職業としての政治家 --- 中谷 孝夫

2012年01月06日 08:00

20世紀の初頭に、本題で著書を出したマックス・ウェーバーが、現在の日本の政治家の資質について質問されたら、どう答えるだろうか。一般的には、現代の政治家にとっての最低限度に必要な政治目標とは次のようなものだろう。

•自国益の主張と追求
•外国による侵略防止と国防の確保
•平和の達成
•民主主義の維持
•経済成長の推進
•効率的な行政の施行
•均衡財政の達成
•国内の治安と秩序の維持
•汚職の防止
•教育の増進
•公平な選挙制度の確立
•同一労働、同一賃金の原則の徹底
•男女同権の浸透


現在の日本で政治家をする者にたいして、社会は当然これらの目標の達成を求めるだろう。ところが、これらの目標を実際に追求している政治家が、現在の日本に何人いるのだろうか。

戦後の政治史を顧みる時、敗戦から立ち上がろうとして、真摯にこれらの目標を追求した政治家は、幾人かは存在した。吉田茂、石橋湛山、池田勇人、田中角栄等が挙げられるだろう。ところが、日本経済も順調な発展を遂げ、社会が複雑化するにつれて、政治に付随する色々面倒な問題が発生してきて、政治家の仕事も難しくなってきた。その反面、「政治家の資質も急激に低下している」のも、無視できない現実である。これも、戦後50以上にもわたって自民党が長期政権を担当してきたので、その考え方や政治運用にも柔軟性を欠く状態が発生したのも、ある意味では当然の成り行きだったわけである。

通常、選挙に必要な3要素があると言われている。それらは「カバン」「地盤」「カンバン」である。普通の人は、この3要素の確保が難しいので、親の代からこの「3バン」を引き継いでいる世襲候補が幅をきかせた結果、「自民党では75%、民主党では50%の議員が世襲だ」と言われるような硬直した状態を作り出してしまった。その上「2世代の世襲を通り越して5世代の世襲も存在するような状態が発生している」ことは異常と言わなければならない。さらに「世襲の世代が新しくなるにつれて、政治家としての資質が着実に低下する」という傾向も看過できない。

根本的には、このような状況を造ってしまった選挙民に責任があるのは明白である。その反面、政治家としての基本的な責務遂行の任務を忘れて、次の選挙に再選することだけを念頭に置いて政治活動をしている現職の議員にも大きな問題があるのも疑問の余地がない。現政権を担当している民主党の現状を具体的に言えば次のようなものだろう。

•不透明かつ違法な選挙資金活動

ゼネコン界に顔を聞かせて多額の政治資金を徴収し、また政党を次々結社して、政党助成金を取得した後、その政党を解散して、その残額をプールにして不動産投資をしている小沢一郎。母親から選挙資金を貰って、税金を支払わずに脱税行為をした鳩山由紀夫。

•自国の安全を脅かす外交姿勢

沖縄の米軍基地移転問題で、移転先もないのに、「最低県外移転が可能」という立場で、日米関係を極端なまで悪化させた鳩山由紀夫。その結果、尖閣での中国関係や北方4島のロシア問題を悪化させた。日本が自己の海域と主張する尖閣諸島で逮捕した中国人の船長を、もともと総理が判断すべき仕事を地裁に押し付けて、結果的に彼を釈放するという「弱腰外交をした」菅内閣。この事件に憤慨し、そのテープをYouTube に流した海保自衛官を辞任に追い込んだ仙石官房長官。

•東日本の災害後、いち早く復興の対策を取らずに、怒鳴り散らしていた首相の菅直人。

神戸大震災の時の村山首相のように、有力な部下に復興の任務を担当させずに、部下を怒鳴なり散らしていた無能の菅直人。

•自分の失政で責任を取って議員辞職をすることを表明した首相が、長々と首相の職に留まり、バカな意見を吐き続ける状態

菅首相が辞任する最後の数か月は、復興や災害の実態を把握しないで、自分一人の孤立状態になり、政治の空白をつくり、災害の損失を大きくしてしまった。いったん議員辞職を声明した鳩山由紀夫も、未だに議員活動を継続している。

•「予算の仕訳」などにみられる選挙目当てのゼスチャー

鳩山内閣から始まった「仕訳」は、結果的には、選挙戦のためのパーフォーマンスに過ぎなかったことが明白になった。見つかった「埋蔵金」は、最初の予想よりずっと少なかった。国民はこの劇の主役を演じた蓮舫議員にうんざりしている。

•次の選挙で得票をするための「バラマキ政策」

財源もないのに、「子供手当」等の選挙目当ての政策を継続して、財政状態の悪化させている野田内閣。

•政治家としての資質に欠ける多数の素人議員

「小沢ガールズ」に見られるように、政治能力のない素人議員が増えた結果、議員の質が大幅に低下している。議員数を2割削減するという公約は、空手形になりかけている。

•財政規律を忘れた膨大な公共事業の展開と膨れる社会保障にだけ賛成する野田内閣

「コンクリートから人へ」という聞こえのいいスローガンで、無駄な建設事業を省くと約束しながら、いったん廃案にした「八ッ場ダム」の建設案を復興しようとしている野田佳彦。

•公務員の経費節減を約束しながら、増税しかしない内閣

選挙公約に反して、2011年末の公務員のボーナスを4.1%増して支払ったことに対して、納税者は大変憤慨している。

•赤字幅削減に、増税だけを考える首相

財政赤字幅削減の主な手段として増税を積極的に推進しようとしている。現在の政府案は、2013年10月に現在の消費税率を3%引き上げて8%に、2015年にはさらに2%の追加引き上げで10%になることが見込まれている。2018年には、さらに5%を積み上げて、最終的には15%にするだろうと予測する人達もいる。それ以外にも、所得税率の引き上げも考慮中らしい。橋本内閣が行った消費税の2%の引き上げがどんな影響を持ったかを完全に忘れてしまっているようである。国民は、経費削減を前提にした増税には理解を示しているが、経費節減なしの増税には、賛成38%に対して53%が反対をしている。野田内閣の「増税ごり押し政策」が続くと、この差はさらに拡大するだろう。

•民意を無視して、選挙を先延ばしする内閣

これだけの悪政を続けながら、「ドジョウ内閣」は選挙民の声を無視して、「ブレナイ態度」を取り続ければ、選挙民の不満の声は、いずれ何らかの形で爆発するだろう。次の選挙の結果は、素人でも推測がつくであろう。これだけの愚行が続けは、さすが国民も我慢がならず、世論調査で政権不信任の意見を表すのは当然である。

数週前に、選挙に詳しい小沢一郎は、「2012年に選挙がある」と予想していたが、数日前から「4月に消費増税の選挙説」が現実感をおびてきている。事実、野田首相は、首相経験者に「消費税選挙の可能性」を告げていたそうである。

前回の選挙で国民が民主党を選んだ理由として、2大政党制の確立の願望があったと思われている。ところが民主党は政権公約の実行過程で、上記のような失政を連発して、選挙民を落胆させた。現在の時点でも、民主党の将来を落胆した党員が、すでに民主党離れをし始めている。この次の選挙の結果では、恐らく多数の小党が割拠する不安定な政局が長く続くだろう。その理由の主なものは次の通りであろう。

A:選挙民は、次の選挙目当ての「バラマキ政策」には、飽き飽きしている。

B:自国の利益にならない弱腰の外交には嫌悪感を持っている。特に中国、韓国、北鮮にたいする丸腰の朝貢外交にはついていけないと国民は感じている。日本も憲法を改正して、軍隊を持ち、自分で国防を担当する意思と気構えがないと、中国、韓国、北鮮に足元を見られて、小突き回される。

C:現実を無視した財政規律の放棄に、国民は危機感を持っている。小泉内閣当時は、年間の赤字幅が30兆円だったものが、民主党になって五割増しの45兆円になっている。これは財政支出の半分が借金ということである。「ギリシャの日本版」が発生する可能性を国民は憂慮しだしている。

D:野田内閣の経済政策は、増税を柱にした「大きな政府」を目指しており、日本経済の将来は「失われた20年」の延長になる可能性が大きい。

E:甘やかされた日本の選挙民は、大幅な財政赤字にも拘らず政府からの給付の増加のみを要求する。財政赤字削減も不可能に近い状態になっている。

F:無能で高給取りの国会議員が多すぎるので、経費削減も出来ない。国土が25倍広くて、人口が倍以上あるアメリカよりも国会議員の数が5割も多い日本の状態は注目に値する。(アメリカ総数535人、上院100人、下院435人に対して日本は総数722人、衆議院480人, 議院242人)

G:規制が多くて、円高が継続しているので日本の企業は工場の海外移転に生死をかけている。これも税収が伸びない原因の一つになっているが、政府は規制緩和に熱心ではない。

H:先進国では、福祉政策は財源枯渇で行き詰っているにもかかわらず、民主党は未だに福祉追求政策を推進している。

I:衆参の「ねじれ現象」を解決し、効率的な政治と行政を実行する手段として、「参議院の廃院」を議論する段階に来ていると考えられる。

J:新規産業の育成の見地から、シンガポールのようにギャンブルを公認する可能性が高くなってきている。

K:社会が多様化し、市民の要求も複雑化しているので、二大政党では、この要求に答えにくい。

L:既成政党の行政能力に失望している選挙民は、「大阪の橋下維新党」に最後の望みをかけている。中央政治がマンネリ化しているので、地方からの改革の嵐が中央へ吹き抜けることを、選挙民は期待している。

このような日本の壊滅的な現状を見て、「政治には情熱を持って、政治的なプラスとマイナスを比較して、妥協をしながらプラスを最大にするべきだ」というような高尚な意見を提唱したマックス・ウェーバーもあの世で苦笑しているだろう。

2012年1月3日 米国ミネソタ州にて

中谷 孝夫(なかたに たかお)
View from Lake Minnetonka ミネトンカ湖畔からの日本観察記 在米45年の元ウォール街の証券アナリスト


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