今回の東電のスマートメーター「国際入札」が焙り出すもの

山口 巌

今回の東電のスマートメーター「国際入札」を批判する記事がアゴラに溢れている。それにしても、訝しいのは批判の矢面に立たされる事必至な、かかる愚行に何故東電ともあろうものが至ったかと言う事である。


先ず思い浮かぶのは、「電力行政」に対する政府の確たる方針の不在である。菅前首相が恣意的に浜岡原発を停止して以来、延々ダッチロールが続いているのではないだろうか?

一年程前になるが、私はアゴラにスマートグリッドは日本の救世主となるのか?を投稿した。私は何も電力問題の専門家ではないが、自分なりに考え、将来のあるべき「日本の電力行政」に就いて具申した積りである。

政府は日本の衆知を集め、「日本の電力行政」を検討し国民に周知すべきと思うが、寡聞にして未だその種話に接した経験はない。その結果、手負いの東電が放し飼い状態になっているのではないか?

今一つは、3.11以前と以降では、国民の電力行政に対する意識が大きく変わったにも拘わらず、東電が全くと言って良い程付いて行けていないと言う事実である。

地域独占と言う「ぬるま湯」に長年浸かり過ぎた結果、体の皮膚がふやけただけでなく、脳味噌迄溶けてしまった様である。

戦後の高度成長期、製造業は発展を続け、結果旺盛な電力需要の時代が長く続いた。

そして、オイルショックは日本の産業界に激震を与えたが、産業界はハイテク分野に舵を切り、その結果高品質な電力の需要が増大し、良い物は高いの理屈が通る、電力会社に取って誠に以て恵まれた時代が続いた訳である。

しかしながら、3.11を境にして国民の意識は180度変わった。

切っ掛けの第一は、菅前首相が浜岡原発を停止させた副作用で原発の再稼働が実質不可能となり、電力不足による停電の懸念が現実の問題となった事である。

次に、「原発から再生可能エネルギーへ」のキャッチコピーで当選する政治家が多数出る等、発電に依る環境負荷の問題がクローズアップした事がある。従って、余程革新的な脱硫、脱硝技術が開発されない限り、今後の石炭火力発電所新設は困難であろう。

最後は、中東情勢の流動化である。事にホルムズ海峡に隣接するイラン状況は重篤であり、ほぼ全量の原油とかなりの量の天然ガスの輸入停止の悪夢に日本は悩まされ続ける事になる。

私は何も「節電」に依り全ての問題が解決すると言っている訳ではない。しかしながら、現時点で、最も現実的で実効性のある施策と考えている。

この為に必要な事は、東電が慣れ親しんだ「必要とする電力量を発電する」と言う思想から、「発電量に応じて電力を優先順位を付けて消費する」と言った「発想の転換」である。

具体的には一年前の記事の結論を下記参照する。

最後に、今回のテーマであるスマートグリッドを使った電力の最適配分による電力危機克服の可能性に就いて説明する。

スマートグリッドは私の理解する所では3っつの要素から構成される。

第一は全ての送電センターとエンドユーザーを通信機能で連結し停電を即時に検知すると共に復旧時間を最小化し経済損失を限りなくゼロに抑える。

第二はディマンドレスポンスである。

3.11以前の発想が電力会社は需要予測に応じた発電を行い、電力を供給すると言うものであったが、ディマンドレスポンスはこの真逆で、電力会社が発電量に応じて各ユーザーに使用総量を命令すると言うものである。

各家庭を含む電力消費の監視を行う為のスマートメーターの設置はマストである。

最後は、Home Energy Managemet System(HEMS)である。

個人的には、今後の一戸建て家屋は太陽光発電と蓄電設備設置が標準化すると思う。そうすると、仮に電力会社からかなりの電力供給調整があったとしても段階的にこれを吸収する事が可能となる。

先ずは逆潮流電源として、売電している太陽光発電による電力を全て自己消費に回すのは当然である。

次いで、蓄電電力を最大限放出する。

それでも電力が足りなければ、予め設定したプログラムに従い、例えば夏場であればエアコンの設定温度を3度上げる、タブレットPC等で代替の効く電力を浪費するプラズマテレビのスイッチを自動停止するとかである。

余り悲観的な事を言うのは気が進まないのであるが、東電は何処まで行っても東電で、今回のスマートメーターを含め、多くを期待するのは無理と思う。

この件と関連するが、矢張り一年前に、東京電力をどうするか?と言う記事をアゴラに投稿した。言いたかったのは、飽く迄現行法に従い破綻処理すべきと言う事である。

大事な事は、先ず東京電力が補償を行い経営破綻が確実となれば、現行のスキーム、会社更生法を適応すべきであり、菅首相が如何にもやりそうな、思い付きで、その場凌ぎの特別な破綻処理スキームには決して手を出してはいけないと言う事である。

政府は確たる未来に繋がる「電力政策」を考える努力を怠り、なし崩しに東電を延命した結果、今回のスマートメーター「国際入札」に至ったのではないか?

そうであるならば、当初のボタンの掛け違いの必然的な結果であり、問題の本質的解決の為には原点に立ち帰る必要があると思う。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役