放射能への対処法

2012年03月12日 08:30

リスクを「見える化」、放射能とそれ以外を比べる
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東日本大震災と福島原発事故から1年が経過した。少しずつ沈静化に向かっているものの、放射能をめぐる日本国内の騒擾は今でも続く。「ばかばかしいことは止めて、社会を平常に戻し、社会の活力を復興に向けよう」と、私は訴えてきた。あまりにも小さな健康リスクの可能性に比べると、その大騒ぎは釣り合いが取れないためだ。今回は私たちを取り囲むリスクを「見える化」して、現在の日本での放射能リスクと比べてみる。比較対象は飲酒、喫煙、生活習慣、住環境などだ。これはアゴラ研究所の運営するエネルギー研究機関GEPRで協力していただく科学者とともに、まとめている論文の一部だ。


いずれも医学論文などに根拠がある数字だ。これは近くGEPRに詳細を発表する。このコラムの目的は「比較」と「概観」することであり、根拠論文と調査詳細は膨大になるため今回は割愛する。

もちろん、この手法は危うさもはらむ。一つの価値観でリスクを評価すると「想定外」のリスクに対処できない可能性がある。また私は「放射能を安全である」などと、過度に強調するつもりはない。そして健康不安、特に子供を思う母親を中心に広がる放射能への不安は当然のことと考えている。それでも過度に放射能のリスクに注目するよりも、他の多くのリスクとの比較の中でそれを考えることを訴えるため、この手法でリスクを分析してみる。

飲酒、肉の過食の健康リスクは現状の放射能リスクより大きい

まず普通のがんのリスク(対象群における発生頻度)を1としたとき、100mSvの放射線を浴びるとリスクは全がんで1.005となる。仮に1000人が100mSvの放射線を浴びたら、浴びなかった場合よりも、がんが5人増えるかもしれないという数字だ。

これはLNT仮説という考えに基づく。強調するが、これは過去の人間への疫学的データから分析したもので、「必ず5人がんになる」という意味ではなく、統計上の可能性にすぎない。

また「何人がんになる」などの被害リスクの推定で「LNT仮説を使うべきではない」と国際的な放射線防護基準を勧告するICRPが指摘している。(詳細は東京大学准教授中川恵一氏のコラム「放射線被曝基準の意味」を参照)

100mSvの被曝量の仮定も大きい。東日本に住む人の被曝量は事故の影響では現在まで、大半が1mSv以下だ。福島でさえ5mSv以下だ。また今の福島と東日本の状況のように、一度ではなくゆっくり放射線を浴びた場合は、このリスクはさらに下がる。(GEPR「放射線の健康影響—重要な論文のリサーチ」参照)

私は、今回の原発事故では放射能由来で疾患にかかる人はいないと考えているが、今回はこの形のリスク評価を、目安として使ってみる。またリスクと指摘した出来事を批判、攻撃、取りやめを促す意図もない。

それでは飲食物のリスクを見てみよう。辛い・熱い食べ物では、食道がんの相対リスクは2.1になる。家畜肉の過食は食道腺がんで2.5だ。フライドポテトの過食は食道がんで1.2。過度な飲酒習慣は肝臓がんのリスクを5.7にする。

一方で、リスクを小さくする食品もある。牛乳の習慣的な摂取は大腸がんの相対リスクを0.9にする。牛乳・ヨーグルトでは肝臓がんで0.3、果物は肝臓がんで0.5だ。

世間一般で言われる正しい食習慣を送らないことの方が、現状の福島の放射線よりリスクを増やしてしまうと言えるだろう。参考としてリスクを並べてみる。リスクの種類、がんや病気の種類、相対リスク比の順番だ。

辛い・熱い食物(食道がん)2.1/ 家畜肉(牛・豚など)の過食(食道腺がん)2.5 /家禽(鶏など)の過食(胃がん)1.9 / 加工肉の過食(胃がん)1.7(女性のみ)(大腸がん)1.2/ 赤身肉の過食(大腸がん)1.3(乳腺症)2.6(膀胱がん)1.2/ フライドポテトの過食(食道がん)1.2/ 過度の飲酒習慣(胃がん)1.3(女性のみ)(肝臓がん)5.7/飲酒+喫煙 (食道がん)8.1/軽度の飲酒(大腸がん)1.2/ 高頻度の飲酒(大腸がん)1.4/ 牛乳の摂取(大腸がん)0.9/牛乳・ヨーグルトの摂取(肝臓がん)0.3/ 卵の摂取(肝臓がん)0.3/ 魚の摂取(肝臓がん)0.4/ 果物の摂取(肝臓がん)0.5/ 食物繊維の摂取(大腸がん)0.8 (胃がん) 0.7/ 全粒穀物の摂取(大腸がん)0.9/ 野菜の摂取(胃がん)0.9 (肝臓がん)0.6/ コーヒー(胃がん)1.5 (肝臓がん)0.5/ 緑茶(肝臓がん)0.6(男性)0.5(女性)/ 紅茶(卵巣がん)0.5

生活習慣にリスクは満ちる—たばこ、間接喫煙、肥満でがんは増加

日常生活の中にリスクは満ちる。たばこ1箱を毎日1年吸い続けると13ミリシーベルト以上の放射性物質を体に取り込むとされている。一方、運動などは体によく、健康リスクを減らす。間接喫煙の影響も大きい。子供の時の過度の間接喫煙の肺がんリスクは3.6と跳ね上がる。さらに肥満は健康のリスクを上げる。

今回の福島で「子供を家の中に閉じこもらせる」という選択をした人が多くいた。確かに事故直後は状況が不明だし、被曝を減らすことは必要なので、それは正しい選択であったろう。しかし今でも続けている人がいるならば、即刻止めさせた方がいいだろう。

以下、生活の中でのリスクを並べてみる。

たばこ(肺がん)3.7(肝臓がん)1.9(胆嚢がん)2.3(男性)2(女性)(すい臓がん)1.8/ パイプ(食道がん)2.4 (肺がん)5
間接喫煙 屋内(肺がん)1.9/ 車内(肺がん)2.6/ 子供の間接喫煙(肺がん)3.6
肥満 過体重(BMI:25~30)(全がん死)1(男性)1.1(女性)/ 軽度肥満(BMI:30~50)1.1(男性)1.2(女性)/ 中等度肥満(BMI:35~40)1.2(男性)1.3(女性)/ 高度肥満(BMI:40以上) 1.5(男性)1.6(女性)
注BMI(肥満度を測る指標)=体重(kg)÷身長(m)の二乗
運動 1日1時間の運動(結腸がん)0.6(男性のみ) (直腸がん)0.6(男性のみ)/ 1日30分以上の散歩・自転車の軽度の運動(全がん死)0.7(男性のみ)/日常的運動(大腸がん死)0.7 (乳がん死)0.5(女性のみ)

病気は病気をもたらし、健康リスクを高める—糖尿病など警戒を

病気は次の病気のリスクをもたらす。だから健康を常に維持しなければならない。睡眠量と病気についてのリスク分析も進んでおり、十分な睡眠は健康に好影響となる。特にストレスの増加は危険だ。「放射能怖い」と騒ぐことが、現状の放射能そのものよりも健康に悪影響を与える可能性がある。

糖尿病 (肝臓がん)2.2 (すい臓がん・男性)1.9 (腎臓がん・男性)1.9 (胃がん)1.2(男性)1.6(女性) (卵巣がん)2.4 (肝臓がん・女性)1.9 
統合失調症(全がん)1.2/ ピロリ菌(胃がん)2.6(男性・日本)7.9(米国)/ ピロリ菌+喫煙(胃がん)11(男性)/ 胆石(胆嚢がん)24 (胆管がん)8 / 骨粗しょう症(全がん)1.1(男性)1.3(女性)/高血糖(全がん)1.2/ 睡眠時無呼吸症候群(脳卒中)2/ 9時間以上の十分な睡眠(前立腺がん)0.5/ 6時間以下の睡眠不足(乳がん)1.6/ストレス(脳卒中)2.5(男性) (乳がん)1.6(女性)/ うつ病既往(アルツハイマー)1.9/ 抗うつ剤(心臓合併症)2.2/ 抗うつ剤+抗不安薬(心臓合併症)4

環境も病気に影響—車の排気ガス、携帯電話、深夜勤務にリスク

環境も病気に影響する。ぜんそくは車の交通量の多さに影響する。さらに携帯電話はがんリスクを増やす。携帯電話会社のソフトバンクの孫正義社長は、原発事故後にガイガーカウンターを持ち歩いていたと話していた。現状の放射線量より携帯の方が、がんのリスクは大きい。孫社長は大丈夫だろうか。(何がというのは、いろいろな意味があるが、皮肉を込めてぼかそう)私を含め、大多数の日本国民はリスクを受け入れ、車に乗り、携帯を使っている。地球温暖化で健康被害と繰り返されるが、逆に低気温だと心臓病のリスクが高まる。さらに職業も化学物質を使った仕事、深夜勤務などは体によくない。

幹線道路近くに住む子供(ぜんそく)1.1/幹線道路近くに住む中高年(心臓病死)2 (脳卒中死)2/ 車の騒音(心不全死)2 (心筋梗塞死)1.4/日光にあたらない生活(前立腺がん)1.1/ 10年以上、携帯電話を毎日長時間使う(全がん)1.2/ 毎日の長時間のテレビの視聴(死亡頻度)1.1 (心臓病死)1.2 (脳卒中死)1.2/ 低気温(心筋梗塞)1.2/ 低気圧(心筋梗塞)1.4

アスベスト除去(死亡率)1.4/ ボーキサイト鉱山・アルミニウム工場(中皮腫)3.5/ 殺虫剤を扱う農業従事者(大腸がん)2・6 (すい臓がん)3 /夜間勤務・女性 (乳がん)1.1/深夜勤務・女性(乳がん)1.6/20年以上の深夜勤務(卵巣がん)1・5

結論—リスクを比較し、恐怖から逃げ出さずに向き合おう

以上を考えると、運動、禁酒禁煙、適度な野菜中心の食事などの生活で健康になれば、「小さすぎる現状の放射線リスク」は、小さすぎて影響が埋もれてしまう可能性が高い。騒ぐ必要はないのだ。

政府と電力会社の作り上げた「原発安全神話」が間違いだったことが明らかになった今、「信頼」が崩壊して、誰もが疑心暗鬼になってしまった。この責任の追及は当然進めるべきだ。しかし科学の示す放射能リスクの範囲は明確だ。(池田信夫氏のコラム「放射能についての基本的な事実」参照)「政府や学者の言うことは信じられない」という感情は理解できるものの、科学の示す客観的事実について政府などは現時点でウソは述べていないし、その事実には従うべきだ。誤った情報に騙されず、正しい情報に基づき行動するべきであろう。

合理的な対応法を探す中で、私は改めて「環境リスク学」という分野に注目している。『環境リスク学-不安の海の羅針盤』(日本評論社、中西準子著)などを参照いただきたいが、その思想の根幹を私は次のように解釈している。

未来は誰にも完全に予想できない。そして起こるリスクは多様にある。その対策のため、環境問題では確率論などを使って、リスクの程度を可能な限り定量的に評価した上で相互に比較する。対策には、金銭や技術、時間の制約がある。それを考えながら選択肢の中で一番効果のある行動を考え、合理的にリスクを減らそうという考えだ。このコラムはその考えを参考にしている。

今回の放射能パニックは、実態が分からないゆえに恐怖感を抱く人が多かった。私たちの生活がリスクに囲まれている現実を知れば、福島原発事故による放射能の小さなリスクだけを騒ぐことは「ばかばかしい」と理解できるだろう。放射能パニックを沈静化させ、社会を正常に戻したいと私は考えている。

放射能によるリスクを軽視すべきではないが、慎重に、そして冷静に向き合うべきだ。そして合理的な対策を選択していくべきだ。この程度のリスクは、賢明な日本国民なら、その英知で必ずコントロールできると、私は確信している。

石井孝明 環境・経済ジャーナリスト ishii.takaaki1@gmail.com

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