遺伝子組み換え技術の必要性

2011年12月26日 01:52

先日、私の書いた「遺伝子組み換え食品との付き合いかた」をご購入いただいた方が、次のようにつぶやいているのを見つけました。

「何のための技術か」が疑問でならない。研究したり解明するのはいいとして、なぜどうして技術として広く使わなきゃならないのか。その恩恵はその技術でしか得られないのか。そもそも必要なのか。

あまりにも基本的な疑問のため、私の本ではこの疑問に対する答えを用意していませんでした。しかし、問われてみればもっともな疑問です。そこで、私の考えを述べておきたいと思います。


まず、この疑問に対する答えの一つとして、本の中でも取り上げたハワイ産のパパイヤの事例を挙げることができます。ハワイでは1990年代にパパイヤのウイルス病が蔓延し、パパイヤ農家が壊滅しそうになりました。植物のウイルス病は、農作物にとっては非常に大きなダメージを長期にわたって与えることになります。そこで登場したのが遺伝子組み換えパパイヤでした。現在では、ハワイのパパイヤの半分以上が遺伝子組み換えに転換しており、この割合はこれからも増え続けていくと考えられます。

「何のための技術か」という疑問に対する一つの答えは、こうした「農業独特のトラブルに備えるため」だと考えられます。

農業のテーマは、「生産を安定させること」「需要の高い農作物(味、栄養、安全性)を提供すること」「継続的に生産すること」「効率的に生産すること」などです。農業においては、低いコストで高付加価値の商品を安定的、継続的に作らなくてはなりません。

一方で、現在は「世の中の役に立って初めて科学である」という考え方が一般的で、遺伝子組み換え技術も例外ではありません。当初は「科学者の知的好奇心を満たすためのもの」でしたが、すぐに「どうしたら人の役に立つことができるのか」を考えるようになったはずです。そして、「遺伝子組み換え」と「生活」の接点が、「医療」や「農業」だったわけです。遺伝子組み換え技術は医薬品分野はもちろん、農業とも切っても切れない関係になりつつあります。

商業栽培されている遺伝子組み換え農作物は、生産者、あるいは消費者のメリットを追求したものですが、割合で言うと、前者がほとんどです。それは「日持ちする遺伝子組み換えトマト」が市場に受け入れられず、「消費者メリットは遺伝子組み換え農作物の需要性につながらない」と判断されたからと言われています。消費者メリットにつながらない農作物ばかりですから、消費者としては「どうしてこんなものを」と考えてしまうのも道理です。ここで考えなくてはならないのは、「なぜ、消費者メリットが需要性につながらなかったのか」ということです。私は「消費者の技術に対する理解度が低かったから」と考えています。そして、その状態は今も変わっていません。

「理解度の低さ」が消費者のデメリットになるストーリーを示すと、こんな感じです。

◯社会の遺伝子組み換え技術に対する理解度が低い
◯消費者が感覚的に遺伝子組み換え農作物を忌避する
◯メーカー、生産者が遺伝子組み換え農作物を避ける
◯加工品では、「遺伝子組換え不分別」の表示をしない
◯遺伝子組み換え、遺伝子組み換え不分別の区別がつかない
◯消費者の選択の自由が奪われる
◯消費者は「価格」によるメリットも得られない

市場原理が働くなら、遺伝子組み換え農作物を利用した食品は安価になるはずですが、実際にはそうなっていません。また、遺伝子組み換え農作物を避けたい人も、避けることができなくなっています。一番理想的な状態は、スーパーに「遺伝子組み換え」の安価な納豆と、「遺伝子非組み換え」の高価な納豆が並んでいて、消費者がそれらを自分の意思で選ぶことなのですが、それができない状態が続いています。みんなが遺伝子組み換えのメリットを得るためには、技術を理解し、選択できることが必要です。

物凄くあたり前のことですが、研究者たちは、自分の知的好奇心をベースに、社会の役に立つことを願って研究をしています。多くの遺伝子組み換え農作物の研究者たちは、「社会の役に立つはずなのに、それが社会に理解されないのは残念なことだ」と考えているに違いありません。

さて、こうした背景のもと、冒頭の質問に答えます。

「何のための技術か」
→私たちの生活を豊かにするための技術です。

なぜどうして技術として広く使わなきゃならないのか
→これまでの技術に比較して迅速に、副作用が少なく目的を達成することが可能だからです。

その恩恵はその技術でしか得られないのか。
→現在の科学技術をベースにするなら、そうであるケースがほとんどです。

そもそも必要なのか。
→世界の食糧問題を解決したい、貧困を解決したい、農業をより安定した産業にしたいと考えるのであれば、必要だと思います。

────────────────────────────────────

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑