公示価格の行方 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

国土交通省は今年1月1日の公示価格を発表、「価格は小幅な下落にとどまるとし、一部には回復基調も見られる」としています。

全国平均では下落率は2.6%、東京に限れば1.3%の下落となっています。確かに昨年に比べて0.7%ポイントの下げ縮小ですからそろそろ下げ止まりと見たくなります。

ですが、私は必ずしもそうは思っていません。


日本のファンダメンタルズが何も変わらない場合にはずっと下がり続けます。仮に年に2%としても10年で単純に20%以上下がるわけです。不動産は長期にわたって持つものですから2%を小幅な下落と勘違いしてはいけません。

ではファンダメンタルズとは何でしょうか?
1. 人口がこのまま減っていく
2. TPPが発効していない
3. デフレ経済が続く
4. 円安にならない

誰でもわかっている話ですがもう一度繰り返します。土地の価格は需要と供給で決まります。今、住宅を取得する人は集合住宅が圧倒的なのです。集合住宅は高い容積率をその特徴としています。つまり、土地の持分は本当に微少なのです。だから一般給与所得者には手が届きやすいのです。

よって少子高齢化の日本において主たる住宅取得者層が集合住宅に向かう限り土地の価格が上向くことはありえないことになります。もちろん、一部の人気地域においては価格が上昇することはあります。例えば震災後の西高東低現象(高台に高い需要)はその一例だと思います。が、それは決まったパイが何処を好むか、という人気投票に過ぎず、土地全体の価値上昇にはまったく影響が出ません。

TPPが発効すれば土地の価値が上向く可能性はあります。なぜならば外国の企業が進出し、その駐在員などの住宅需要が生じるからです。更に外国企業が商業用地、工業用地などを取得するケースも考えられます。

デフレ経済は土地の価値には最も不利なエレメントになります。仮に日銀が思い切った金融緩和を継続するようなことがあれば日本にも多少、インフレという期待が生じ、実需がなくても価格の上昇は起こりえます。但し、日銀はインフレターゲットを実質1%としていますから私にはほぼ、フラット、つまり、何年経っても価格は変わらない状態を目指しているように見受けられます。本格的なデフレ脱却には日銀の更に踏み込んだ政策がなければ現状、期待薄だと思います。

円安になれば必ず土地の価値は上がります。これは以前にも書きましたが海外から見れば日本の土地はバカ高なのです。土地そのものの価値の問題もありますが、為替で苛められすぎています。仮に円ドルが120円程度にでもなれば海外から投資が引く手あまたの状態になり、東京を中心に不動産価格は一気に跳ね上がります。

特に中国などからの投資が急増する可能性がありますから土地と為替は一見縁がなさそうに見えますが、私は不動産を語る上で最も重要な指標の一つ、と考えています。

80年代に東京で不動産部門にいたときは海外の需要など考えたことはありませんでした。不動産ほどドメスティックな部門はないと思っていました。しかし、それから30年近くたって思うことはもはや、東京など主要都市、更には一部のリゾート地の不動産は海外の動向を見ずして語ることは出来ないということです。

もう一つ、高齢者の住む戸建住宅は今後、遺産分割や相続税問題で必ず減少していきます。私としてはバブルの頃に見た地上げ後の空き地が今後、別の形で「復活」すると見ています。その際、誰がその「穴」を埋めていくのか、実に興味深いところです。各市町村の都市計画課が緑地計画や市民の安全、快適な生活を確保するためのプランをいかに上手に計画するかが今後の日本がどれだけ素晴らしくなれるかの試金石になるかと思います。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年3月24日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。