温暖化の影響の本質

2011年12月12日 22:00

地球温暖化が現実に起こっていることは、各種データから明らかであり、議論の余地はない。生物分布の変化など具体的な温暖化の影響も顕著に見られるようになってきた。温暖化の原因については、二酸化炭素の増加が強く疑われているが、異論もあり確定的な原因が突き止められた訳ではない。


しかし、この問題にかなり以前から関心を持ち、多数の文献を読んで来た私は、温暖化懐疑論は根拠が薄弱であり、懐疑論の大部分の主張は疑似科学に類するものだと判断する(参考文献[1]参照:なお懐疑論者はその主張を啓蒙書でなく、査読付きの論文として専門誌に発表すべきだと考える)。

2007年のIPCCの第4次報告書では、今世紀中にシナリオにもよるが、約2.0℃の気温上昇が予測されている。この予測をベースに、温暖化がどのような影響を持つのか、簡単に考察する(温暖化問題の政治的側面である南北問題には言及しない)。なお温暖化問題を簡単に知るには参考文献[2]を見ることをお勧めする。

一般的な温暖化の影響の理解

温暖化の影響というと一般の理解は、

(1) 猛暑日の増加などの直接的影響
(2) 農作物の栽培適地の北上
(3) 自然災害の増加、巨大化
(4) 海面上昇による沿岸部の被害
(5) マラリアなどの熱帯性の疾病の北上

といったところであろう。さらには温暖化防止のために経済活動が制限され不景気になるといった超短期的影響を考えがちである。 人間は古代から本質的にその能力は進歩しておらず、明日のことは考えられても、遠い将来のことは考えない傾向にあり、これが諸問題の源になりがちである。

しかし、こういった認識は極めて部分的であり不十分である。実際の影響はそれを遥かに上回る。 

物質循環システムの破壊

人間の生活は、その属する生態系に依存している。食物や水といった生存に必要なものは、生態系の維持により持続的に供給されている。 経済的にあまり考慮されないが、上流部の森林が消失すれば、山の保水力が低下し、水不足を招く。サケの遡上が上流部へ窒素を供給し、川が森林から流れ出る栄養分を海に流すことで豊かな漁場が維持される。こういった物質循環システムが我々の生活を支えている。温暖化による影響の本質は、この物質循環システムの破壊である。 

IPCCの予測では今世紀末までに少なくとも2℃程度の平均気温の上昇が見込まれている。これがどのようなインパクトを持つのか考えてみよう。

気温は標高が100メートル上がる毎に約0.6℃下がるから、2.0℃の気温上昇は生物の垂直分布を300メートル強上に押し上げる作用を持つ。しかし、問題は植物が分布を移動できる距離は多くの種で年に数メートル以下であるという事実である。従って、2.0℃の気温上昇であっても、極めて広範囲の森林や草原が荒廃し、枯死する森林や、草原が砂漠化する場所が増加すると考えられる。 これが水不足や農業の破壊をもたらすことは避けられない。 温暖化の真の問題は、このように温暖化のスピードが生態系の適応限度を大きく超えていることにある。 単に縄文時代の気温や生態系に戻るといったことでは決してない。 実際。参考文献[3]にあるように、今世紀中に本州からブナ林がほとんど姿を消すというシミュレーションがある。

気候の相転移

さらにもっと恐ろしいのは、気候の相転移の問題である。地球を一つの力学系と考えるとこれは不安定な力学系であり、何れかの時点で相転移が起きる可能性がある。相転移とは力学系の状態の(パラメーターの摂動による)不連続な変化のことである。

例えば、ジェット気流がヒマラヤの南北何れかを通っているが、それが季節によりスイッチすることでモンスーン気候がもたらされる。 これがもし北、南どちらかに固定されたとすると、乾季、雨季の区別が消滅するなど劇的な変化が起きる。例えばこれにより日本の梅雨や秋霖が消滅するとすれば影響は計り知れない。 このような変化が実際に起きた場合には、原因を取り除いても元に戻すことは不可能である。

こういった相転移がいつの時点でどのように起こるのかを予測することは、極めて困難である。気候変動をどんなに精密にをモデル化し高性能のコンピューターでシミュレーションをしたとしても、幾らでも正確な予測を出来るわけではない。これは一種の不確定性原理のようなもので、モデルの方程式の係数を少し摂動しただけでも大きく結果が異なるといったことが起こりうる(バタフライエフェクト)。 これを直感的に理解するには、20日後の天気を正確に予言できない現状(恐らく将来に渡っても)を見れば事足りる。

まとめ

温暖化問題は政治的には南北問題であるが、科学的には温暖化問題は人口爆発と共に、人類存亡の危機をもたらす重大な問題であると思われる。温暖化の問題は原因の確定やその将来予測が不確実だからといって対応を先延ばしできる問題とは考えられない。

参考文献

[1]「地球温暖化懐疑論批判(東京大学)」 http://www.ir3s.u-tokyo.ac.jp/sosho

[2]「地球温暖化の真実 住明正」 http://www.sanshiro.ne.jp/activity/02/k01/schedule/6_21a.htm
[3] 「温暖化による日本のブナ林への影響予測」 http://www.ffpri-hkd.affrc.go.jp/koho/rp/rp89/report89.pdf

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