【GEPR】発電コストと原発の経済性(下)

2012年01月11日 09:30

アゴラ研究所の運営するエネルギー研究機関GEPRは、エネルギーをめぐる意義のある情報を、中立的な立場で提供しています。発電コストと原発の経済性について、編集部が専門家とともにまとめたワーキングペーパーを公開します。発電コストと原発の経済性(上)は昨日1月10日に公開しました。

原発の新規建設は、日本では立地計画で必ず起こる、その該当地域の反対運動によって困難になっています。「必要性は分かるが私の裏庭に建ててほしくはない」(Not In My Back Yard: NIMBYと呼ばれる動き)は、当然の感情かもしれません。

建設が難しいという30年前から続く問題の解決を、残念ながら日本の政府と電力会社は、地元への経済的利益を誘導することで行ってきました。そのために建設を認めた同一地域への立地が集中してしまいました。福島第1原発事故が深刻となったのも、1号機から4号機までの多重事故であったためです。

原発事故前に原発をめぐる国民的な合意を丁寧に作り上げる営みがあれば福島に原発が集中することはなかったのではないか、事故後にエネルギー政策を巡る「何も決められない」という現状の混乱に陥ることはなかったのではないか。こうした悔いを抱きます。

それに加えて今は、原発をめぐるコストの問題があります。1基大型原子炉(発電能力130万kw)で、周辺機器も含め3000億円も建設費用がかかります。福島第1原発事故の先行きを見れば、各電力会社は政府の保証がない限り、原発の新規建設を行わないでしょう。今ある原発はコストが他電力に比べて優位にあります。しかし先進国では「建設の困難さ」と「巨額の初期投資」で原発の建設は難しくなっています。

そのために、各国では小型原発に関する関心が高まっています。こうした状況を論文では紹介します。

【要旨】(論文全体)
各発電方式での発電コストと、原発の経済性について最新の研究のレビューを行った。コストを考えると、各方式では、固定費、変動費に一長一短ある。特に原発では、初期投資の巨額さと、社会的コストの大きさゆえに先進国での建設は難しいことから、小型モジュール炉への関心が高まっている。


発電コストと原発の経済性(下)

■原子力発電の経済性に関する海外の研究

原子力発電の経済性に関しては、正確な公開データが少ないせいか、福島事故以前にはあまりアカデミック研究は活発には行われていなかった。

米国ではTMI事故後20年以上原発新設がなかったが、2005年のエネルギー政策法により、連邦政府による融資保証を受ける道が開けた。原発は更地から建設する場合低く見積もっても1基3000億円という巨額な費用がかかり、その回収は30年以上の長期にわたるため、リスクが高いとして金融機関が融資をせず、資金調達が非常に困難だった。そこで原子力の新設を可能にするため、連邦政府では融資保証の可能性を提供し、一部の州政府では建設費用を電気料金に上乗せすることを認めている。

スタンフォード大学のGeoffrey Rothwell教授は、電力経済分野の教科書ともいえる[4]を著している。Rothwell教授の最近の著作としては[5]の第7章”The Role of Nuclear Power in Climate Change Mitigation”がある。この著の中では、「原子力は建設コストが非常に高いので、米国や欧州では政府の補助があっても多くの新設は期待できない。世界的には原子力の新設は中国など新興国が中心となるが、温室効果ガス排出を抑制できるほど多くの新設は望めない」としている。福島事故後には青木昌彦教授と共著で[6]を発表している。

米国バーモント・ロースクールのシニアフェローであるMark Cooper氏は、2009年6月に原子力新設コストに関する論文[7]を発表し、「米国における原子力の新設費用は原子力ルネサンスが言われだしたころの見積もりよりもはるかに高くなる。米国政府の新規原発建設への支援は納税者および電気料金支払者に不当な負担を強いるものだ」と論じている。尚、同氏は福島事故後には[8]にて米国の原発を所有する事業者の有限責任を認めたPrice-Anderson法を厳しく批判している。

英国University of GreenwichのStephen Thomas教授は、2010年3月に[9](同名論文の改訂版)を発表した。結論として、「原子力発電プラントは政府による大掛かりな保証あるいは補助金がある所でのみ新設されうる」としている。また、福島事故後には共著でレポート[10] を発表している。しかしこれは発表されたのが2011年4月で、福島事故後の状況を的確に捉えているとはいえない面もある。

2011年12月に、米国シカゴ大学のEnergy Policy Instituteより2つのレポートが発表された。[11]は同大学より2004年に発表された原子力発電の経済性に関する包括レポートのアップデート版ともいえるもので、米国における原発新増設の費用を再評価し、上昇した要因について議論している。[12]は、米国において小型モジュール炉をいかにビジネスに乗せるかについて検討している。

参照文献

[4] Geoffrey Rothwell and Tomas Gomez (ed.): Electricity Economics, Wiley, 2003
[5] Fereidoon P. Sioshansi (ed.): Generating Electricity in a Carbon-Constrained World, Academic Press, 2010
[6] Masahiko Aoki and Geoffrey Rothwell: Organizations under Large Uncertainty: An Analysis of the Fukushima Catastrophe, Stanford Institute for Economic Policy Research Discussion Paper No.11-001, 2011
[7] Mark Cooper: The Economics of Nuclear Reactors : Renaissance or Relapse?, 2009
[8] Mark Cooper:Liability the market based post fukushima case ending price anderson
[9] Stephen Thomas: The Economics of Nuclear Power: An Update, 2010
[10] Mycle Schneider, Antony Froggatt, Steve Thomas: The World Nuclear Industry Status Report 2010-2011, Nuclear Power in a Post-Fukushima World, 25 Years after the Chernobyl Accident
[11] Robert Rosner, Stephen Goldberg et. al.: Analysis of GW-Scale Overnight Capital Costs, Energy Policy Institute at the University of Chicago, 2011
[12] Robert Rosner, Stephen Goldberg: Small Modular Reactors – Key to Future Nuclear Power Generation in the U.S., Energy Policy Institute at the University of Chicago, 2011

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