日本国債市場がはじける時

小幡 績

今年こそ、はじける年にしたいと思っている。

そこで、まず、尊敬する池尾先生にチャレンジしたい。国債バブルははじけてもいいはずなのに、なぜはじけないのか。という記事に対する反論である。彼は何もわかっていない。彼の引用する論文もわかっていない。

ある大学の行動経済学のフロンティアの授業のメンバーを見て驚いたのだが、行動経済学を講義するのは、20年前まで、すべてのものを合理性で説明しようとしていた人々なのだ。それじゃあわからない。合理的にしか考えられない人が、はやりが行動経済学になったから、ゲーム理論の枠組みを行動経済学的にして今度は語るのでは、実際の経済はわからない。市場もわからない。

そう。だから、大御所池尾氏はわかっていないのだ。彼はまともすぎる。市場というのは、まともじゃない。まともでない状態が市場がまともに機能している状態なのだ。

市場とは何か。取引をする場である。何のために取引するか。儲けるためである。儲けるためには何をするか。相手からうまくかすめ取るのである。この取引主体は誰か。個人や企業、機関投資家、欲望の渦巻く経済主体である。まともになるはずがない。


みんな国債になると、まじめになりすぎる。

確かに、投資銀行やファンド業界でも、fixed income とequityの人たちは人種が異なり、ある程度キャリアを積むと、身体が他方へ移動することを拒むようになる。fixed incomeとは債券中心で国債はこっちの世界だ。

こっちの世界は、株の世界とどう違うか、というと、理屈の世界だということだ。株は狩猟民族で、山師タイプが良くあい、理屈よりも勢い、本能、好奇心、といったことが重要だ(反論もあるだろうが)。債券の世界は理屈で決まる世界で、機関投資家のトレーダーも運用者も知的なタイプで、とにかく冷静に細かく理論的に分析する。

だから、という面もあるだろうが、しかし、債券とて、金融商品であり、金融市場で取引されている以上、市場の欲望にまみれているのだ。

サブプライム証券化商品と国債は同じ穴の狢で、ともにバブルであり、有力大規模投資家がみんなで同じ資産に群がれば、それはバブルになるし、確実に上がり、リスクなしで儲かる。リーマンショック後も前と同じメカニズムで、違う金融商品にイナゴの大群のように移動しただけだったのだ。

そう。国債も金融商品なのである。

だから、国債も当然バブルになるし、リスク資産回避となれば、国債がバブルになるに決まっている。金がバブルになるのと同じだ。

金融商品となれば、バブルになるのは当たり前で、みんなが買えば買うし、みんなが逃げるまでは売らない。サブプライム証券化商品と全く同じだ。サブプライムが破綻するのは、2007年の2月に分かっていて、バーナンキも議会証言で、破綻するが破綻しても米国金融市場、システムに与える影響は軽微、といっている。サブプライムメルトダウンという言葉はnytimesも使っていたから、金融関係者以外もよく知っていた。しかし、むしろ、金融市場でははじけなかった。それが金融市場だ。ファンダメンタルズは関係ない。ゲームの場所なのだ。

国債も同じで、ギリシャもイタリアも同じことだ。

日本国債はどうか。それが、今の焦点だ。

日本国債のバブルは長期にわたって続いている。少なくとも2001年からはずっとバブルと考えて好いだろう。そして、サブプライム、欧州国債と違うのは、世界的なバブルではなく、日本国内のバブル、しかも、非常に限られた主体による国債の買いの集中だ。

日本の80年代末の不動産、株式バブルを考えてみると、株式に関しては、個人を含め、ほとんどの国内の金融資産を持っている主体が買っていた。そして、海外勢はまったく手を出さないほど、異常に高かった。90年から暴落が始まり、未だにその暴落が続いていると見ても好いが、ITバブルで1999年に一度途絶えたと考えるのが普通だろう。

そうだとすると、1990年代の10年に市場はどうだったか。ずっと悪いことは分かっていながら、とことん落ちるには、アジア金融危機が必要だった。やはり、徹底して落ちるには外部が必要で、それまで内部で買い続けていれば、外部に負け始めれば、それまで買われていたという事実は売り玉が異常に溜まっている、出てくる、という事実を意味する。だから、そこからはとことん落ちるが、それまではその気配もない、ということだろう。

すべての金融商品の価格は需給で決まる。まだ、供給が急増する、ということが確実な事実となるまでは、マーケットはそれを織り込む必要は無いし、織り込まないのが普通なのだ。

したがって、現在の日本国債市場は、長期にわたるバブルであり、それが崩壊する直前まで、その崩壊リスクは織り込まれないだろう。そして、それは金融市場では、普通の出来事なのだ。バブルの崩壊も。