JALとGM --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

JALとGMは実に似たようなところがあります。

共に国を代表する会社であったこと、組合が強く、労務に絡む問題が重かったこと、リーマン・ショックが引き金となって倒産したこと、倒産の影響力を配慮し、公的資金注入を前提とした事前調整型倒産であったこと、そして一番大事なのは倒産後の回復が鮮明であることでしょうか?


GMの2011年12月決算の純利は約6000億円で14年ぶりの最高益更新です。この決算発表を受けた日、GMの株価は約9%も跳ね上がりました。もっとも再上場時の第一回放出時価格33ドルへはまだ20%以上の差がありますし、アメリカ政府の平均取得コストははるか上ですからアメリカ政府がGMに対して公的資金注入をしたことに関して単純に資金注入の収支を見ればまだまだ遠いでしょう。しかし、アメリカの雇用や自動車産業へ与えた見えない活力への影響は極めて大きいものがあるかと思います。

今、カナダを含む北米自動車市場ではビッグ3の激しい「前向きの競合」が起きています。あまりニュースにはならないと思いますが、実はその中でもクライスラーの販売台数が極めて伸びています。またフォード、GMは新車攻勢もすさまじく、数年前まで常習的にあった割引販売から強気の販売姿勢に転換しています。

アメリカの自動車市場そのものも明らかな回復基調で2012年度は1400万台を越えると見られており、潜在的な1500万台から1700万台程度までの販売回復が中期的な視野になっています。アメリカにとって自動車産業が製造業のベースでありテスラモーターズのような新興自動車企業への波及効果もあります。

このように総合的に考えてみればアメリカ政府が公的資金を投入してGM社を救済したことは結果として大きなベネフィットを生んでいます。

では日本のフラッグキャリアであるJALはどうでしょうか? 2012年3月期の決算は営業利益が1800億円の黒字を見込み最高益をうかがう状況にあります。同社の場合もしがらみとなっていた組合問題、年金問題に一定の解決をみ、また、地方自治体からの恨み節が聞こえる中、不採算路線から思い切った撤退を進め、機材もより効率的なものに変えたところで別の会社に変身したような状態となりました。

正直ここまで出来たのは稲盛和夫会長(今般、名誉会長に就任)の大所高所からの指導と関係各方面との折衝の賜物だと思います。そして私は個人的に日産自動車が窮地に陥った際にカルロス・ゴーン氏が辣腕を振るったあの時とダブって見えます。

稲盛氏はあと1年で退任されますが、少なくともJALは再生という滑走路から離陸し高度を増している状態にみえます。よって、失速せず、より高度を稼げるよう新経営陣がしっかりコントロールすることでフラッグキャリアとしての存在感を再び強めることが出来ましょう。

ですが、GMとJAL、共にフォローの風という味方があったことは事実です。正直、GMの場合、アメリカだけでほとんど稼ぎ、他の地域の収益は車の販売台数の割にはうまくありません。JALの場合は燃料サーチャージに助けられています。しかし、早晩、あのサーチャージの水準を維持することは出来なくなるでしょう。それは他の航空会社と比較するとその差に顧客は相当の不満を抱えています。同社にとり、このサーチャージで儲けているとも言われており、これが命綱的なところもあります。

両社ともアメリカ、日本における影響度を考えれば次の失敗は許されません。まだまだ不安材料は山積していると思いますが、現状までで考えれば事前調整型で公的資金を入れた価値は十分あったのではないかと思います。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年2月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。