望まれる数学教育の改善

2012年03月04日 05:39

学生時代、数学が苦手だったという人は、多いだろう。 数学なんてなければいいのに、と思った人も多いに違いない。 

それでは、なぜ、数学を勉強する必要があるのだろうか? 

例えば、中学校で習う、二次方程式の解法、これを日常生活で使うことは、殆どない。高校で習う、代数、三角関数、指数関数、ベクトル、行列、微分積分も日常的に使っている人は、ほんの少ししかいない。

高校では、週に4時間以上も授業があり、大学入試では、少なくとも理工系では最も点差の開く科目だろう。 日常生活で使わないのに何故、これほどまでに重要視されるのだろう。


数学を学ぶ目的

数学は、自然現象を記述する言語だから、数学のリテラシーを身につけておくことは重要であるし、確実に計算が出来るというのも大事だろう。  

しかし、数学を学ぶ真の目的は、物事を筋道立てて考え、論証をする能力を身につけることだ。 数学をきちんと理解するには、物事を整理し、論理的に考えなければならない。こういった能力を身につけるのに一番適した学問が数学なのである。

論理的に考える力がなければ、物事の正邪が判断できず、誤った情報を疑わずに受け入れる危険が増す。

一例を挙げれば、「人為による地球温暖化は「嘘」であり、「近代で最も大きな詐欺」である」と主張する「The Great Global Warming Swindle(地球温暖化詐欺)」 という番組が放映されたが、この番組には事実の歪曲やグラフの操作が多数あったことが確認されている。 今でもネット上で見ることができるだろうが、科学的知識や論理能力の乏しい人が見れば、内容を無批判に鵜呑みにする危険がある。 手の込んだ詐欺的な書物や情報は、世の中に溢れている。 論理能力を身につけなければ、我々は身を護ることができない。

また、筋道立った論証が出来なければ、自分の主張を明確に伝えられず、交渉力が身につかない。

ところが、私が長年、大学生に数学を教えていて感じるのは、大学生の論理能力の著しい低下である。   

衰える大学生の論理能力

実際、最近、日本数学会が、約4800人の大学生を対象に行った学力調査では、

       偶数 + 奇数 = 奇数

という事実を論証することさえ、殆どの大学生が出来ないということが分かった。 実際、難関私立大学の学生でさえ正解率が約20%という状況である。 

日本数学会が心配するように、論理的文章を理解する力、論理を組み立て表現する力が学生から失われつつあるのではないか、と思わざるを得ない。

この結果を受けて、日本数学会では次のような提言を行っている。

「(1) 中等教育機関に対して:充実した数学教育を通じ論理性を育む。証明問題を解かせる等の方法により、論理の通った文章を書く訓練を行う。
(2) 大学に対して:数学の入試問題はできるかぎり記述式にする。1年次2年次の数学教育において、思考整理と論理的記述を学生に体得させる。」
  

数学会の調査を待つまでもなく、大学で数学を教えている教員ならば、殆ど例外なく、学生の論理能力の低下を感じている。 基本的に学生は計算は喜んでやるが、論証することが著しく苦手であり、論証をテストに出すと、殆ど日本語にもなっていない答案が殆どである。 正に、論理を組み立てて表現することができないのである。 

大学生の論理能力の低下を示す端的な例を挙げれば、「A市の全ての家庭にはテレビがある」という命題の否定命題を選ばせる問題を出題したことがあるが、このような簡単な問題すら、異常に低い正答率で愕然としたことがある。

さらに、セミナーで論理能力を鍛えようとすると、拒否反応を示す学生も多い。「なぜ?」という私の問いに対して、「教科書に書いてあるから」とか、「分からない」と答える学生が多いのが実情であり、不当な攻撃を受けたと感じる学生すらいるのが実情である。 

論理能力低下とIT化の関係

なぜ、これほどまでに学生の論理能力が低下したのかのだろうか。原因は一つではなく複合的なものだと思われるが、私には、パソコンや携帯電話の影響が大きいように思われる。 

現在は、自分が疑問に思ったことを、パソコンや携帯電話で検索するだけで、簡単に解答を見つけることが可能である。 こういったIT化の影響が大きいように思うのだ。 こういった解答の発見方法に慣れてしまうと、自分で筋道立てて考えることが面倒になることは容易に想像がつく。 

実際、大学の授業中でも携帯電話で検索している学生をよく見掛けるようになった。 IT化が学生の論理能力を奪っているとしたら恐ろしいことだが、私にはそれは、殆ど確からしいことのように思われるのだ。 文科系の学科でも、検索した文章をつなぎ合わせたレポートが多いと聞く。少なくとも、IT化で楽をしようという学生が多いことは確かなのだ。

望まれる数学教育の再生

このような状況を改善するには、日本数学会の提言のとおり、学生に論理能力がなければ大学入試に合格できないようにすることと同時に、入学後も論理能力を身につけることに主眼を置いた教育をするしかないだろう。  

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