治のリーダーシップの下、兎に角前に進めて行く事である。

その際、中核とすべきは、先ずは未だに20世紀のレガシーを踏襲する電力政策を筆頭に、エネルギー政策全般を今世紀の日本に相応しいものに、抜本的に作り替えてしまう事である。

今一つは、軍備を持たない日本が、地球温暖化対策言う全人類共通の問題であり、極めて解決の難しい難題に真正面から取り組む姿勢を見せる事で、全世界の尊敬と支持を集めODAに並ぶ外交上のソフトパワーを確立すると言う事である。

先ずは、科学的な論考から進めたい。基本的な話であるが、そもそも地球の気温は上昇しているのか?仮にそうなら、どの程度なのか?

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綺麗な右肩上がりである。地球温暖化は確実である。

それでは、何故地球の温度は上昇するかである。単純に考えれば、日中太陽からの放射熱と同等のエネルギーを夜間排熱出来ておれば、ヒートバランスがゼロとなり、結果温暖化も冷温化も生じない。矢張り、何らかの理由により温暖化している訳である。

断熱効果として機能しているのは大気である。当然、大気の変化を精査する事になるが、二酸化炭素以外に顕著な変化は無く、二酸化炭素は化石燃料の燃焼により大きく増加している。

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相関関係を否定する事は難しい。従って、余り二酸化炭素削減に前のめりとなり、肝心の産業や,経済を破綻させる様な事はあってはならないが、エネルギー効率を向上させ、問題解決に舵を切るべきである。

具体的には、二酸化炭素発生を伴わない原発の活用。化石燃料を使用する内燃機関からモーター駆動への置換。発電、送電、電力市場導入による効率化及び産業構造の変換の四点が骨子となる。

先ず、最初の原発であるが、基本的な話として、核分裂によって生じるエネルギーを使用する為二酸化炭素は発生しない。従って、停止中の原発は随時稼働再開すべきであるし、新規建設も議論すべきである。

所謂、風力や太陽光と言った再生可能エネルギーは経済性がなく、この種、夢の中で夢を見るが如き議論にはピリオドを打ち、真面で実務的な議論に移行すべきと考える。

第二は、自動車、トラック、ジーゼル機関車等化石燃料を動力源とする内燃機関塔載の輸送機は可能な限りモーター駆動に移行すべきである。何も難しい話ではない。自動車で言えば従来型からEVに移行するだけの話である。電力を原発で賄えば従来輸送機が排出していた二酸化炭素の100%が削減可能となる。

第三は、発電、送電、それぞれの効率化、そして電力市場導入による更なる効率化である。化石燃料を使用する発電所の発電効率を向上さす事で発電当りの二酸化炭素削減が可能となる。一方、この種二酸化炭素発生を極限まで抑えた発電プラントは世界で歓迎される筈で、メーカーに取って有力商品に育つと予想する。

送電ロスを抑える為、今後の発電所新設に於いては、規模、消費地からの距離の最適化を図り、送電ロスの最小化に努めるべきと考える。

更に、電力市場導入により需要の少ない夜間の電気料金が下がれば、蓄電池を工場や一般家庭が導入し割安の夜間に蓄電し、高額な昼間に使用する事が予想される。現在の生産電力の無駄がなくなり、結果二酸化炭素の削減に繋がる。

最後は産業構造の変換である。これは、以前の記事内容をそのまま参照する。

経団連・米倉会長は住友化学の出身である。石油化学はナフサを原料とし、触媒を使った通常反応であれ、ラジカル反応であれ、基本、高温、高圧の状況で化学反応を制御し、これを繰り返し中間製品から最終製品に誘導する。エネルギー消費型産業の代表と思う。
従って、同じ一億円の製品と言ってもiPhone4S用の電子部品と石油化学製品とでは、製品製造に伴う二酸化炭素の発生量がまるで違う。石油化学に併せ、日本の環境対策を設定するのではなく、石油化学産業がベトナムやミャンマーに移転すべきなのである。大事な事はこの発想の転換と思う。

次は、地球温暖化対策に真摯に取り組む日本の姿を、如何にしてソフトパワー化しODAと並ぶ外交の切り札とするかである。

その前に、二酸化炭素排出のA級戦犯は誰か?を、はっきりさせる必要がある。

TKY201110050202co2中国-1この図が示すのは中国、アメリカが紛れもなくA級戦犯であると言う事実である。特に、中国のGDPは日本とほぼ同じであるのにも拘わらず、二酸化炭素の発生量は日本の約6倍である。

中国は今迄の所、南シナ海での領土問題が示す通りアジアの大国として傍若無人に振る舞って来た。一方、地球温暖化問題では発展途上国として、先進国が課せられた削減努力を免除されて来た。誠に以て自分勝手な振る舞いと言わざるを得ない。しかしながら、これから2015年に向かい、その圧倒的な二酸化炭素の排出量もあり、世界がこれ以上許容するとは思えない。一方、中国が強引になる事は世界からの孤立を意味する。

一方、中国とは対照的に、日本が元々GDP比較少ない二酸化炭素の排出量を飛躍的に削減する事に成功すれば当然世界は尊敬し、賞讃する事になる。

孤立する中国は、日本の技術援助を必要とする筈である。機器の輸出等で採算が取れるなら惜しみない協力をすべきと考える。少なくとも尖閣の領土問題の様ないざこざよりは遥かに前向きな話であるし、こういう関係を維持、継続すればある日突然のレアアースの対日輸出禁止等有り得ない。

そして、何よりも、中国海軍の航空母艦に軍事的に対抗するよりも、こういったソフトパワーを活用して無用の緊張関係を事前に排除する方が、憲法9条を国是とする日本には似つかわしい。

上記に述べた関係は、何も対中関係に特定した話ではない。人類共通の問題である、二酸化炭素削減を真面目に考えている国であれば、状況は何処も似た様なものと推測する。

そして、基本このソフトパワーは従来のODAとの二枚看板を考えているが、今後の展開如何ではODAの看板メニューとしての二酸化炭素削減に向けての技術協力や人材育成は大いにあり得ると思う。

地球温暖化対策は日本復活の切り札である事は間違いない。

山口巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役