「思想地図β2」を読んで2011年を考える

2011年12月28日 12:09

地震によって文字通り揺れ動いた一年を振り返るにあたり、一冊の本の感想を書いてみたい。その本は「思想地図β2」である。

僕はこの本を3回読んだ。最初は発売されて半月ぐらいが経った頃だった。二度目は、拙著「総統閣下はお怒りです」(ブックマン社)の企画でこの本の編集長である東浩紀さんとの対談があって、その直前である。そして、年末にもう一度読んだ。面白いのは、短い間に3回読んだにも関わらず、そのたびに本から受ける印象が異なることだ。書いてあることが変わるわけはないので、読み手である僕の立ち位置が少しずつ変わっているということだろう。


ここでは、あえて今回ではなく、二回目に読んだ直後の読書メモを書いてみる。

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詩は、日本人がバラバラであるということを象徴的に表している。バラバラだからこそ、この詩の受け取り方は百様で、なかでも東浩紀氏に対して肯定的ではないクラスターには理解不能かも知れない。僕にとってこの詩は「リアルタイムで読んでこそ力を持つもの」で、今となっては記録の範疇にとどまる。機能的には「あなたはどのクラスターですか?」といった踏み絵のような印象も受ける。

津田大介さんの文章は日本語にかなり難があって、この本の中ではかなり異質な印象を持つ。僕は内容と同時に表現のフォーマットやリズムを大事にするタイプの人間なので、この文章はなかなか頭にすんなり入ってこない。

多くを占める対談パートは話がやや難しすぎて、少なくとも僕は置いてきぼりになりがちだった。ただ、この本はそれでも構わないんだと思うし、僕もそのことに文句があるわけではない。次に読むときには理解できるかも知れないし、やっぱりダメかも知れない。

佐々木俊尚さんの文章は、ことIT分野に限れば非常に面白い。ところが、その他の部分に足を踏み出すと、とたんにチープになり、通り一遍になってしまう。行政、特に漁業行政について、佐々木さんはどの程度の知識があるのだろう。僕は自治体の水産業振興プランを作るくらい(とはいえ、僕が担当したのはもう10年以上も前になるのだが)には専門家なのだが、佐々木さんの水産業に対する提言はちょっとレベルが低いと感じた。

竹熊さんの文章は平易でわかりやすく、内容的にも共感できるものだった。氏の考え方は至って普通にも感じられるのだが、今の日本ではこの考え方はマイノリティなんだろうか。

八代さんの文章は文体が硬すぎて、論文を読んでいるような錯覚に陥った。本音で言うと、こういう人が科学コミュニケーションを論じているうちは、科学コミュニケーションはダメなんじゃないかと思う。科学コミュニケーションは僕も昔から自分でやってきている分野だが、少なくとも僕が目指している方向ではないと感じた。

東さんは冒頭で「日本人はバラバラになってしまった」と書いている。震災という強烈な光のもとで見てみたら、日本人はバラバラだった、ということだ。日本人のつながりは、何かを共有しての積極的なつながりではなく、仲間外れになりたくない、嫌われたくない、という、消極的な心理がベースにあると思う。この疎水結合的なつながり(馴れ合い)は、普段は強く、でもいざとなれば脆い。そんな日本社会で、東さんは何をしたいんだろう?きちんとしたつながりを作りたいんだろうか。多分、戦後の20年間ぐらいは存在したであろう、日本人の中のつながりを取り戻したいのだろうか。
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このメモを書いたあとで幸運にも僕は東さんと直接対談する機会を持てたので、幾つかの疑問についてはその時に直接伺うことができた。その内容は「総統閣下はお怒りです」の巻末付録「思想地図βから来た男」に収録されている。引き続き、東さんのこれからの活動に注目していきたいと思っている。

今生きている日本人、特に東日本の人にとって、今度の震災は一生忘れられないものになると思う。その震災と自分との距離を時々確認するツールとして、この本は非常に役に立つと思う。「こう考えるべき」という模範例を提示するものではなく、自分で考えるときの一つの光のあて方を教えてくれるものだ。僕の感想を読めばわかると思うが、必ずしもこの本の内容の全てが僕にとって有益だったわけではない(もちろん、有益な部分もたくさんあった)。だけど、今回は役に立たなくても、5年後には役に立つかも知れない。見えてこないのは自分のせいかも知れないのだ。だから、この本は大事にしたいのである。

本の感想は百人百様。読んでみてつまらないと思ったら人にあげてしまうのでも良いはずだ。だから、もしこの本をまだ読んでいない人がいるなら、ちょっと手にとってみることをお勧めしたい。一冊あたり635円が義援金になることでもあるし。

なお、なぜ「二回目」の感想を書いたのかと思われるかも知れないが、今回の感想はまだ個人的すぎて、文章化するのが難しかったからである。


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