次の文明は「メタン文明」である(後半)

2012年02月08日 09:59

国産バイオ燃料で自動車需要を賄うことは難しい
ここで、バイオ燃料の将来像について見通しておきたい。

この分野では海外が圧倒的に先行している。ブラジルからバイオ燃料を輸入する話もあるが、それでは中東から石油を輸入するよりはマシという程度でしかない。やはり、雇用やエネ安保を考えると、国内の自然エネルギー産業として育ててゆきたいところである。

今、もっとも期待が掛けられているのが、筑波大大学院の渡邉信教授が発見したオーランチオキトリウムだ。光合成能力を持たない従属栄養藻類で、数時間で倍増する異常な増殖能力を特徴とする。教授によると、深さ1m・広さ1haの培養プールで年間1万トンのオイルが生産可能という。耕作放棄地などを利用して2万ha(十キロ四方が2枚分)のプールを作れば2億トンが生産できると、教授自身がメディアでおっしゃっている。


これは約2億7千万klに相当し、現在の原油輸入量を5千万klほどオーバーしている。よって、化学原料として別途輸入しているナフサ3千万kl分も賄える。つまり、教授のおっしゃることが本当であれば、日本は石油の純輸出国になれる。

渡邉教授は大震災で被害を受けた宮城県の下水処理施設を使い、オーランチオキトリウムを培養する実証実験にすでに着手している。教授の発想で素晴らしいのがカスケード式の利用法だ。水処理工程で排水を一次、二次と利用し、オーランチオキトリウム・ボトリオコッカス(光合成藻)・バイオメタンなど複数の炭化水素系燃料を生産し、液肥もとる…まさに一石数鳥である。

ところが、私は教授の構想に大賛成だが、2億トンの燃料生産は無理ではないかと思っている。なぜなら、オーランチオキトリウムは元となる栄養分が必要なので、バイオマスの入力分に規定される。要はそれが追いつかないといけない。だが、実際にはそれほどないのだ。これに気づいたのは、私がバイオマス・ガスの資源量を推計していたからである。

今日、「湿潤系バイオマス」として食品廃棄物、生ゴミ・下水汚泥、水産・畜産廃棄物、作物の非可食部などがあるが、この中でもっとも有望な資源が1900万トンもの食品廃棄物(09年度・農林水産省推計)である。ところが、これを使ってメタンをどれくらい生産できるかを試算したところ、せいぜい30億㎥前後だった。これは約384億kWhのエネルギーで、液化して約215万トンである。もっとも栄養価の高い有力な湿潤系バイオマスからして、この程度なのである。対して、約7千万トンの食品がわれわれの口へと入り、生命活動の維持に使われた後、下水へと流れていく。この有機物は量こそ多いが、いわば「絞りカス」なので、潜在的なエネルギーはもっと少ないと思われる。

正直、私も想定外のショボさだった。同じ炭化水素系燃料でこの程度なのに、石油を生産した時だけ2億トンに化けるわけがない。誤解しないでほしいが、私は渡邉教授の構想をぜひとも推進すべきだと思っている。これから日本は、下水処理場で生活排水を、ゴミ処理場で食品廃棄物を使い、バイオリアクターでどんどん燃料を生産すべきだ。だが、量的に今の石油需要の代替をすることは難しい。おそらく、入力エネルギーのケタを考慮すれば、最終的には従属栄養型よりもボトリオコッカスのような光合成系の藻類のほうが有望だろう。オーランチオキトリウムの増殖能力の鍵となる遺伝子を解明し、光合成系に組み込んだ上、本格的に海域も使わないと、たぶん燃料輸出国など夢のまた夢である。

渡邉教授は既存インフラがそのまま使えるとして、藻類石油で自動車を動かそうと考えておられる。しかし、私は最初から船舶とジェット機に回すべきだと訴える。つまり、戦略としては、「バイオ燃料で自動車需要を賄おう」などとは考えず、当初から非自動車用途に絞って生産すること――これが国産バイオ燃料策の成功の秘訣ではないだろうか。つまり、運輸部門でいえば、9割を占める自動車はやはりEV化するのが正しいのである。

脱石油によって必然的に天然ガスが一次エネルギー比でメイン化する
以上のように、2兆kWhの石油消費分が、大雑把にいえば電力・天然ガス・バイオ燃料の三つへシフトしていくといったところで、内訳を詳細に見てみれば、各エネルギーにまんべんなく比重がかかるわけではなく、やはり天然ガスに偏ってしまうのである。

現実には、自然エネルギー由来の電力を急速に増やすことは難しいし、バイオ燃料も徐々に増産していくしかない。彼ら“ルーキー”に石油が担ってきた重荷をいきなり背負うのは無理だ。よって、当面は天然ガスに大きく依存することになり、新エネルギーがその天然ガスの代替をしていく、という時系列になりそうだ。これは、現時点で天然ガスが「資源が豊富」「汎用性がある」「代替実績がある」という特徴をもつ以上、仕方のないことだ。

要するに、石油に代わる次なるエネルギーの主役を探した場合、答えは天然ガス以外にありえないのである。脱石油を進めていけば、石油の消費が減り、天然ガスの消費は増え、いずれかの時点で両者の比率が逆転し、必然的に一次エネ比での主役交代が起こるのである。これではもはや石油文明とはいえない。主役が天然ガスである以上、立派な「メタン文明」だ。おそらく、今から戦略的に脱石油を進めれば、2020年代で両者はクロスオーバーするはずだ。つまり、早ければ日本は十年後にもメタン文明に入っていく。

物議を醸すような表現になるが、われわれに選択権はない。なぜなら、これ以外の選択肢は物理的に不可能か、又は経済的自殺行為になるからだ。よって、これは決定済みの未来であり、変更することはできない。それが嫌なら、石油と心中するしかないのだ。

化石エネルギー文明の最終形態としてのメタン文明
だが、これに気づいた時の当初の私の反応は、決してかんばしいものではなかった。私は「お見合い」というものをしたことがないが、おそらく“地味な見合い相手”の写真を見せられた時の気分はこんなものだろうと想像する。まだ、「これからは自然エネルギーだ!」とか「いや、原子力だ!」という掛け声のほうが「華」がある。新しい未来を予感させるというか、わくわく感がある。「次は天然ガスの時代だ」といくら理路整然と言われても、「はあ、そうですか…」と肩を落としたくなる。

しかし、である。現実的な選択肢が天然ガスのメインエネ化以外にないというのは、なんだか「消去法」で未来を決めるようで気乗りしないが、よくよく子細に検討すると、どうやらこれは決して悪い話ではないらしいのである。調べるにつれ、ガスはエネルギー源として、またエネルギーシステムとして、石油よりもはるかに優れていることが分ってきた。それにつれ、ガスは決して石油の代用品ではなく、より進化したエネルギー源ではないかと、私は確信するようになった。具体的には日本にとって「6つのメリット」があり、それは以後の稿で順次触れていく。要は、国益に照らし合わせてみれば、ガスのメインエネ化は決して消極的な選択などではなく、逆に大いに推進すべき積極的な策なのである。

このようなシフトは、文明史的には非常に興味深い。常温で固体の石炭は、18世紀半ばに産業革命を誕生させるきっかけになったエネルギー源だ。次に内燃機関の発明によって、エネルギーの主役は常温で液体の石油へと移った。このシフトが20世紀になって自動車産業を生み、石油文明として花開いた。これは流体革命と呼ばれる。ならば、次は順番からいって、常温で気体のガスの出番なのかもしれない。それは後世「気体革命」と呼ばれるのだろうか。人類は過去、化石エネルギー文明の大枠内で、石炭文明から石油文明へとシフトしてきた。とすると、次にメタン文明(ガス文明)へと移行することは、実は極めてナチュラルな出来事なのかもしれない。メタンはもっとも単純な炭化水素のため、それは「化石エネルギー文明の最終形態」といえるだろう。

以上のように、天然ガスは単なる代替エネルギーではなく、むしろそれをメインとする社会への移行は、文明の進歩・進化であり、昇格に値することではないか。おそらく、文明史観的には、いったんこの「メタン文明」を介して、そこから「持続可能文明」へと徐々に移行していくことが、無理のない自然な流れなのだろう。この「持続可能文明」の中身であるが、いろいろ議論はあろうが、私は自然エネルギーと、クリーンで持続可能なニュー原子力との融合だと考えている。両者は補完し合う関係であり、むしろ「枯渇性」「CO2の排出」といった点で、化石エネルギーと対立している。

ところで、次が必然的にメタン文明の番だとしても、座して待つのと、戦略的に移行するのとでは大違いである。それはおそらく経済的な損害の差異として現れる。私は目標を定めてメタン文明へ移行することを提案したい。つまり、毎度の「日和見」や「バスに乗り遅れるな」ではなく、今度ばかりは、諸外国がどうであれ、日本オリジナルの戦略に基づいて、文明の構造改革に踏み切るわけだ。具体的には、2030年を一つの目処にしたらどうだろうか。その目標に向かって、今から粛々と脱石油を進めていき、並行して自然エネルギーの開発も進めていく。こうして、30年度には、一次エネルギー比で天然ガスが4割以上、石油は1割以下にする。自然エネルギーはなんとか2割以上にもっていく。「次の次」の主役は、ようやくルーキーから中堅選手といったところである。

このように、自然エネルギーは長い目で育てる必要がある。そこに日本発のニュー原子力も合流させていく。いったん安定したメタン文明の基盤を築き上げてから、今世紀一杯かけて、ゆっくり着実に持続可能文明へと移行していけばよい。おそらく、メタン文明は息が長いので、慌てずに今世紀後半中に持続可能エネルギーをメイン化するくらいのペースでちょうどよい。国家百年の計というが、われわれは「次」だけでなく、「次の次」まで今から見据えておくべきである。

ただ、「次は必然的にメタン文明になる」といきなり言われても、多くの方には気になる点や疑問がたくさんあるに違いない。たとえば、天然ガスの資源量は具体的にどうなのか? 供給は長期にわたって安定しているのか。エネルギー安保の面は大丈夫なのか? 化石エネルギー主体で地球温暖化対策はどうなる? CO2はどれだけ削減できるのか? 果たして、文明シフトで本当に国益にかなうのか。日本は本当に安泰なのか…。これらの問いに答えるべく、以下から私なりにメタン文明の実像を具体的に探っていきたい。

(シリーズ「石油文明からメタン文明へ」7 フリーランスライター 山田高明)

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