FOMCは「インフレターゲット」を設定したのか

池田 信夫

またインフレターゲットが国会で話題になっている。「デフレ脱却派」の議員は「FOMCはインフレターゲットを設定したのだから、日銀も設定しろ」と迫っているが、彼らはアメリカの物価を知っているのだろうか。

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アメリカのPCEコア指数上昇率


図のようにFOMC声明で長期的な目標(longer-run goal)とされたPCEコア指数は最近ずっと2%弱で、昨年12月には2%を超えている。この目標は人為的にインフレを起こすための「ターゲット」ではなく、物価抑制の目標なのだ。事実、米議会で出ている批判も「インフレ抑制のために雇用を犠牲にするのか」というもので、FRBは「2%を超えてもただちに金融を引き締めるものではない」と答えている。これは雇用と物価の「二重の義務」を負っているからだ。

こういう法的拘束力のない努力目標は、世界中の中央銀行が採用している。日銀も「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、委員の大勢は1%程度を中心と考えている」という物価安定の理解を公表している。これはFRBと実質的に同じだが、わかりにくい。日銀はもっとわかりやすく宣言したほうがいい。

罰則つきの「ターゲット」を法的に決めているのは、主要国ではイギリスとニュージーランドぐらいである。イギリスの物価はターゲットをしょっちゅう外れているが、このときイングランド銀行の総裁は財務相に対して釈明の公開書簡を送るだけだ。最近はイングランド銀行も「長期の目標」という表現に変えている。

他方、日本の昨年12月のコアCPIは-0.1%。これを1%にするためには、かなり冒険的な非伝統的金融政策が必要である。もちろん、やってできないことはない。たとえば日銀が「コアCPIが1%になるまで長期国債を無限に買い続ける」と宣言すれば、インフレを起こすことは可能だろう。しかし、たとえば日銀が長期国債の保有残高を200兆円増やすと、1%の金利上昇で10兆円近い評価損が出る。

メガバンクでさえ国債から逃げ始めているとき、日銀がそういうリスクを取るべきなのか。日銀のバランスシートが大きく毀損したら政府が財政で穴埋めしなければならないから、これは本質的には財政政策である。だから国会が必要と認めるならやってもいいが、それは確実に財政破綻を早めるだろう。それによって日本経済を「焼け野原」にしてゼロベースでやり直すのも、一つの政策といえば政策だが。