日本に何が残るのか

2012年02月27日 20:37

エルピーダメモリが会社更生法を申請した。このニュース自体にさほど驚きはない。すでに公的資金で「延命治療」していた状態であり、最終的な破綻は時間の問題だった。「リーマンショック」とか「急激な円高」といった理由は後からつけたもので、根本的な原因は、もう日本でDRAMのようなコモディタイズした製品をつくる意味はないということだ。拙著『ムーアの法則が世界を変える』から引用しておこう。

半導体でも、日本は1980年代には世界の生産高の40%を占め、通商問題となって日米半導体協定が結ばれたりしたが、今日ではシェアは最盛期の半分以下にまで落ちている。特に、最盛期には日本メーカーのシェアが世界の80%を超えたDRAMでは、国内で生産しているのはNECと日立製作所の出資するエルピーダメモリ1社になってしまった。この原因は、日本の電機メーカーが半導体産業の成長期の垂直統合型の産業構造に過剰適応した結果、水平分業型への転換に立ち遅れたことにある。

日本がアメリカを抜いた1980年代初めの16KDRAMのころは、プロセスの大部分は手作業で、ウェハは1枚ずつピンセットで処理装置に脱着して箱に入れて搬送し、エッチングのときは人間が顕微鏡でミクロン単位の位置合わせをしたという。こうした「半導体農業」といわれたような労働集約的な作業では、クリーンルームの管理やチームワークの微妙なすり合わせが歩留まりに大きな影響をもたらすが、1980年代末の1MDRAM以降は、工程は自動化され、プロセス技術は製造装置に体化されて移転され、その組み合わせによって生産できるようになった。

こうした変化によって、独自技術をもたない韓国メーカーが日本メーカーを抜き、DRAMから撤退したアメリカのメーカーが研究開発に特化して工場をもたないファブレスになる一方で、製造はファウンドリとよばれる台湾などの製造専門の企業に委託するという変化が起き、製造技術の高度化では台湾が先頭に立った。

半導体産業が巨大化して生産個数が億単位になると、特定のデバイスに巨額の設備投資を集中し、世界中から注文を受けて高い設備稼働率を維持する必要がある(ファウンドリの損益分岐点は稼働率90%以上だといわれる)。ところが日本メーカーには「総合電機メーカー」へのこだわりが強く、研究開発から製造までを広く浅く行っているため、どの分野にも経営資源を集中できず、特にDRAMでは、各世代の初期には高いシェアを上げるが、技術が成熟してモジュール化し、グローバルな価格競争が始まると総崩れになるというパターンを繰り返し、最終的にはDRAMから撤退した。

日本が生き残る道があったとすれば、90年代にコストで韓国や台湾に抜かれたとき、製造部門をアジアにアウトソースしてファブレスに特化することだったと思うが、エルピーダも国内拠点にこだわって失敗した。メディアは「日の丸半導体の落日」などと書いているが、ITの世界では日の丸などというものに意味はない。

では日本に残るのはどういう産業だろうか? これは「アゴラ」でも釣雅雄氏などが論じているが、需要が増えているのは福祉・医療・介護などの低賃金サービスであり、これが日本の実質賃金が低下する原因になっている。こうした部門は直接には国際競争の影響を受けないが、製造業の賃金が低下するとQBハウスのようにサービス業の料金も賃金も低下する。

他方、アップルやグーグルのように付加価値の高いサービス業の賃金は上がる。このような雇用の二極化は世界的に進行しており、日本だけがそれを避けることはできない。問題は高付加価値サービス業が日本に残るのかということだが、率直にいって日本に残るようではだめだというしかない。有望な企業も労働者も、成長するアジアに出て行ったほうがいい。

国内の所得を維持するために必要なのは、エルピーダのような負け組企業を守ることではなく、雇用規制を撤廃して製造業からサービス業への労働移転を進め、労働生産性を高めることだ。ところが民主党政権は逆に、契約社員を5年以内でクビにするよう規制する労働契約法改正案を国会に出そうとしている。絶望的である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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