社会主義化する国際金融の世界

2012年01月12日 01:01

2006年後半のアメリカのサブプライム危機は、2007年8月のパリバ・ショックを経て世界同時金融危機に発展した。2008年9月のリーマン・ショック、2009年10月のギリシャ・ショック、そして今日のユーロ危機に至る。これら一連の金融危機は依然として収束していない。この間に、政治的には極めて不人気な金融機関への公的資金注入などが次々と実施された。各国の政府や監督当局は忸怩たる思いだろう。そして金融機関を規制する立場の政府高官は、おそらく自分たちが一連の金融危機に責任があるとは考えていない。彼らは金融バブルがはじける前も、公務員としてウォール街の報酬とは無縁の暮らしをしていた。ウォール街の連中が起こした金融危機の責任をどう感じろというのだ。当然だが、欧米の政府高官は、報酬に目が眩んだ金融機関による過剰なリスクテイクが破綻の原因であり、放っておけば何をしでかすかわからない強欲な銀行家を厳しく規制しなければいけないと考えている。そして、大きく分けてふたつの国際的な金融規制がはじまっている。ボルカー・ルールとバーゼルIIIである。


元FRB議長のポール・ボルカーが主導したボルカー・ルールは、銀行が本来の貸出業務以外でリスクテイクするのを基本的に禁止しようという規制改革だ。もはや公然の秘密だが、最近のグローバルな金融機関の収益源はヘッジファンドと変わらない。社内のトレーディング・デスクが大きなポジションを取って儲けているのである。ボルカー・ルールはまだ実施されていないが、この1、2年の間、監督当局の機嫌を取るために米系の投資銀行は自主的に、社内ヘッジファンドを閉鎖、もしくは名前を変えている。例えば、”Statistical Arbitrage Desk”は、”Electronic Market Making Desk”などに改称した。デリバティブを扱うデスクは、利益の大方がプロップ(自らの資本を使って相場を張る)から来ているのだが、これもあくまで顧客のためにマーケット・メイクをしているという大義名分を強調するようになった。いずれにしても、銀行がヘッジファンドのような業務を行うことを抑制しようというのが、監督当局の考えだ。

バーゼルIIIとは、主要国の金融監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会が2010年9月に公表した、国際的に業務を展開している銀行に課される新たな規制のことで、バーゼルIIと比べて自己資本規制を大幅に厳しくしている。銀行が大きな損失を出しても耐えられるだけのバッファーを積みますように要請されているのである。当然、自己資本を厚くすると資本コストが上がるので、銀行の収益は圧迫される。公的資金の注入を余儀なくされた各国政府からしてみれば当然の要請であるが、銀行が自己資本比率を高めるために分母の方の資産を圧縮しようとするので、世界中で様々な金融商品が売られている。

ボルカー・ルールもバーゼルIIIも、実施時期を含めて詳細は依然として流動的であるし、守らない金融機関、あるいは政府にどのような制裁があるのかも決まっていない。しかし、筆者の知りうる限り、この1、2年の間に、外資系金融機関の多くで社内ヘッジファンドが閉鎖された。また、トレーディング・デスクはポジションを小さくするようにマネジメントから圧力を受けている。前者はボルカー・ルールに対応するためであるし、後者は資産を圧縮することによりバーゼルIIIの自己資本比率をクリアするためだ。やはり、国際的な金融規制は着実に実施されていくのであろう。

また、現在、バーゼル委員会や金融安定理事会(FSB)は、G-SIFIs(Global Systematically Important Financial Institutions)として、20~30ほどの金融機関を選定して、さらに厳しい自己資本規制等を課すことを決めている。日本からも、みずほ、三井住友、三菱UFJのメガバンクがG-SIFIsに選ばれている。大きな金融機関は”Too big to fail”で、潰れそうになれば政府に救済されるという、暗黙の政府保証があったわけだが、これからは暗黙でも何でもなく明示的に潰されない銀行が監督当局に指定されたわけである。これは社会主義の発想であろう。

以上のように、国際金融の世界は、より強い規制、より少ない金融商品、より小さいリスク、より多くの監督、そしてより少ない自由へと突き進んでいる。G-SIFIsの一介の社員としては、古き良き時代は去ったと考えた方がよいのかもしれない。今後、金融業は冬の時代に突入するのか、それともメディアなどの業種で見られたように、インターネットを通して、”Too big to fail”でレガシーコストを背負いこむ巨大な金融機関からスピンオフした小規模なヘッジファンド、ブティック投資銀行、個人投資家がグローバル・マーケットに直接つながり、生き生きと活躍するような時代になるのだろうか。筆者は後者のような未来を願ってやまない。

参考資料
バーゼルIIIは日本の金融機関をどう変えるか―グローバル金融制度改革の本質、藤田勉、野崎浩成
バーゼルⅢの衝撃 ―日本金融生き残りの道、大山剛


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