自由主義の蹉跌

2011年12月29日 00:00

物体上に初期の熱分布を与え、時間と共に熱が拡散する様子を記述することを考えてみましょう。このとき熱の拡散は各点の熱量のラプラシアン(2階微分作用素)により規定される。

このように多くの物理現象は微分方程式に従う。これは微分(局所条件)が物理現象を規定しているわけで、これは各点の近傍の熱量分布だけにより、大域的な分布には依存していません。このように微分方程式で規定される現象は全て局所現象の総体が大域的な現象となる。 

しかし、こういった局所現象の総体が大域的な現象となるようなモデルでは最適化ができない問題も数多く存在します。

この論説では自由主義の限界を指摘し、それがどの様に修正されるべきなのかを考えたいと思います。 この問題の要点は、局所最適化と大域最適化の齟齬ということです。


人間に見えるもの見えないもの

人間の本性は太古の昔から殆ど変わっていないと思われます。 従って本来的に人間は次のような特性を持ちます:

(1) 大き過ぎるものは見えない。
(2) 遠くのものは見えない。
(3) 不確実なものは見えない。

人間は大き過ぎるものは見えない。 都会に住む人は水や空気がどこから来るといったことには関心を持たない。 まして山の植生が水資源を支えているといったことまで、とても頭が回らない。環境問題に関心がないのは当たり前です。大きいシステムには実感が湧かない。

遠すぎることや遠い未来のことにも関心を持てない。50年先のことを考えて投資する人間は殆どいない。 明日のことしか考えられないから財政破綻の危機が迫っても国民は行動を起こさない。 同じようにアフリカの旱魃や、パレスチナ問題のことも一般の日本人は関心を持ちません。

不確実なものは見えない。今年の福島原発一号機の事故も、滅多に来ない地震や津波は経営者や従業員の意識には全くなかったに違いありません。人間には確実なものしか見えないのです。 不確実なものは見えないから、人の行動は合理的でないこともあり得る。  その典型的なものが、今回の原発事故の放射能汚染に対する過剰反応でしょう。

以上のように人間の行動は近視眼的であり、しばしば不合理なのが現状でしょう。

局所最適化と大域最適化

経済学は最適化理論であり、自由主義の考え方は、簡単に言えば、個々が自由競争を行うことにより最適化を図るということです。 自由主義の素晴らしさは、計画経済のような硬直性がないために、自然に秩序が生まれるといった柔軟性にあり、不確実性を自動的に取り込んで最適化が行われることにあります。 

しかし、このシステムが機能するには条件がある。  上に見たように人間の考え方は近視眼的であり、全体は見えていない。従って自由主義が機能するには局所最適化によって大域最適化が実現するという条件が必要です。 しかし、これは現在の世界では必ずしも成り立たない。 それは多くの場合、世界の有限性に起因するものです。 つまり大域的な制約条件(例えば資源の有限性、環境制約)が存在する場合、局所最適化は大域最適化とは必ずしも一致しない。

ケーススタディ

それではどのような問題に対して、局所最適化が大域最適化と齟齬をきたすのか、いくつかの例を挙げましょう。

(1) バブルの発生と崩壊: 先進国の潜在成長率は小さくなっている。これが有限性。 しかし、局所最適化によりそれ以上の成長が短期的には可能だというのがバブル発生の原因です。従ってこの場合、局所最適化と大域最適化は食い違っています。

(2) 環境制約: 世界人口は増加した方が市場も拡大し、経済成長には好都合です。しかし、長期的には食糧生産や環境問題の深刻化などを招くので人口増加はサステナブルではない。これが有限性です。従って局所最適化は人口増加を選ぶが、時間大域的には人口を減少させるのが最適化になる。 

(3) 財政問題:現在の日本の最大の問題は財政破綻を如何に防ぐのかということでしょう。 この場合、問題を先送りすることが局所最適化、増税や社会保障の削減が大域最適化であり、やはり食い違っている。 この場合は経済成長の有限性がネックになっています。

自由主義の限界と新しい経済学への期待

このように本当に必要なのは大域最適化であるという立場に立つのなら、人間が近視眼的な動きをする限り、自由主義は修正されなくてはなりません。 それは個々の行動が、局所的な条件だけでなく大域的な条件に従って規制されなくてはならないということです。 

これは数学的には偏微分方程式を考えることから、時間的、空間的に大域的な情報を取り込んだ、例えば積分微分方程式を考えることに相当するわけです。このような経済学がないのであれば、今からそれを作ればよいのではないでしょうか。

人間の近視眼的な世界観を乗り越える工夫が今、求められていると思います。 


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