大阪市の「脱原発」株主提案に対する素朴な疑問 --- 山口 利昭

2012年04月02日 11:01

あらかじめ申し上げますが、私はとくに大阪市、関西電力経営陣いずれにも中立の立場でありまして、思想的な背景はなく、単に法律的な関心のみで以下のような素朴な疑問を抱いた次第であります。

共同通信ニュース(内容はこちら)や日経新聞ニュースなどによりますと、関西電力の筆頭株主(約9%保有)として同社に脱原発を求めている大阪市は、エネルギー戦略会議の審議をもとに、関西電力に対して「脱原発」の株主提案を行う方針を固めたそうであります。具体的には、今年6月の関西電力の株主総会において、定款変更に関する議案を提出する、とのこと。これは株主総会期日の8週間前までに提出する必要がありますので、もうそろそろ期限であります。


日経新聞ニュースが伝えるところによりますと、現在の関電の定款は6章42条で構成されておりますが、これを提案では7章48条にする、というもの。その内容は、「可及的速やかに全ての原子力発電所を廃止する」「原発廃止までは他の電力会社から電力調達などで供給力をまかなう」「原発稼働については、需要が供給を上回ることが確実となる場合のみ必要最低限の期間、検討する」とのこと。また、定款の総則には経営情報を積極的に開示することを条項として盛り込む、といったものだそうです。

ご承知の方も多いと思いますが、株主総会における定款変更議案が可決されるためには、株主の過半数の賛成では足りず、出席株主の3分の2以上の賛成が必要となりますので、いくら大阪市が筆頭株主とはいえ、可決されるハードルが非常に高いものがあります。大阪市の株主提案の本意とするところは、現実に定款変更議案が可決されることが困難だとしても、多数の株主が「脱原発」を求めていることをパフォーマンスとして示すというところなのかもしれません。

しかしながら、株主提案権を行使する大阪市としては、可決要件という問題よりも、もっと以前の問題としてクリアしておかなければならないことがあるのではないでしょうか。とりわけ京都市や神戸市と共同提案する、ということが目論まれているわけですから、きちんと説明しておかなければならない点であります。

たとえば、大阪市の提案する定款変更が可決された場合、その定款の効力はどのようなものなのか?という点であります。会社の定款は、まさに会社にとっての「憲法」です。いわば経営陣は、この定款に反する行動はとれないことが原則です。法令や定款に違反する取締役の行動や意思決定は、取締役の善管注意義務違反となり、会社や株主に損害賠償責任を負うことになります。また、定款内容に反する会社の行動は、取締役会決議が無効となり、関電を取り巻く多数のステークホルダーにも多大な迷惑を被らせてしまうことにつながります。とりわけ関西電力のように非常に多くの株主が存在し、所有と経営が高度に分離した株式会社の場合、経営の執行は取締役会に任せることが会社法の原則です。そうであるならば、定款の内容は非常に明確でなければならないはずです。にもかかわらず、上記のように「可及的速やかに」とか「他の電力会社からの電力調達」とか「上回ることが確実」「必要最低限の」などなど、人によって判断基準が異なるような主観的な文言が定款に記載されることは、果たして「任意的記載事項」としての定款の効力を有するのでしょうか?記述内容があいまいなだけでなく、「他の電力会社から調達」といった内容は、関電自身で履行できるものではなく、第三者の都合次第であり、かなり疑問であります。

仮に大阪市から提案されている定款の効力が認められるとしましても、次の問題が生じます。以前、当ブログで「定款への『企業理念』の記載」として、エーザイさんの事例をとりあげたことがございます。企業理念を定款に記載する、ということがいったいどのような意味があるのか?ということを(その際に)検討いたしました。結論としまして、おそらく(企業理念を定款に記載しても)努力目標や精神訓示的な意味をこめたものすぎず、取締役の行動を法的に拘束したり、取締役会の決議の効力には影響しない、つまり裁判規範にはなりえないもの、と考えました。このエーザイさんの定款変更事例との比較でいえば、今回の大阪市による株主提案としての「定款変更」は、あくまでも訓示規定や努力目標のようなものであり、定款に反する取締役の経営判断がなされたとしても、その効力を否定したり、取締役の善管注意義務違反による損害賠償責任を追及できるようなものではない、ということになるのではないでしょうか。(そもそも努力目標であれば、電力会社としては今でも究極の目標として「脱原発」は考えられるところなので、あまり意味がないのでは?)したがいまして、提案する大株主である大阪市としては、まずこの定款は、関電の経営陣にとってどのような法的効果があるもの(もしくは法的には意味がないもの)と考えているのか、そこを明確にしないと、共同提案を受ける京都市や神戸市も賛否を決めることはできないでしょうし、なによりも一般株主にとっての判断が困難になろうかと思われます。とくに大阪市が今後、委任状勧誘をする、ということであれば「なおさら」であります。

もう一点、明確にしておかねばならないのは、大阪市の定款変更議案は一括して上程するのか、分割して上程するのか、という問題であります。この点につきましても、当ブログでは過去に「定款変更議案の分割決議」なるエントリーにて検討したところであります。5~6年前の株主総会のホットイシューとして、買収防衛策導入に関する議案が話題になったころに語られた論点でありますが、決して法的に分割提案ができない、ということもなさそうに思いました。

上記の日経新聞の記事によりますと、「脱原発」に関するものと関電の一般的な経営姿勢に関するものとが混在しているようであり、また変更議案の中身が相当に多いようようですので、かりに一括上程いたしますと、株主として、どこか一ヵ所でも賛同しかねる点があれば全体が否決されてしまう結果となります。むしろ大阪市としては、分割して提案する、ということを検討されたほうが(たとえすべて否決されたとしても)「この問題については民意が反映された」と後日、パフォーマンスできるのではないかと思うのでありますが、いかがでしょうか。とりわけ、これまでも多くの一般株主が関電の株主総会で「脱原発」を求めて争ってこられたわけですから、こういった既存の「反原発推進支持者」との接点を求めるためにも検討すべき課題ではないでしょうか。さらに法的な観点からみましても、平成17年改正会社法の立案担当者の解説では、旧商法時代とは異なり、取締役会設置会社における株主総会では、個別の条文で定款記載が許容されている事項のほかには、ごく一般的な事項(たとえば事業年度に関する定めなど)しか認められない、経営判断を拘束するような定款変更は法的安定性を害することになるため認められない、とされておりますので(相澤編 新会社法の解説 20頁)、たとえば電気事業連合会からの脱退を命ずる等の定款変更は、そもそも定款変更の効力がない、という考え方もあり得ます。

このあたりは、結局のところ筆頭株主と関電側との事前交渉のなかで検討されることかもしれません。大阪市のエネルギー戦略会議には、企業法務で著名な法律実務家の方が要職に就いておられますし、なによりも市長自身が法律家ですから、このような問題はすでに検討されているものと推測いたします。しかし、提案を受ける側の一般株主としては、定款の変更にどれほどの意味があるのか、どうしても知っておきたい前提問題かと思われます。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年4月2日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。

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