国家資本主義は脅威か

池田 信夫

今週のEconomist誌の特集は国家資本主義。ここでも指摘しているが、国家資本主義の元祖はオランダやイギリスなどが17世紀に始めた東インド会社である。アリギもいうように、国家と一体になって植民地から搾取した富によって建設されたのが西洋の資本主義であり、彼らに中国やロシアを批判する資格はない。


新興国で国家資本主義が成功し、先進国の脅威になっていることは事実だが、そのどこまでが国営企業であることによるものかは自明ではない。中国の国有企業が急成長している最大の原因は、中国市場を独占して先進国の技術と低賃金労働を使えることで、民間企業がやればもっと効率が高いという研究もある。

経済学的に考えると、国有化しなくても規制によって私企業をコントロールできるので、国営企業にメリットがあるのは政府の投資に意味がある場合に限られる。通信やエネルギーなど大規模な長期投資が必要なインフラ事業は、民間ではリスクが大きすぎ、新興国では資本市場が発達していないので、政府が投資する意味がある。国際競争力の低い「幼稚産業」を保護することも初期には必要だ。

他方、迅速なイノベーションが必要な消費財には国営企業は向いていない。組織が巨大化するのでエイジェンシー問題は深刻化し、腐敗はひどくなる。これも国有化の弊害というよりは巨大化の弊害で、所有形態は(よくも悪くも)それほど大きく業績を左右する要因ではない。鉄鋼や石油化学のような成熟した技術を単純に移転すればいい産業では、資本さえあれば民間でも成功するだろう。

これから日本は否応なく中国の国家資本主義と向き合わなければならないが、かつて日本も国家資本主義のスーパースターだった。結果的に、その成功がどの程度「通産省の奇蹟」によるものだったかについては、ポーターなど否定的な意見が多い。急成長している市場では何をやっても成功するので、国家資本主義は昔の「日本株式会社」みたいな幻想に終わるかもしれない。

問題は国家資本主義か自由主義かというよりも、成長する新興国市場にアクセスできるかどうかだ。この点でTPPを拒否して「引きこもる」ことは、国家戦略としてはまずい。むしろ中国に対して、関税や補助金(国有企業も補助金の一種)などの貿易障壁をなくし、資本市場を含めて対外開放を求めることが重要だろう。