GEPRの活動に期待したい

2012年01月04日 11:34

新年早々、三が日も開けないうちからアゴラ研究所の研究機関(GEPR)が活動を始めたということで、早速その論文を読ませていただいた。

放射線の健康影響 ― 重要な論文のリサーチ

元シンクタンクの研究員で、中央官庁でも働いていた立場からも、政策提言のできるシンクタンクはぜひ必要と考えており、GEPRのコンセプトも素晴らしいと思う。そこで、今後の有意義な活動のためにも、この論文を読んで気になった点を書いておきたい。


まず、論文である以上、それを読む人が調査を再現でき、かつ、考察の妥当性を検討・議論できる必要がある。ところが、この論文はその条件を満たしていないように見える。また、客観的事実と著者の主観が混在していてる点もわかりにくい。さらに、「被爆」による「確定的影響」と、「被曝」による「確率的影響」がきちんと分離して解釈されていないようにも見える。加えて、何の議論もなしに「低線量被曝による健康被害」と「LNT仮説の正否」を同義的に扱っているふしがある。これらの問題点をまとめると、次の5点になると思う。

1.調査の対象となった論文の抽出方法、対象となった論文のリスト、その客観的分析結果が提示されていない。
2.リファレンスに提示されている論文が今回の調査対象の全てとするのであれば、13報はレビュー論文として貧弱で、著者の論述の根拠を追い切れない。
3.客観的事実、分析、考察、および結論が分離されていない。
4.原爆による被爆と、以後の継続的・長期的低線量被曝の検討についての考察が分離されていない。冒頭で「確定的影響」についてはサーベイしないと宣言しているが、この論文で取り上げている「原爆被爆者の追跡調査」は、放射線影響研究所の論文を参照する限り、「確定的影響」を中心に追ったものと考えられるのではないか。もし、「原爆被爆者の追跡調査」が「確率的影響」を追ったものであるならば、原爆から発生した放射性物質量と今回の原発事故から発生した放射性物質量との比較等について説明が必要ではないか。
5.LNT仮説と低線量被曝の健康被害を同一として考察しているように見える。つまり、「LNT仮説は間違っているから、低線量被曝は問題ない」という解釈をしているようだが、それは妥当なのか。

以下、ざっと逐語について感じたことを書いてみる。

この研究結果自体の後世へのインパクトはあまり大きくない

→根拠不明。どういう理由でこう判断したのかが不明。

広島・長崎の原爆被爆者の追跡調査(LSS)データに対して日米共同研究機関である放射線影響研究所(RERF)がLNT仮説に基づいて、発がんリスクが浴びた放射線量に比例するモデルをあてはめたこと(他のモデルも当てはめたがこの直線モデルが最も適切であるとした)がそれ以降に非常に大きなインパクトをもたらした。

→何を以って「大きなインパクトをもたらした」とするのかが不明。

線量はモデル家屋・人体を用いたコンピュータシミュレーションと残留放射線量との照合でかなり信頼のおけるものとなっている。

→何を以って「かなり信頼のおける」と判断したのかが不明。

被爆者手帳を持っている人は医療上優遇されるので、その人がいつどのような病気にかかったか、いつどのような病気で亡くなったかの追跡調査は正確になされており、対象者は約12万人に及ぶ。

→原爆による放射線被害は爆発時の短期的な被曝が中心で、低線量被曝ではないのでは?前段の引用にも取り上げたが「浴びた放射線量は爆発時にいた場所や遮蔽物などの自己申告の結果」としている以上、長期的な低線量被曝とは考えにくい。

生物学的にLNTを否定する結果を報告している論文は種々ある((文献6)など)。

→論文をサーベイしました、という研究なのだから、「種々ある」ではなく、全てを列挙すべき。

疫学データを拠り所とするならば、100mSv以下の低線量域では有意なリスクの増加が認められないケースがほとんど大多数である。

→疫学的データから有意なリスクの増加が認められないとしたケースを全て列挙すべき。

低線量の放射線を浴びても「有意なリスクの増加が認められない 」ということは、放射線の影響の大きさは、それを解析する際に「誤差項」と仮定する他の発がん要因(喫煙・食事・生活習慣等)に埋もれてしまう程度の大きさでしかないということだ。

→低線量被曝とリスクの相関についての論文提示が少なすぎて、「・・・ということは」の部分を前提として受け入れられない。

最近の論文は「LNTはリスクを過大評価している」という論に立つものは多いが、LNTを擁護する論文は見かけない。

→「多い」「見かけない」ではなく、具体的に列挙する必要がある。提示がなければ検証が不可能。また、LNT仮説が正しいか、正しくないかがポイントではなく、100ミリシーベルト以下の長期的な低線量被曝の健康被害が問題なのであって、LNT仮説にこだわっているのはやや的外れな印象がある。LNT仮説を否定するとこと低線量被曝の健康被害を否定することは同値ではないので、もしそう解釈するのであれば、その根拠を提示する必要がある。

現在の疫学研究結果はほとんどが短期の被ばく

→自ら現在のところ長期に渡る疫学研究結果がないことを認めている。これは広島・長崎の追跡調査の有効性を否定しているもので、本論文との論旨と整合性が取れていないように見える。

以上、いくつか気になる点を挙げさせていただいたが、引き続き、GEPRの活動と、有意義な情報が発信されることに期待したいと思う。

2012/1/4 21:15 追記
放射線の低線量被曝については私の専門外のためリファレンスをあたっていたのですが、5.のペーパー(2000年)を書かれているE Cardis氏が次のような論文(2005年)を執筆されているのを見つけました。

Risk of cancer after low doses of ionising radiation: retrospective cohort study in 15 countries
http://www.bmj.com/content/331/7508/77?tab=full

このあたりについても検討が必要かも知れません。


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