公衆無線LANは規制すべきなのか?

真野 浩

総務省が無線LANビジネス研究会を立ち上げた。 この背景には、昨今各携帯キャリアが展開している公衆無線LANサービスの接続品質に対する利用者の不満があるようだ。 一方で、JR東日本が山手線の各駅で公衆無線LANの設置を進めるなど、公衆無線LANの設置局数は、ひたすら増殖している。


さて、件の研究会の主催者は、どのうよな方向での審議を期待しているのか判らないけれど、かつて無線LANの基地局設置をJR東日本様に断られ、石原都知事様にも直談判を無視された苦い経験がある小職が、少し整理してみた。

事業としの受益者保護
無線LANは、その利用する電波がISMバンドで、局免許も従事者免許も不用で使えることから、携帯電話のように専用的に周波数割当がされるものではない。 しかも、この周波数帯域には、ZigBeeなどもあれば、電子レンジだっているのだから、そもそもQoSを保証することは不可能だ。 そこで、この周波数を使って、有償のサービスをすれば、当然のことながら使えない場所や、時間が出てくるのは、不可避である。となると、果たしてこの無線LANで有償通信事業サービスなんてしていいのかよ! って話になる。 かつて、それを一番最初にやったのは、私なので、ここは釣りです….

一方で、無線LANは利用者が自由に使えて、それは通信事業者の占有じゃないんだから、通信事業者が寡占的に展開することに対して、それってどうよ! という人達もいるだろう。 昔、僕はこの辺りの人達の反感をかなりいただいて、連日某掲示板には、”真野逝って良し”なんていうフレーズの書かれたスレッドが伸びていた。(最近は、DAT落ちしてくれたのかな…)

しかし、とにもかくにも届け出による二種も含めて、許認可、監督の下にある通信事業者が、その受益者との間で、サービスと対価に関する齟齬があるとすれば、これはなんとかしないとならないのが、お役所なのだ。

これは良かったのか悪かったのか微妙だけど、かつてJR東日本に基地局置かせてという大臣裁定を申込、紛争処理委員会で拒絶された時の理由は、構内無線LANはあくまで構内設備で、通信事業者の公益特権が適用されるような伝送路ではないとして法改正を求められ、実際に改正された。  これは、ある意味私的財産に対して、公益特権が濫用される恐れがあるとい懸念があったわけだが、通信事業の一種の取得要件が緩和されたのに、公益特権の権利の強さだけそのままだったという、あの時代に限られた懸念だ。 なにしろ、MISは第一種通信事業者だったというのは、今でも不思議だ。

しかるに、無線LAN設備といえども、今や事業者の伝送路設備なわけで、これに対して通信事業を営むものに対して、何らかの技術的要件を課すということは、出来なくもない。 例えば、公衆無線LANとしてサービス品質の最低ラインを規制するなんてことが一案だけど、先にも書いた様に2.4GHzについては、残念ながらとても品質保証など出来ないというディレンマがある。

事業調整
次に、例えば共同溝のようなライトオブウェイは、行政がこれを設置する場合に、通信事業者に普く公平に利用の有無の問い合わせが来る。 これと同じように、公共/順公共設備等に公衆無線LANを設置する場合には、通信事業者へのアセスメントを義務づけるなども一案だろう。 これとて、個人の無線LANや電子レンジ等による電磁的妨害の排除にはならないが、少なくともかなりの改善は期待出来る。

技術革新による品質向上
MISの時に僕らは、端末のファームウェアを提供する事で、強固なセキュリティと、ハンドオーバーという機能の提供をしていた。 11年前では、この仕様が市場ニーズに合わなかったし、独自規格による展開というのが、MISには厳しい結果を招いた一因ではある。

しかし、この当時の技術は、単なるビーコンの有無ではなく、電波そのものの強度比較も行って、最適基地局を選択するものだったし、高速な鍵交換により既存の無線LANに比較して大幅な収容力をもっていた。

現在、僕はIEEE802.11 ai (Fast Initial Link Setup)というタスクグループの議長として、このような高速接続の為の標準化を進めている。 また、既に標準化されたIEEE802.11uを中心に、Wi-Fi Passpointというネットワーク上位層の情報をアドバタイズする仕組みなども世界では標準化が進んでいる。

こういう、世界標準の批准と積極的導入を促すことも、サービス品質の改善につながるだろう。 実際に、IEEE802.11aiは、既にIEEE802.11のタスクグループの中でも最大規模のグループとなり、欧米、アジアのメジャーなベンダー、メーカーが皆参加している。

ということで、公衆無線LANの品質改善には、なんらかの設備に対する規制、ガイドラインを設ける、公共空間ではアセスメントを課す、新技術の導入の推進を促すなどが、当面の方向ではないだろうか?

以上、今日のお前が言うなスレにならない事を祈りつつ書いてみました。